第30話 【自分】を出してみる / 縄文part1
おぉ、久しぶりの白い世界。
墨汁の匂いもそのまんまだ。多神さんはボールペンやシャーペンは使わないんだろうか。
折角なのでこちらから話し掛けてみる。
「お財布の中をしっかり確認しました。ありがとうございます。わざわざ聞く程の質問は持ち合わせていないんですけど、もしかして今日日本史をやらなかったことを
呼び出しは小中高1度も無かった気がする。いや、もしかしたらあったかもしれないけど、思い出は美しくなりがちですから。
「……確認するのが遅い。そして毎日やる必要は無い。寧ろ、休まずやろうとしていた事に驚くわ!」
うちは、多神さんの声がどんどん大きくなっていく事に驚きましたわ。楽譜のクレッシェンドの記号が鮮明に思い出せる程に。何か込み上げてくるものがあったんですか?
「【継続は力なり】は最早廃れるべき言葉なんですね。で、うちに用があるんですよね?」
受験の時に受験生がこぞって使用していたご利益のある鉛筆にも、【継続は力なり】って確か書いてあった気がするけどなー。効率重視の時代の流れには勝てないのかな。ちなみに、うちは【自信は努力から】の鉛筆が好きだった。
「え?………ゴホンっ!勉強を継続するのは良いが、無理して毎日まとめる必要は無いってことだ。あと、用があるのは
「はへ?」
とりあえず最初の『え?』って完全に素でしたよね?
そしてとうとう言葉の中に、(ちゃんと丁寧に言わないと分からないのか…この馬鹿は)ってニュアンスを隠しもしなくなりましたね。唯一無二の親友っぽくなってきましたな。
でも、用があるのお前の方だろって言われても……むむーん………んんっ!
「そうだ!烏に目を付けられたかもしれないんですが、うちはこの町から去らないとヤバいですか!?あ、あとその烏にめっちゃ話し掛けられた気がするんですけど、頭ヤバいですか!?」
本当に聞きたい事あったわ。
てか、多神さんはうちの潜在意識までお見通しなんですか?なら、「神界のフロイト」ってこれからは呼ばないと。
それにしても日本史どころじゃなくなる事件があったばかりなのに、すっぽり頭から抜けていた自分の神経の図太さに驚き。うっかり八兵衛も吃驚だわ。
「た……烏様は大丈夫だ。汝が恐れているような事は起きない。それよりも何かいつもとは違った事が無かったか?」
烏様とは。
多神さんは鳥信仰なんですか?確かに賢い生き物だけど、どのあたりに神秘を感じるんだろう。真っ黒具合?裁判官の
「ヤバい人間にならずに済むのなら烏についてはもう良いです。うーん…いつもと違ったのは、双子って短時間で2回もバレた事くらいですかね?また似てきちゃったとか?」
ずっと同じレベルで似ている訳では無くて、凄く似ている期間とあまり似ていない期間が周期的に来るんだよね。一緒に暮らし始めたし、同じ環境がそうさせるのだろうか。人類の神秘。
「近からず遠からずの回答だな…。その話し掛けてきた2人だが、実はー……がふっ!」
バタンッ!
え。
……がふって言った?
「えぇっ!?突然の吐血ですか!?多神さん大丈夫ですかっ!?もしもーし!」
事件です。
多神さんがお話し中に「がふっ!」ってなって倒れました。このままだとうちが容疑者になっちゃう…。会話しているだけで吐血させる人間だってみーちにレッテルを貼られてしまう。
「うぅっ……様どう…て……ですか?」
「多神さん!大丈夫ですかっ!?誰かそこに居るんですか!?何か言って下さーい!」
多神さんよりも上の身分の人が一緒に居るのだろうか?敬語で何か言ってた気がする。じゃあその神様が犯人?一大事過ぎる。
「おーい!多神さーんっ!聞こえてますかーっ?何を言いかけたんですか!?」
「………」
まずい。
だんだん身体が眠りから覚めていくのが分かる。何でよりにもよって声だけなんだろう。
大事な話だったなら面と向かってすれば良かったじゃないですか。なんで返事してくれないんですか。
心配しちゃうじゃないですか。
無事でいて下さいね、また明日質問しますから。
真っ白な世界から完全に離れる瞬間に、暖かい空気が肌を撫でるのを感じた。
ピッピピピピッ!ダンッ!
「なんかモヤモヤな目覚め……」
目覚ましを思いきり止めたから手が痛い。
凄く嫌な夢を見た気がするけど、良く覚えていない。多神さんが夢に出てきたような……いや、出てきたらハッキリ覚えているか。
「ま、朝ごはん食べてから考えよう」
11月23日(金)勤労感謝の日 晴れ 朝
「あーち今日は目覚まし止めるの早かったねー。その意気だよ」
「うーん…」
切り込みを入れまくってバターをたっぷり染み込ませたトーストを食べながら、みーちがお褒めの言葉を投げ掛けてくれた。毎朝朝食の内容を変えて楽しむ主婦の勤労に感謝。
「あのさ…なんか嫌な夢を見た気がするんだけど、モヤモヤって膜が張ったみたいに覚えてないんだよねー…」
お母さんに胸の内を吐露してみた。
「つまり、たいした内容じゃないって事でしょ。……それよりホット牛乳にグラノーラを入れて食べる方が本当に許せないわ」
「朝は体温が低いから」
うちの悩みは速攻でゴミ箱に捨てられた。お母さんは忙しいから相談相手には適していないことが分かった。
「ま、大事な事だったら思い出すか」
「そうそう。ほら、早く食べて」
うんうん。
みーちに「これ言おう!」って決めていた事を電話をする度に忘れ、やっと言えたのが1週間後だったとかザラにあるもんね。最近は確か…「ショッピングモールのお気に入りのお店が潰れちゃったよ!」って言い忘れていたな。
それにしてもみーちは本来の今日(過去の11月23日)について覚えているのかな?何にも言ってこなかったら夜に教えてあげよう。
今はとりあえずお昼は白菜の雑炊だと念を送っておこう。びびびびび。
*****
夕方 晴れ
「出来たたたたたたたたたった♪」
……ちっ!
え?舌打ちした?違うよね?本を思いきり閉じた音だよね?
お昼にうちが作った雑炊の卵に火が入り過ぎたのを根に持ってないよね?「うん。おいしい」って棒読みだったけど言ってくれたもんね。
「はい、チェックしますよー」
…いつの間にか距離を詰められていた。
【わたにほ】
《縄文時代part1》 ワイドショー風に読んでね♪
①縄文文化を分ける!
土器の形式で6つに区分 ※もちろん、あくまでも目安
1. 草創期[約1万3千年前~約1万年前]
2. 早期[約1万年前~約6千年前]
3. 前期[約6千年前~約5千年前]
4. 中期[約5千年前~約4千年前]
5. 後期[約4千年前~約3千年前]
6. 晩期[約3千年前~約2千5百年前]
②では、なぜ『縄文』と呼ぶのか?
1877年(明治10年)にアメリカ人のモースが大森貝塚で土器を発掘したっ!
モースはこれを“Cord marked pottery”と呼び、日本語で「索紋土器」と訳されていた。
しかし!
1886年に弟子の白井が「縄紋土器」と訳し、時代の流れで「縄文」になり今日に至るのである。
……白井やったな。
③縄文を文化ごとに見てみる!
〔草創期ー約1万3千年前~約1万年前〕
□縄文時代の幕開け□
約1万3千年前の最終氷期の終わりによって、地球の気候が温暖化に転じると共に縄文時代は始まった!
<暮らし>
住居:居所は洞窟や岩陰の利用が多いが、森を拓いた丘陵上の開拓遺跡もある。
だが!長期に渡る『定住』の段階までは、草創期はいかなかった。住居の数も数軒で、多くて10数人のグループであったと考えられる。
食生活:温暖化によりクリやドングリなどの森が広がるのと同時に、海流が活性化したことによって[漁労]が可能に!
食料資源の[採集]によって食の選択肢が広がったのである!
そして、手に入れた木の実は、上面に
道具と生活の知恵:森の中でのシカやイノシシなどの狩りは、[弓矢]やダーツ(投げ矢)が適しているため、それらの道具類も発展していった。
さらに!
[落とし穴猟]もさかんに行われた。穴の底に尖った杭を立てるなど、確実に獲物を捕獲出来るように工夫がされているものも発見!
<草創期の土器はコレっ!>
煮炊き用の深鉢型で、平底・丸底のものが多いのがポイント。
・
・
<代表的な遺跡はコレっ!>
◎
・高さ20mの屏風状に切り立った石灰岩の岩脈の先端にある。
・ニホンオオカミやオオヤマネコといった絶滅種も出土!
・長さ4.5㎝の石に上半分は乳房を、下半分の線は草を編んだスカートを推測させるものが出土した。これは日本人が衣服を着ていたことが伺える最古の資料とされ、また豊穣を祈った石製品と考えられている!
〔早期ー約1万年前~約6千年前〕
□温暖化がさらに進み、西日本一帯には落葉広葉樹の森が広がった。暖かさの到来によって植物性食料や漁労に依存する生活が色濃くなり、ひとつの土地に『定住』する傾向が強くなってきた時期!
□約7千年前は現在よりも2~3℃平均気温が高く、海面の高さも3~5mほど高かった!そのため、現在の海岸線よりも内陸深くまで海が入り込んでいたのである!これを[縄文海進]と呼ぶ。*1
ちなみに、早期における日本列島全体での人口は、2万人前後であったと考えられている。*2
<早期の土器はコレっ!>
形・文様ともにしっかりと作った深鉢の円形丸底や
・
・
<代表的な遺跡はコレっ!>
◎
・日本最古、最大規模の定住集落!
・52軒の竪穴住居を発見。これらは4時期に渡って建て替えられた跡があり、[定住]を裏付ける。
・貯蔵や墓として利用されたと思われる土杭や、燻製を作ったと考えられる
・板状の土板に乳房のような突起や手足を付けたような、初期の土偶のようなものも見付かっている!
■この時世界では…■
紀元前約6500年前(約8500年前)に長江流域で稲作が始まっていた!
○まとめ○ 草創期~早期
縄文時代の開始とともに、各地域でそれぞれの環境に適した新しい生業や文化が始まった。
四季の変化に対応し、集団での協働や分業といった社会システムも出現した!
まさに縄文時代の事前準備期間であった…。
*1:現在の平均気温は16.8℃(2018年の東京)
*2:人口2万人は埼玉県の滑川町とほぼ同じ。東京都で言うと日の出町の人口よりちょっと多いよ!
(1844字)
☆諸説あり
☆あくまで個人の意見です
To be continued…
「長かったでしょー?縄文は3部作にする予定だよ」
「うん……」
毎日読書漬けな上に、うちの日本史まで読んでくれるみーちは確実に活字中毒に片足を突っ込んでいると思う。でも99%は終わっているし、あと1%の辛抱だからね。ふぁいと。
「では、質問をお願いします」
みーちはゆっくりと瞼を閉じ、「ふーっ」と思いきり身体中の空気を出し切ってから目を開けた。心なしか怒っているような…?
「やってくれたな……」
「はひ?」
なんか知らぬ間にしでかしたかな?
まさか読んでもらっている間、みーちの足をずっと踏んでたとか?だとしたらスリッパの底が厚いから分からなかったよ。
「ついにナレーションの声の指定に飽きたらず、文章もいじってきたか……。いったいあーちはどの立場でモノを言っているの?」
「ふへ?ワイドショーでMCに情報を伝える進行役だよ?リポーター的な」
臨場感がいまひとつ足りなかったってことなのかな?
多神さんが『自分らしさを出してみろ』って言ったから実践してみたんだけど。如何せん文字だけだから難しさもあるよね。うちがイラストでも書けたら良かったんだけど、技術ゼロで絵心しか持ち合わせていないからね。あしからず。
みーちはうちの顔と画面をチラチラ見て、今度は苦笑しながら「はぁ…」と軽く息をはいた。幸せのストックがもう無くなってしまうよ?
「まぁこれも追々考えていこうか…。で、質問ね。アメリカ人のモースはどうして日本で採掘してるの?土器の紐が細くなっていくのは手先が器用になってる証拠?」
「お、おおう……」
まとめ方もタイトルと一緒で要検討なんだ…。一児の母である一色ディレクターからのOKを勝ち取るのは楽な道程では無いんだね。そして質問もばっちりあった。やり手な成人女性だった。
「モースは東京大学で生物学を教えるために来日して、横浜から東京に行く汽車の中から貝塚を発見したの。で、後日掘ってみたら縄文土器が出てきたよって話。……でさ、今気付いたんだけど1877年って[西南戦争]があった年だよね。歴史的な発見と戦争ってなんだか温度差感じるよねー」
「知らんがな」
……冷たいがな。
うちの中では心臓が少し早く鼓動を奏でちゃうレベルの嬉しい気付きだったのに。それにしても、明治をまとめている時はいったい何月になっているんだろうね。来年の夏かな?秋だったら色々と終わりだな。間に合わなくて神隠しだわ…。
「で、土器の撚糸文様が細くなっていくのは、技術の向上ももちろんあるけど、[
ほら、暖かくなると何だか活動的になるしね。4月になると「なんか新しい趣味でも始めようかな」ってなったりするし。縄文の皆さんも暖かいし時間も出来たしで心の余裕が生まれて、「ちょっと土器作りに本気を出してみるか!」ってなったのかも。
……うん、それは無いか。
「ふーん。じゃあいつから縄文とか紀元前の調査を日本は始めたの?」
「……知らんがな」
うちのまとめを読んだだけで、その疑問が出てくるのは何故?
それを知ってたら多分書いてるよ。てか、教科書に沿った内容をまとめているだけだよ?気付いて。麻来は歴史学者を目指してはおりません。
「まぁ、頑張って読み手が飽きないようにまとめようとしたあーちの気持ちは伝わったよ。夕飯は何が良い?」
「勤労感謝の日だから、今日もうちが作ー……」
「あーちは明日の構想でも考えてな!で、何食べるの!?」
「鯖でお願いします」
日本史のまとめに対する気持ちは伝わってるのに、なんで感謝の心は断られたのだろうか。じっとしておくのが、お母さんは1番助かるの?
でも、ちょっとは手伝いましょう。
「お米を研ぐのと、大根おろしますよー」
11/23(Fri)
朝はなんか頭がボーっとした。決して寝過ぎたわけでは無いと思う。寝返りで何度か起きたし。
今日から縄文時代。
ワイドショー風と言ったけど、実のところは高校の自分の日本史のノートがベースになっていたりする。でもそれをみーちに言ったら、「うわー…イターい」とか言ってきそうだから黙っておく。
大根おろしを大量に作り過ぎたから、明日のお昼はおろしうどんになるでしょう。そしてもち麦をこっそり入れて炊いたから、案の定みーちが「食感の邪魔者はいらない!」と怒った。しばらくは無垢な白米を堪能することになりそうです。
あ、そう言えば「みーち!今日は何の日だったと思う?」って聞き忘れたし、みーちも言ってこなかった。アレなのかな?向こうは[あーちが言ってくるのを待つ]ってスタンスだったのかしら。明日の朝に忘れずに聞かねば。
おわり
[字数 3396+1844=5240]
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