第20話 実々:特にドラマのない日
2018年11月20日(火) 朝
シャラーララーラーッ…もぞもぞっ……ララーッ…プチッ!
6時45分に設定しているアラームを止めて、少し布団の中でうつ伏せの状態のまま伸びたあと、貞子のようにズルズルと布団から出る。
もう朝晩はすっかり寒くなってきたので、起きたら先ず靴下を履き、その上からルームソックスを重ねて履き、底冷えを完璧に遮断する。
あーちはスリッパ派だが、私は脱ぎ履きが煩わしいし、スリッパに躓いて転んでしまうので足に履くタイプじゃないと危ない。そう……つまりdanger。
そして続けざまに姉の置き土産のパーカーを拝借し、心臓発作のリスクを減らすことに成功する。
そして私はアームストロングのように布団からの大きな一歩を踏み出したのである。
今日の朝はフレンチトーストにしよう。
昨日と同じルーティーンで洗顔と洗濯をしていたらあーちが起きてきた。
「みーちは何挟んで食べるのー?」
なんと、おはようの挨拶もなしに言ってきた。
私は洗濯機の回っているのを蓋の上から眺めながら、
「フレンチトースト」と、簡潔に答えた。
…毎日ホットサンドにすると思ったら大間違いだぞ。
ふと思ったけど、あーちがフレンチトースト作ってるの見たことあったかな?……記憶にないな。
作れないってことはないんだろうけど……あれか?フライパンもそうだし、菜箸、お皿、ナイフ、フォークという洗い物がめんどっちいからか?
まぁ今日は私が卵液も余ることだしあーちの分も作ってあげよう。と、一人心の中で思いながら調理に入っていく。
前まで食パンをカットせずにそのまま漬け込んでいたが、それだと端っこが余り染みなくて真ん中だけビシャビシャに染みてるという残念フレンチトーストになっていた。
しかし、今は食パンを4分の1にカットし、耳の部分に少し隠し包丁的な切れ込みを入れると……なんということでしょう、均一に染み込んだフレンチトーストになるではありませんか。
しかも耳も柔らかい!これは至高のフレンチトーストだ!
『卵液にバニラエッセンスを数滴垂らすとお店の味っぽくなるのでオススメですよー』と、3分クッキングの先生のように頭の中で料理番組を繰り広げながら熱したフライパンにバター、焦げ防止とバターの嵩増しでオリーブオイルを入れてフレンチトーストを焼いていく。
ジュッジュー……
うんうん。ちゃんと美味しそうに焼けた。
『今は自分で自分を褒めたい』と、自画自賛しながらお皿に盛り付けて食卓へ運ぶ。
目的地ではあーちがお茶の準備をしてくれていた。……気が利くではないか。
「「いただきまーす」」
「「おいし〜い」」
さて、お昼は何にしようかなぁ〜。
*****
家事ルーティーンを終え、ダラダラテレビを観て過ごし、お昼に焼きうどんを作って食べ(めんつゆだけで味がキマる!)、そしてまたダラダラ昨日の続きの小説を読んでいたらあっという間に夕方になった。
そう、夕方………あの時間だ。
「完成したー!」
あーちの歓喜に満ちた声がリビングに響く。
また心の中だけで『パチパチパチパチ』と4回拍手を送っておいた。
拍手1回だと『蚊を仕留める』とき、2回だと『神頼み』のとき、3回だと『人を呼ぶ』ときだと、昔誰かが言っていた気がするので私の中で『おめでとう』の拍手は4回からだと決まっている。
まぁ昨日の流れの感じだと間もなく私が呼ばれるのはわかっているので自分から行ってあげよう。もちろん本に栞を挟むのは忘れずに!
「じゃあ見てみようかね」
と、言いながら『よっこらしょ〜』と心で唱えながらぽてぽてとあーちの方へ行き、キンちゃんの前に腰掛ける。
「どれどれー」
……………………。[わたにほの内容]
「旧石器のまとめは前半と後半の2部構成にしてみるの」
あーちが私が読み終わったタイミングを見計らって言ってきた。
2部構成にする真意はわからないがきっとその方があーち的にも都合が良いのだろう。
「ほうほう」
軽く相槌を返しておく。
そしてあーちは瞳を輝かせながら、
「切通しで見付けた物がきっかけで日本の歴史を作ったってドラマチック……いや、ドラマティックだよね!」
と、松岡修造ばりに熱く語り出してきた。
「その言い直し必要?」
私はまだそのあーちの松岡修造の温度についていけない。
ついつい言い方が冷たくなってしまった自覚はあった。が、あーちは全く揺るがなかった。
「必要!」
「でね、日本史が楽しいから学生時代に飽きもせずうちは勉強をしまくってた訳なんだけど、1つ悩みがあったのさ」
勉強しまくってたのか……初耳だわ。
でもテスト週間の時に嬉々として真っ先に日本史をノートにまとめ直してたから、悩みといえばあれかな。
「何?腱鞘炎?」
腱鞘炎かペンダコだよねー。私もペンダコが擦れて痛くなってたし……。
「いやいや。肉体的な悩みじゃなくて、歴史を勉強する上で混乱するのは<流れ>がややこしくなるからだって」
「そっちかー」
そっちかー。
……おい、その慈しむような眼差しやめい!!
その生温かい眼差しのままあーちは言葉を続けてきた。
「一通り時系列で勉強した後に、突然200年くらい前の文化の説明が入ると混乱しなかった?もうその年代とっくに通り過ぎましたよって」
「あー…分かるわー」
いっぺんにその時に説明してもらった方が覚えやすいとは確かに思っていた。
あーちは私の反応に嬉しそうにしながら言葉を続けていった。
「もちろん、事件とか乱とか変とかやってから文化を改めて確認したいってのも分かるんだよ。でもそれは現場の教員の皆さんの仕事なの。そこで、うちは年表に合わせつつ文化も時代背景も同時平行で出来るだけ書いていきたいなって思ったの」
「あーち、そんな高尚な事考えてたんだね」
あーち、そんなことを考えられる優しさがあったんだね…。気持ち見直したよ。
「え…真っ直ぐに失礼な事言ってない?」
驚いたような、心外だ!という目であーちは私を見てきた。
…言ってないよ。私があーちに対する世論の代弁者だと自負してますから。
まぁ私からも気になっていたことを聞きましょうかね。
「質問は、【わたにほ】って何?ってことかな」
【わたにほ】って薄々なんの略かは勘付いてるけど一応聞いておこう。一応ね。
「毎回【わたし日本史まとめるし】って打ったらウザくない?分かってるわ!ってなるでしょ。だから略してみた」
「……そう」
………そう。
予想通りだった。
略してあっても鼻に付くって凄いタイトルだな。
その後はあーちが急に『円』にまつわる話を頼んでもいないのに話し出し、それを話し半分に聞いて今日の【わたにほ】の時間は終了した。
……最後のフランス語の返事にイラッとしたのは顔には出ていないはず…たぶん。
そして昨日から恒例の晩ご飯のおかずのリクエストタイムとなりました。
「夕飯はどうするー?」
「ドライキーマカレー!」
即答だった。
あーちは我が家に来ると『オムライス』と『クリームうどん』とそして『ドライキーマカレー』を絶対リクエストしてくる。
あーちも家で3回くらい作ってみたらしいが、なんかミートソースが出来たとか、しょっぱ過ぎたとか、肉味噌になったとかでカレーにならないと言っていた。ちゃんとレシピ送ったのに……。
たぶんカレールーを『1つ』しか入れてないからなんじゃないかと思うけど、あーちには確認していない。
4回目はきっと大丈夫だよ。なんならこの1年の間で一度だけあーちに作ってもらおうかな……。
あぁー、でも…うーん。
2018年11月20日(火)
今日は昨日とほぼ同じことをして過ごした。
【わたにほ】にタイトルが略してあって少しドン引いた。早くタイトルを変えさせないと……。
ドライキーマカレーが美味しく出来て良かった。
end.
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