第32話 二度目まして / 縄文part2
昨日も来たような気がする白い世界。
でも昨日の夢をハッキリとは覚えていないし、[夢の中で夢を見た]のかもしれない。真相は謎のまま迷宮入りコース。
ま、取り敢えず話し掛けよう。
「多神さーん!こんばんはー!来ましたよー」
おーいおーーいおーーーい。
心の中でさらに呼び掛ける。
「はぁ………そんなに呼びかけなくても聞こえている」
まさかのお疲れ模様。
疲労している身体に元気な人間は、シンプルに嫌がらせの類いになってしまう。空気を読めないと言われまくるうちでも、相手との温度差くらい分かりますとも。伊達に30年も肺呼吸をしていません。
「今回は割りと自分らしくまとめてみたんですけど、どうですか?あと……多神さん大丈夫ですか?」
「………」
「………」
何だろう、この沈黙は。
馴れ馴れしくし過ぎでイラっとされているのかしら?熟年夫婦でもカップルでも無いから、非生産的な沈黙がしんどい。
待てよ……もしかして本当に親友かどうか試されているとか?
……だとしたら、まだうちらは友達以上親友未満だったって分かりましたよ。これからに期待ですね。
「……まとめ方は何度も言うように、麻来に一任しているから内容が的外れで無ければ大丈夫だ。強いて言うならば、所々に一言自分の意見を挟むのが気になったくらいだ」
懐の深い編集長のようなご意見ありがとうございます。
ただ敢えて言わせていただきますと、一言だけに自分の欲望を抑えたことを評価して欲しかったです。本当はもっと色々書きたかった。
でもってうちのもう1つの質問は無視ですか?
「はぁ分かりました。……で、多神さんは元気ですか?」
「何故そんな質問をする?」
お、壁作って来た。
隠したいなら「元気だゼ☆」って答えれば良いものを、神様だから嘘をつけないのかしら。インド人と同じで。
「日本史のまとめがどうか聞こうとしてたのは、正直ついでだったんですよ。なんか多神さんが平気かどうか聞かなきゃって、自分でも何でか分からないんですけど思っちゃったんです。で、どうなんですか?」
「……もう大丈夫だ」
『もう大丈夫』って事は、過去に大丈夫じゃない事があったってことですか。でも今は大丈夫なら良かったですね。今を生きているわけですし。
「これからも大丈夫な状態を維持出来ると良いですね。それと…お金確認しました。ありがとうございます!社会復帰をする前に自分で収入を得られているようで嬉しいです」
凄く最近にもお礼を言った気がするけど会話のシミュレーションが趣味だから、それと記憶がすり替わっているだけかもしれないので改めて言っておく。感謝は重複しても嵩張らないのでOK。
「……そうだな。お互いに頑張ろうな」
「ですねー。ではまた何かあれば宜しくお願いします。おやすみなさい」
「……あぁ」
終始疲労感満載。1番疲れを感じさせてきたのは『お互いに頑張ろうな』の時でしたね。気分は会社の同期。つまりは戦友ですね。
一緒に戦場を駆け抜けて、生き抜いて、定年と言う終戦を迎えたら親友にクラスアップするコースですか。分かりました。
ピッピピピピピピピピピピッ!てしっ!
でもですね、それには………
「……あっ…安眠を手に入れられないと戦い抜けないっ…!」
11月24日(土) 曇り 朝
「みーち!本当の今日は何の日だったか覚えてる!?」
「んあ?」
ハニートーストを美味しそうにモグついているところに質問を投げ掛けたので、一瞬で眉間に皺が寄った。ごめんなさい。
しかしながら、回答者は焦ることなく口内のパンを全部飲み込んでから紅茶で喉を潤し、ほっと一息ついてからこちらを見た。
「んー…実質去年ってことでしょ?あーちのお見舞いでこっち(東京)に来たかな?」
おおーっ!目の前がセピアから鮮やかに色付いて行くようだ。
今、うちの目はキラリと光って、血圧も正常値になっている自信がある。(万年低血圧)
「正解っ!ちなみに昨日東京に来て、今日はお見舞いに来てくれた日だよ」
「んな細かくは覚えてないわ」
ですよねー。
みーちは『かなちゃんと教育テレビとお昼の情報番組にしか詳しくない。他はもうどんどん忘れていく』って常々言っているもんね。
本当の今日の入院は持病の線維筋痛症とは全く関係無く、市の無料健康診断で発見した筋腫を取る手術をするためだったんだよね。母方のばーさんが「なんで麻来ばっかりこんな病気になっちゃうのかしら…」って言ったのに対して、「ねー」って返したのを良く覚えている。また、検診は本当に大事だと強く思ったことも良く覚えている。
人生で入院した回数はもう両手の指の数を超えちゃっている。
でも6年前はまだ入院初心者だった。お見舞いに来てもらうのも、ちょっとした非日常のソワソワするイベントだったのである。
《小話 入院を伝える》
人生で2度目の入院が決まった。
平日は毎日みーちと電話をしているので、その事を話題の1つとして話す予定だった。
ちなみに当時のみーちはまだ新婚ホヤホヤで、花奏ちゃんはもちろん生まれてはいなかった。
シンプルに「今度また入院するの」と伝えれば良いものの、この時のうちには魔が差した。
悪魔がハッキリと告げた。
「お見舞いに絶対に来てもらうために、一芝居打て」と。
天使は不在だったため、素直に悪魔の甘言に従った。
「みーちは……うちがもし入院したらお見舞いに福岡から東京に来てくれる?」
とてつもなく神妙に聞いた。
テレビ電話や直接面と向かっての会話だったら、この企みは失敗に終わっていた自信がある。みーちの顔を見てフヨフヨと口元が笑ってしまい、不興を買っていたはず。
現に、聞いたあとに笑いを堪えるのに必死だった。
みーちはうちの表情がどうなっているか分からなかったので、
「え?当たり前じゃん!飛んで行くよ!」と真っ直ぐに言ってくれた。……この時のみーちは人生経験がまだ浅くてピュアだった。
その返事を受けて、「言質とったぞーっ!」と鬨の声を上げなかった判断は正しかったと思う。
でもこの時に悪い顔になった瞬間をお母ちゃんにバッチリ目撃され、「悪いやつ!」と言われた。……通話をスピーカーモードにしていなくて正解だった。
「本当に来てくれるの…?」
母親の叱責を無視して、ちょっと泣きそうな声で続けてみた。笑うのを我慢していたのもあり、少しばかり声が震えたけど、それも演出の1つになっていたと思う。
「本当だって!あーち、また入院しそうなの…?」
心配そうな声で肯定してくれた。
……………ふふっ。
時は満ちた。
ネタばらしをしよう。
「みーち来てくれるんだよね!?丁度1ヶ月後から入院だよ!はい、約束ーっ♪」
「えぇっ!」
我ながら人情に溢れた良い片割れを持ったと思った。悪魔もたまには良い仕事をしてくれるもんだ。
実際に1ヶ月後、本当にお見舞いに来てくれた。
入院先は東京じゃなくて、家から片道3時間かかる千葉県だったけど。感謝してるよ。
えぇ、そうです。
うちは「ねぇ、◯日って空いてるー?」と、何の誘いかを一切言わずに、一方的に予定が空いているか否かを確認するセコい手……言うなれば【元祖アポ電】の応用をしました。
元祖アポ電をやられても、うちは「なんで?」って聞き返せる人間。だけど気が弱かったり、相手を思いやれる人達は「空いてるけど、どうしたの?」と返事をしてしまうアレ。
良好で円滑な人間関係のためにもダメ、絶対なアレ。
この禁じ手はその後しっかりと封印した。
人にやられて嫌な事は人にしない。
お見舞いは強要するものではなく、相手の厚意による感謝すべきもの。
完
少しばかり過去を懐かしんでいる間に、みーちは完食していた。
主婦にとって朝は戦争だから、のんびり食べている場合じゃないんですよね。
でも話しかけちゃう。
「そうそう、今日の夢で多神さんが疲れきった感じで『お互いに頑張ろうな』って言ってたよ」
「なら、とっとと頑張んなよ」
みーちはうちに一言をぶつけた流れで立ち上がり、空になったお皿を持って台所に消えていった。
……今、話し掛けなければ良かった。
せめてお風呂上がりの1番心身ともにサッパリ&リラックスしている時にすれば良かった。
生き急いだばかりに、多神さんの言葉が無駄打ちになってしまった。ごめんなさい。
うちが人生で何度もからかってきたが為に、みーちは隙の無い性格になってしまったの?
でもね、もううちの身体は打てば響くみーちの反応が好き過ぎて、定期的にからかわないとダメになってしまっているの。
みーちのうちに対する当たりを以前のように柔らかく純粋なものとするためにも小澤麻来、今日もユルっと頑張らせていただきます。
*****
夕方 曇り
「でぇーーーーきぃーーーーーとぅわーーーーーっ!」
ちょっと頑張りすぎたので、少し完成が遅れてしまった。(当人比)
みーちも本からウェブ小説に移行していたので、それも時間の経過を物語る一因になっている。お待たせしましたね。
「今日は縄文時代の真ん中だっけー?」
「そうだよー。さ、どうぞ」
スマホを律儀にもテーブルに置いてから、身体1つでこっちに来てくれたみーちに着席を促す。
「ふう、どれどれ」
【わたにほ】
《縄文時代part2》 ワイドショー風に読んでね♪
※前回の文化ごとにまとめたやつの続き!
〔前期ー約6千年前~約5千年前〕
□前期は特に太平洋側で大規模な[貝塚]が形成され、<定住>がさらに定着した!
この頃、日本列島に7~8の土器文化圏が成立していた模様。
〈前期の土器はコレっ!〉
・
〈代表的な遺跡はコレっ!〉
◎
・草創期~前期の2.5mある貝塚
・海抜下の貝層から木製の漆塗りの[
・[
・アフリカ原産のヒョウタンの種子も出てきた!←大陸と交流があった証拠。
その他にも漁に使用した道具や土器、弓など当時の生活を伺い知ることが出来るものが大量に発見されている。
■この時世界では…■
紀元前3500年頃(約5500年前)、メソポタミアに都市国家が出来、最初の文明であるシュメール文明が興る!
〔中期ー約5千年前~約4千年前〕
□中期に入ると東日本では広域の交流や交易が活発になる!
交易品の中で特に多いのが
□人口は縄文時代で最大の26万人に!*1
〈中期の土器はコレっ!〉
文様はさらに複雑で華麗になり、縁の波打ちは強調されている。
基本のパターンを共有しながら、地域ごとに個性が出てきた。
・
ち・な・み・に!
【国宝指定番号1】は、新潟県の笹川遺跡から出土した火炎土器で、約5千年前のものなんですっ!
「火炎型土器No.1」や「
〈代表的な遺跡はコレっ!〉
◎三内丸山遺跡 @青森県
・面積は約35ha *2
・約1500年に渡り、最大で500人が暮らしていた!
・1623年(元和9年)に土器を発掘したと『永禄日記』に記述あり!
・竪穴住居/墓/掘立柱建物/盛り土/ゴミ捨て場/道路etc…が計画的に配置されている!←統率者が居た!?
・クリを栽培していた!
・イグサ科の草で編まれた袋を発見!中には半分になったクルミが……。←持ち歩いていた?
・
■この時世界では…■
紀元前3千年頃(約5千年前)、エジプトに統一国家が出来る!
紀元前2500年頃(約4500年前)、インダス文明が興る!
○まとめ○
本格的な定住による暮らしの特化が文化を地域ごとに濃くした。
陸路だけでなく、丸木舟を使った遠方との交流や交易も活発に行われた。
まさに縄文時代の全盛期だった。
*1:人口26万人は東京の府中市とほぼ同じ!
*2:35haは東京ドーム約7.5個分!サッカー場だと約50面分!……東京ドーム大きいな。
(1248字)
☆諸説あり
☆あくまで個人の意見です
To be continued…
「明日で縄文が終わってまうねー」
「……約2千5百年前に終わってんじゃん」
何、そのイケてるツッコミ。
思わずニヤけてしまった。
そう言う会話をしてくれる人、中々周りに居ないんだよね。てか、みーちしか居ないんだよね。貴重な存在です。
「質問をお願いしますー」
「うーん……」
みーちは何を聞こうか迷っているようで、ページを何回かマウスで上下に動かしてから口を開いた。……な、何を聞くつもり?
「そうだ……漆で縄文人はかぶれなかったのかね?」
「え?」
それ本当に興味あるから聞いているのかい?
うちが漆に精通しているなんて
「さ、流石に素手で直には塗らなかったでしょ。それに骨しか残ってないから、かぶれていたかどうかなんて分からないよ。人によっては漆でかぶれない人もいるし」
「確かに」
みーちは浅く複数回頷きながら、また画面の方を向いた。
特に質問なんて無いけど、頑張って絞り出して聞いてくれた質問だったの?
「じゃあー…翡翠ってまだ採れるの?」
何故、縄文時代特有の事について質問をしてくれないのか。
いやいや……聞いてくれることに感謝せねば。
「まだ採れるみたいだよ…。新潟に行ったらお土産に良いね」
「ふーん」
キンちゃんから完全に視線を離した。質問が尽きたサインなんでしょうな。
ならば今度は此方から仕掛けるっ!アサキのターンだ。
「今度はみーさんに質問するね。メソポタミアとエジプトとインダスの3つの文明を一言で表してみてー」
「え゙ぇっ!?」
ヤクザか。
心底嫌そうな顔で睨んで来ないでよ。
条件反射で眉毛が吊り上がるってどんな生活を送っているの?
「うえー……一言で言うなら大きい河があって良かったよね♪って感じ」
「おお……」
反社っぽい顔から一瞬でキャピっとした笑顔にチェンジしたから圧倒されてしまった。
想像していた一言じゃなかったし、それだと河は凄いってしか思えないよ…。
「次はー…三内丸山は1500年も繁栄していた訳だけど、なんで終わりを迎えたと思う?」
「ふむ……」
斜め下から斜め上に顔を向けて考えている。端から見たら答えを物理的に探しているみたいだよ。何処にも書いてないよ?
それにしても、みーちはなんて言うのかなー…。
「盛者必衰で、永遠に続くものは無いから」とか答えるのかな。
お、こっち向いた。答えをどうぞ。
「三内丸山は寒くなったんじゃない?」
な、なんだと……。
「はわっ…何で分かるのっ!?……そうだよ、約4千年前に平均気温がそれまでより4℃くらい低くなって栗が出来なくなっちゃったの。で、人々は分散・移動したんだってー」
「ふっふっふー☆」
みーちはスピリチュアルな回答をすると思ったのに。
現実を見すぎジャマイカ?
ドリーミーだと子育てなんて出来ないって事なの?
少し離れて暮らしただけでリアリストになってしまったみーちに悲しんでいたら、その当事者から冷ややかな視線を惜しみもなく向けられた。
「ほら、もうクイズ終わったんでしょ?夕飯が遅くなるよ。何が良いのー?」
「野菜いっぱい食べたい!あと三色丼!」
「ほいよ」
本当はラーメンが食べたい口になっているけど、みーちは1日1回は白米を摂取したい人だからね。明日のお昼を飯物にしてもらって、夕飯をラーメンにしてもらおう。我ながら計画的だわ。
「ふふふふふっ♪」
「え、何?怖いんだけど…」
……おっと、笑い声が漏れていたようだ。
11/24(Sat)
縄文をまとめていて、ふと思い出したのは出張太郎であるみーちの夫のいっさんの言葉だった。
うちが「みーちと花奏ちゃんがいるから出張行くの嫌ー?」と聞いたのに対して、家族を溺愛するサラリーマンは言った。
「家に居てくれるって分かっているから、逆に安心して出張に行ける」と。
これを言われたときは、「独身の方が家を気にせず何処にでも行けると思うけどなー」と思ったし、いっさんにも実際に言った。何言ってんの?と暗に滲ませながら。
でも、定住が本格的になると同時に他の地域との交流が盛んになったとあって、自然と腑に落ちた。
帰る場所、自分の所属する場所があるから外に行けるんだと。
いっさんは縄文人の心がある義弟だった。多分。
明日はシンプルに醤油ラーメンを食べよう。
おわり
[字数 5240+1248=6488]
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