青木家の幸せ

@scarlet-jp

第1話

「パパ、いい加減おきなよ!」


娘の声で目が覚める。また昨日と同じ今日が始まる。年頃の14歳、声変わりもして女性らしくなった透き通る声だ。


「私部活あるから。あとよろしく」


玄関で娘を見送る。後ろ姿も妻に似てきたかもしれないと思いながらテーブルに向かう。少し冷めた目玉焼きとトーストが置かれている。7時20分の天気予報を見ながら口に詰め込み、身支度を済ませ仕事に向かう。住宅街の坂道を原付でゆっくり登る。いつも通りである。


俺の名前は青木順次。妻に先立たれ、娘の小春と2人暮らししている38歳のおっさんだ。田舎でもなければ都会でもない、工業が少し栄えたの高海町に住む平々凡々、力仕事と愛すべき娘だけが自慢の男。


「おはようさん!」


娘とは違う低くて張りのある大きな声。仕事場の社長、藤田優希の声だ。


「いい加減原付変えようぜ?変な音でてっからお前が来たのが遠くからでもわかるぜ?」


10年乗り込んでる愛車だぞ?とはぐらかして仕事の準備をはじめる。優希は社長であり俺の昔からの親友だ。


「ほんじゃあ2丁目からな。みんなよろしく頼むわ。」


藤田屋はいわゆる便利屋。今日は月に数回ある不要品回収の日だ。少し体が痛くはなるがこれもいつも通り、見慣れた作業員5人でテキパキやれば午前中にはある程度片付くだろう。


桜がだいぶ散ってきた4月。いつもと変わらぬ1日。幸せを幸せと感じない日々が永遠と続いていくと思っていた…


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