第33話 実々:部屋と『彼女もどき』と私


11月24日(土)  



「みーち!本当の今日は何の日だったか覚えてる!?」



朝の穏やかながらも小忙しい朝食の時にあーちがいきなり『記念日、記念日』と面倒くさい彼女のように聞いてきた。



「んあ?」


私は例の如く、切り込みを入れたトーストに本日は蜂蜜をかけ、蜂蜜とバターが染み込んだトーストの真ん中部分を、今まさに絶賛堪能中のところだった。


その至福のひと時を面倒くさい彼女もどきに邪魔されたので眉間に皺が瞬時に寄ってしまったのも不可抗力である。



なんか即答するのもシャクなので、取り敢えず口に残ったパンを飲み込んでから紅茶を一口飲む。至福のひと時を邪魔されたイライラがほんの気持ち収まったので回答するべく私は彼女もどきの方に目を向けた。



「んー…実質去年ってことでしょ?あーちのお見舞いでこっちに来たかな?」



「正解っ!ちなみに昨日東京に来て、今日はお見舞いに来てくれた日だよ」



私が回答した途端あーちは嬉しそうに瞳を輝かせ、そして流石の彼女もどき……頼んでいないのに追加情報も加えてきた。


「んな細かくは覚えてないわ」


お見舞いって言葉が出てきただけで十分でしょ……。確かなんかデカい筋腫を取る手術だったかな?家から徒歩で行ける病院で良かった。


……じゃないとかなちゃんがまだそんなに疲れていないはずなのに

『なんかぁ〜、ちゅかれちゃったの〜……(チラッ)』という発言を沢山連発からの、

『抱っこ抱っこ‼︎』と私の目の前に立ちはだかり暴れてしまう所だった。


パンを完食し、よし次は洗濯だ、と思いながら立ち上がろうとしたらあーちが話しかけてきた。……なんだよ。



「そうそう、今日の夢で多神さんが疲れきった感じで『お互いに頑張ろうな』って言ってたよ」


「なら、とっとと頑張んなよ」



凄く、凄くどうでも良い内容だった。私の返答は最適解だったと思う。他に適したあーちにかける言葉があったのなら教えて欲しいくらいだわ。



………さ、洗濯しよう。



お昼は……昨日の夜ご飯の時に鯖に添える大根おろしをあーちが調子に乗っておろしすぎたから……よし、おろしうどんだな。



*****



夕方過ぎ、今日はもう完成しないのかな?と思っていたら……



「でぇーーーーきぃーーーーーとぅわーーーーーっ!」



……なんだか聞こえてきた。



……はぁ、



……行きますか。



ぽてぽてぽて……。



ピタッ!……ストンッ。




「今日は縄文時代の真ん中だっけー?」


「そうだよー。さ、どうぞ」

 


あーちがいつもの如く場所を譲り、私は目の前のキンちゃんに眼差しを向ける。


……おっと疲れ目が。



「ふう、どれどれ」




……………………。[わたにほの内容]




(……府中市26万も人口居たのか……。)



私がキンちゃんから目線を外したタイミングに合わせてあーちが、


「明日で縄文が終わってまうねー」


と、少しもの寂しそうに言ってきた。



………。



「……約2千5百年前に終わってんじゃん」

 

……あーちよ、平成の終わりの時でもそんな寂しそうな顔してなかったろ‼︎


あーちは私のツッコミに嬉しさを隠しきれないようにノスタルジックな表情から一変し……ニヤついていた。



そしてニヤつき顔のまま、

 

「質問をお願いしますー」

と言ってきた。………が、



「うーん……」


………うーん。特に聞きたいことってないんだよねー……、でもあーちが頑張って纏めてるから何かしら聞いてあげないと悪いし……。私はキンちゃんのページを何度も上下にスクロールして質問の種を探す……。


……おっ!これなら……



「そうだ……漆で縄文人はかぶれなかったのかね?」


……どうだ?



「え?」


あーちは予想外の質問が来たからか目をまん丸に見開いてきた。そして焦ったように、


「さ、流石に素手で直には塗らなかったでしょ。それに骨しか残ってないから、かぶれていたかどうかなんて分からないよ。人によっては漆でかぶれない人もいるし」


「確かに」



……確かに。

選ばれし手ってあるらしいしね。ふむふむ。



……はぁ、次の質問もまた考えなきゃ……。



……おっ!これなら……



「じゃあー…翡翠ってまだ採れるの?」


なんか縄文とか弥生の人って翡翠の首飾りとかしてるイメージあるんだよねー。あの独特のエメラルドというか……。



「まだ採れるみたいだよ…。新潟に行ったらお土産に良いね」


「ふーん」


まだ採れるんだー。新潟に行く用事は今のところないけど、いつか行った時に見れるかな?


あとは〜、………もう特にないな。うん。



質問が尽きたのであーちの方を振り向くと、あーちが待ってましたとばかりに口を開いてきた。



「今度はみーさんに質問するね。メソポタミアとエジプトとインダスの3つの文明を一言で表してみてー」


「え゙ぇっ!?」

えぇーーっ⁈日本史関係ないじゃん。


ついつい反射で眉毛がちょっと上がっちゃったよ。私東洋史専攻だったんだよ?三大文明なんて高校の授業でフワッとやるくらいじゃん‼︎



………う〜ん………



「うえー……一言で言うなら大きい河があって良かったよね♪って感じ」


これだろ。黄河文明も含め四大文明は大河の側で発展したんだから。あれだ、『真水まみず最高ッ‼︎』ってとこでしょ。思わず眉毛が上がってたのが笑顔になったわ。生命の母は海だけど、命を繋ぐのは真水だよね。


「おお……」


あーちは一言漏らしただけで、お返事をくれなかった。……なんでや。



そしてそのままの流れで、

「次はー…三内丸山は1500年も繁栄していた訳だけど、なんで終わりを迎えたと思う?」と、聞いてきた。


「ふむ……」


三内丸山は青森の津軽半島の方でしょ?んであの辺は豪雪地帯……。1500年も経ってれば地球の平均気温も変わるから……これだな。



「三内丸山は寒くなったんじゃない?」


どやッ‼︎正解でしょ?っという顔をしてあーちの方をみたらあーちはまたびっくりした顔をしてきた。


「はわっ…何で分かるのっ!?……そうだよ、約4千年前に平均気温がそれまでより4℃くらい低くなって栗が出来なくなっちゃったの。で、人々は分散・移動したんだってー」


「ふっふっふー☆」



やっぴー♪

なんだかあーちに勝ったキ・ブ・ン♪



そして私は上機嫌のまま、あーちに


「ほら、夕飯が遅くなるよ。何が良いのー?」

と尋ねた。すると、あーちから即返事がきた。


……さては朝から決めてたな?


「野菜いっぱい食べたい!あと三色丼!」

「ほいよ」



三食丼かぁ〜、かなちゃんが生まれる前まではたまに作ってたけど、かなちゃんは出来上がるスピード重視且つ、品数を求めるからおかず3つを一つに纏めるとまだ作らないとになってしまう……。

その点、あーちは丼一つと汁物があればOKな人間だからラクだわ……。


鶏そぼろと、炒り卵……あとは冷凍のほうれん草をナムルにすれば良いか☆

と、ひとり頭の中で冷蔵庫の中と相談して献立を決めていたら……



「ふふふふふっ♪」


……あーちから何か音漏れしていた。


「え、何?怖いんだけど…」



その後も暫く音漏れをしたまま、あーちはキンちゃんを片付け、お米を研いでくれた。



………チラッ。



……よしよし、白米Onlyだ。




11月24日(土)


今日はお昼は昨日の大根おろしの残りでおろしうどんに、夜ご飯は三色丼にした。大根はやっぱり頭の部分に近い方が甘くて美味しいと思った。

あーちへの質問が余り浮かばないでいたら逆に質問されて少しビックリした。


夜ご飯に味噌汁を作ったらあーちは味の感想は言わずに、ただただ頷いていた。亭主関白を気取られたんだろうか……。

                    end.

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