第31話 実々:食パンに切れ目は大切


11月23日(金)



みなさん、グッドモーニング☆


今日の朝食は食パンに右上から斜めに『5』、右下から斜めに『3』切れ込みを入れて焼き、そこにちょっと罪悪感と背徳感が出る量のバターをたっぷり染み込ませたトーストです。


食パンのCMでパンに切れ込みを入れて焼き、その上にバター♡のアレです。


右上と右下のどちらにも、パンの角に切れ込みを入れるのがポイント。耳のところも固くなり過ぎず美味しく食べられますよ。(←個人の見解によるもので、この作品とは一切関係ありません。)




実々の小話⑦ パンの切れ込み


いつだったかは忘れてしまったが、テレビで『食パンに切れ込みを入れるだけで、いつもよりグッと美味しくなる』とやっていた。私は食パンのCMでやっている切れ込みはオシャレの為だけではなかったんだとその時に初めて知った。


しかし、半年ほど前まで、朝は小さいかなちゃんに、そして一通りの家事に手が掛かり過ぎて朝食を愉しんで食べるという余裕がなかった。


それにパンに切れ込みを入れるが為に、包丁とまな板という洗い物が増えるのが嫌だった。


しかし、私の中のリトル実々が囁いてきた。



『それで良いのか?』と。



『1日の活力は朝食からじゃないのか?洗い物が増えるくらいなんだ、結局はお皿なりコップなり洗い物は絶対に出るんだから、もう今更一つや二つ増えたところで変わらないだろ。』と、いつになくリトル実々は饒舌だった。



本体の私はリトル実々の囁きにぐうの音も出なかった。それからというもの私はピザトーストや具材をパンの上に乗っけて焼く時以外はパンに切れ込みを入れることにした。



すると、



何ということでしょう……朝から何だかほんのり幸せな気持ちに♡



そしてさらには、



何ということでしょう……かなちゃんが私のトーストを奪う量が増えたではありませんか……oh my god‼︎




『美味しく食べてくれてママは嬉しいよ……でもね、ママもお腹空いちゃうよ。』という言葉を半分になってしまった食パンと一緒に飲み込んだ回数は数知れず……。



そして私は食パンに切れ込みを入れ続けること数回………。


私は『食パンの切れ込みは何回入れるのが1番美味しいのか』という実食を兼ねた研究の末、遂に黄金比率の切り込み回数を発見し、『いつものトーストが何だかワンランク美味しい』という幸せを手に入れたのだった。

             end...


*****



私はトーストを一口齧りながら向かい側に座るあーちに、


「あーち今日は目覚まし止めるの早かったねー。その意気だよ」


あーちもやれば出来るじゃないか、という気持ちを込めて褒めてあげた。



「うーん…」


あーちは何だかスッキリしない顔だ。……褒めてあげたのに。



そして少し眉間に皺を寄せながら、


「あのさ…なんか嫌な夢を見た気がするんだけど、モヤモヤって膜が張ったみたいに覚えてないんだよねー…」


と、相談してきた。

よく覚えていないってことはつまり、



「つまり、たいした内容じゃないって事でしょ。……それよりホット牛乳にグラノーラを入れて食べる方が本当に許せないわ」


…温いグラノーラって嫌だな。思わず顔を顰めてしまった。しかしあーちは気にすることなく、


「朝は体温が低いから」


と、急に美容家みたいなことを言ってきた。



……スープのCMかッ‼︎と、心の中で突っ込みを入れておく。



「ま、大事な事だったら思い出すか」

「そうそう。ほら、早く食べて」



こっちは片付けやら忙しいのよ!と念を送っておく。

するとあーちからは、『お昼ご飯は昨日の残りで雑炊だよ〜』的なのが送られてきた……。



コイツ、直接脳内に……。



お昼はあーちが念で予告してきたあーち作の昨日の白菜のうま煮を使った雑炊だった。卵に火が通り過ぎてて、何か違う意味で『雑炊』だった。


「うん。おいしい」って棒読みになってしまったのも仕方がないと思う。




そして昨日外出することが出来たので今日はのんびりと小説を読んだりお茶をして過ごしていたらあの時間が来た……。




「出来たたたたたたたたたった♪」


「……ちっ!」



おっといけない☆読んでるところのキリが悪かったのと、お昼の雑炊を思い出してちょっと音を零してしまった。……チラッ……気づいてないな。良し。


本に栞を挟み、真っ直ぐあーちの方へ向かい、定位置に座る。

あーちがちょっとビクッとしていたが気にしない。



「はい、チェックしますよー」





……………………。[わたにほの内容]




「………。」




………『白井やったな。』って何?





「長かったでしょー?縄文は3部作にする予定だよ」


「うん……」



……なんでかな、3部作って言い方が気になる。『長いから3分割したよー』で良いだろ。

ついつい画面を見る表情が死んでしまうのも許して欲しい。



しかし、あーちはやりきった‼︎という達成感でキラキラ瞳を輝かせていた。



「では、質問をお願いします」



私はゆっくりと瞼を閉じ、「ふーっ」と息を吐いて自分の中に沸いてくる憤りを抑え付け……られなかった。



「やってくれたな……」


「はひ?」



あーちは予想外のコメントだったからか、間抜けな返事になっていた。



「ついにナレーションの声の指定に飽きたらず、文章もいじってきたか……。いったいあーちはどの立場でモノを言っているの?」




『白井やったな』じゃない、あーちがやったな。




「ふへ?ワイドショーでMCに情報を伝える進行役だよ?リポーター的な」



リポーター?私はあーちの顔と画面を見比べてしまう。思わず「はぁ…」と息が溢れてしまった。


あれか?あーちはミステリーハンター的な感じなの?だとしたら『♪デデッデデッデー』ってスーパーあーち人形がボッシュートされちゃうな。あーちという難問に私は答えられない……。



まぁ取り敢えず……質問するか。



「まぁこれも追々考えていこうか…。で、質問ね。アメリカ人のモースはどうして日本で採掘してるの?土器の紐が細くなっていくのは手先が器用になってる証拠?」



「お、おおう……」

「モースは東京大学で生物学を教えるために来日して、横浜から東京に行く汽車の中から貝塚を発見したの。で、後日掘ってみたら縄文土器が出てきたよって話。……でさ、今気付いたんだけど1877年って[西南戦争]があった年だよね。歴史的な発見と戦争ってなんだか温度差感じるよねー」



「知らんがな」



西南戦争っていうと西郷どんか。大河ドラマでもやってたよね。……私は観てないけど。



「で、土器の撚糸文様が細くなっていくのは、技術の向上ももちろんあるけど、[凝り]が出てきたのもあるんじゃないかって論文にあったよ。これはうちの考えが強いけど、温暖化で食料を求めていろんな所に行く必要が減って、今いる<場>に留まる時間が出来たってのもあるんじゃないかなー」



『暇』と『心の余裕』が文化を作ったんだな。うんうん。



「ふーん。じゃあいつから縄文とか紀元前の調査を日本は始めたの?」



素朴な疑問をリポーターに聞いてみる。しかしリポーターは、


「……知らんがな」


の一言で終えてきた。



『冷たいがな。』江戸時代の人とかでも物好きがいて調査とかしてたら面白いのになぁー。でも日本はずっと鎖国してたし、世界の歴史とか地球の誕生とかそういう概念自体、明治に入ってからなのかなぁ?




「まぁ、頑張って読み手が飽きないようにまとめようとしたあーちの気持ちは伝わったよ。夕飯は何が良い?」



「勤労感謝の日だから、今日もうちが作ー……」

「あーちは明日の構想でも考えてな!で、何食べるの!?」




何かリビングの後ろのキッチンからあーちが料理してる音を聞いてるとどうしようもなく落ち着かない……。感謝を伝えたいのならどうかじっとしていておくれ……。



あーちは私の食い気味の姿勢にビックリしつつも、しっかり


「鯖でお願いします」


と、リクエストしてきた。



…そのリクエストお応えしましょう。グリル洗っておくれ。



「お米を研ぐのと、大根おろしますよー」

と、あーちが敬語で言ってきた。



……………………。



結果としてあーちは晩ご飯でも余計なことをしてくれた。


調子に乗って大根おろしを大量に作り。そして私が気付かない内にもち麦をこっそり入れて米を炊いた。炊飯器の蓋を開けると純白の海がお釜いっぱいに広がっている筈だったのに、蓋を開けたら白と茶色のまだらな海だった……。


思わず瞬間的に、

「食感の邪魔者はいらない!」と叫んでしまった。




11月23日(金)


今日は一日お家で過ごした。

あーちが『わたにほ』の纏め方を変えてきた。

あーちが米にもち麦を入れてきた。

あーちがグリルを洗ってくれなかった。



もう少しお母さんの勤労を感謝して欲しいと思った1日だった。                


             end.


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