第6話 実々:誠意は心から


 クリームうどんを作る。


 しかし、元々は自分が住んで育った家だったとはいえ、やはり普段から広島で使ってきた包丁、まな板、お鍋とは勝手が違く、少々手間取ってしまう。

 こういう時に「あぁ、自分は嫁いで家を出たんだなあー」と思う。上手く言えないが、心の半分は寛いでるのに、もう半分はどこか緊張している感じだろうか。


 『キッチンは自分の城』だと言うが、この家のキッチンは母の城であり、私は不法侵入しているようなそんな申し訳なさが出てしまう。

 「あぁ、お母様の城を私めが荒らして申し訳ありません!調理器具と調味料をお借りしますっ!」と言った感じになる。


 そんな心の葛藤と闘いつつ、クリームうどんは完成した。

 テレビとかでも良く「作ってる時に愛情を込めると更に美味しくなりますよ」と、言ったりしているのを観るが、今日は私のもやもやした心が溶け込んで、ある意味複雑な味を醸し出していそうな気がする。


 そんな私の心を露ほども知らないあーちは無邪気にも、

「わぁーい!みーちのクリームうどんだー!」と、席に着くや否や直ぐに「いただきまーす!」と、食べ始めた。

 私もあーちが食べるのを見てから一口食べてみる。

 ……美味しく出来たけど、やっぱりいつもの感じとは少し違うなぁー、というのが正直な感想だった。料理は奥深い。


 ここで一つ事件が起きた。


 あろう事かあーちは二口くらい食べたら直ぐ『味変』をしてきたのだ!

 ……早過ぎるだろう!

 山椒をうどんに振りかけては「スーハースーハー」している。

 もうクリームうどんじゃなくて釜揚げうどんにしたら良かったんだ!そうしたら『味付けはお好みで』ってなってお互い傷付け、傷付けられが無く平和的に食事が済んだのに!!

 …そこ!追加で山椒を振るな!!!


 口には出さなかったが、少しずつ頭の中であーちに言ってやりたいことがぐるぐる回りだした。

 そして私は重要なことを思い出す。

 『頭を床に打ち付けられたのを絶対に物申す』と決めていたことを。

 この食事を終えたら絶対に言ってやる。


 ……えっ!?まだ山椒振るの?。


*****


 食事と片付けを終え、遂に『その時』が来た。


 何も知らないあーちは、


 「はぁ美味しかったー!クリームうどん食べると、みーちといるって実感するねー」


 と、無邪気さを前面に出してきた。

 私はこの時既に顔から表情が消えていたと思う。……私ももう30歳だし、大人気ないとは思うが。  


 「…そう、良かったね」


 自分で思っていたよりも更に声が冷たく重く響いていた。

 あーちは一瞬焦った表情を見せたが、気を取り直すように言葉を発した。


 「では、これより『これからどうする?双子会議』を始めー…」

 「…その前に、誠意見せぇや」

 「………ぇ?」


 …あ、ヤバい。

 なんか我慢し過ぎたのか自分の口調がレディースとかヤクザっぽくなってしまった。カタギじゃないやつだ。善良な一般市民なのに。 

 でも言ってしまった以上は取り消せない。だって私すっごく怒ってますから!


 あーちはというと、驚愕に眼を見開いていた。そして瞬き凄い。口も少し半開きだ。

 まぁ、急に私が『料理を作ってくれるおっとりみーち』から『なんか逆らったらヤバい奴』にジョブチェンジしてしまったから無理もないだろう。    

 よし、もう言ってしまおう!良く聴けあーちよ!!


 「まず謝ってもらわないことには、協力出来ない」


 誠意大事。親しき仲にも礼儀あり。悪い事したらちゃんと『ごめんなさい』と言わなきゃダメなの。

 たとえ神様に急に拉致られテンパってようが、頭をぶつけられた痛みをさっきの健康な身体にしてもらった時に消されてようが『心の痛みはガッツリ遺恨として残って居ますよ。あーちさんよ。


 あーちは身体が昔のガラケーのようにバイブしていた。


 つまり、少し震えていた。

 口元は笑いを堪えているのかヒクついている。しかし、必死で堪えてはいるが目はしっかりと笑っていた。

 でも思い当たることがあったのか、震えながらも話し出した。


 「あ、あ、謝るって、クリームうどんに山椒を振りかける度に『ハァハァ』って何度も匂いを嗅いでた事?」


 ……「ハァハァ」って変質者か。

 それについては怒ってない。ただ外で『ハァハァ』はやめてほしいとだけ言いたい。口には出さないが。

 まぁ振りかける行為に自覚はある、ということで話を進めよう。


 「それもそうだけど、違う」


 もう一つ重要なことがあるでしょ!あーちさんよ。


 「うーん…じゃあ何?」


 …おい!もう少し考えろ!

 お昼を食べておねむになったの!?


 「私を起こすときに、頭思いっきり床に打ち付けたろ。めっちゃ痛かったんだからな。これ謝ってくれないと今後の生活がギクシャクするから」

 「それか!」


 あーちはやっと思いついたようだ。

 きっと今あーちには心の狭い奴だと思われているだろう。でもそういうのが積み重なって大きな喧嘩になるよりは、今スッキリ精算させていった方がモヤモヤもなくなるし良いと思う。


 「あの時はみーちを起こすのに必死で……はい、ごめんなさい」

 「ん」


 これで良し。一色実々これからの日々を頑張れます。

 ついでにさっき思っていたことを言おう。


 「それと、二人だと会議って言わないから」

 「ぇ?じゃあ会談?」


 あーちは次なる提案をする。


 「国のトップか!」


 私は瞬時にツッコミを入れる。

 会談だと豪奢なソファーに深く腰掛けながら首相とか大統領が話してるイメージ。我々は一般市民だ。


 「んー…なら座談会で」


 あーちは怯まない。


 「ならば良し」


 そう。我々一般市民は椅子にちょこんと座りながら談笑をする程度である。

 あーちは私のOKを受けて座談会の話を進め出した。 


 「では、まず……神様の目の色、紺だったよね!?」

 「あー言われて見れば真っ黒じゃなくて、微妙に青っぽかったかもね」


 正直なところ、どうでも良いテーマだった。

 青かろうが黒かろうがどうでもいい。というか人見知りの私に瞳の色とか聞かないで欲しい。

 あーちは私の余り中身のない共感でも満足したらしく、次のテーマに移行した。


 「どうやって日本史まとめれば良いかなぁ?やっぱりノートに手書ー…」

 「絶対パソコンで!」


 おっと、ついつい声を張り上げてしまった。

 あーちは私のセリフ被せ気味の返答にビックリしたように返してきた。


 「えぇっ!どうして!?」


 どうして?

 どうしてだと思う?何故なら、


 「あーちの字、クセがキツ過ぎて読みたくない」


 ……からだ。


 「がーん」


 あーちはショックだったようだ。


 『字は人を表す』というがその通りだと思う。

 現に私の字とあーちの字は同じ遺伝子とは思えない程全然違う。

 あーちの字は『丸文字且つなんか独特のクセがある字』だ。…プリクラの落書きコーナーでは映えると思う。

 一方私の字は一言で言うと『漢(おとこ)らしい』。私自身の顔と私が書く字のギャップが激し過ぎる、と自分でも思う。

 でも見た目が幼いだけで中身は結構アラカン(60歳オーバー)だと思う。高校生の時にファミレスとかで騒いでる学生とかが居ると「最近の若いものには困るなぁ。」と、言ってしまったこともあった。


 そんな私はあーちの字が苦手だ。

 なんか読むと胃の辺りがモヤっとする。

 頭が『もう読みたくない』と続きを読むのを拒否するのだ。中身がアラカンだから丸文字の拒否感が半端ないのだ。あーちには申し訳ないと思うが本当にダメなのだ。…プリクラの時には羨ましいと思っていたが。


 それに正直言って字が上手かろうが下手かろうが、人類の誕生から今までの歴史を纏めるのに手書きは……自殺行為だと思う。

 神様が直接手を下さなくてもあーちは死ぬだろう。

 だから、


 「それに、ノート何冊必要になるの?片手の指じゃ絶対足りなくならない?パソコンの方が経済的だし、訂正も加筆もしやすくない?」


 と、言ってやった。


 「う゛っ!ごもっともで…」


 納得して頂けたようで良かった。

 あーちは私の『読みたくない』発言が尾を引いているのか、少し落ち込みながら言葉を続けた。


 「……キンちゃんでやるよ。で、ただ徒然なるままにうちの琴線に触れた事をまとめるだけじゃなくて、日本史ビギナーの人が見ても分かりやすい感じにするのはどう?目的があった方がハリが出るし。将来、花奏ちゃんが日本史勉強する時の一助になったら最高だし。まぁ、まとめたのが元の時間に持っていけるかは分かんないけど」


 ふむ。

 あーちの自己満足でただ一年を終わらせるよりは誰が見ても分かりやすく歴史に触れられるものを作る方がずっと良いと私も思う。遣り甲斐から違うだろう。

 ……でも花奏が勉強するころにはまた歴史が変わってるような気もする。1192年の鎌倉幕府の誕生が1185年になったように。  

 まぁそんな細かいこと言ってたらキリが無いから良いか。

 ここは賛同の意見を。


 「あーなるほどねー。私の高校は日本史Aだったから、幕末からしか詳しく知らないや。その前の時代はうっすら中学でやった記憶しかない」

 「まぁ花奏ちゃんが理系に進んだらそれまでなんだけど。うちがまとめたものに対して、ビギナーであるみーちが質問やら疑問を呈して、内容を充実させていくってことにしよう!」

 「はいよー」


 これで方向性は決まった。

 するとあーちが、


 「あのさ、みーちは何かやりたいこと無いの?ほら、世界史やら東洋史やら勉強し直すとかさ、みーちも一緒にー…」

 「私は休むっ!!」


 ……あ、また食い気味に声を発してしまった。

 あーちが「え?」ってキョトンとした眼で見てきている。

 確かに私は大学時代に東洋史学を専攻していて現代中国における受験戦争と20世紀頭まで行われていた科挙制度についての卒論も書いている。でもそれは大学生だったから。もう漢文読みたくない。 

 じゃあ西洋史やる?と言いたいところだが……カタカナも少しトラウマがある。


***


実々の小話② カタカナのトラウマ


 あれは私が高校3年生の時のこと。

 世界史のテストの返却の時に事件は起きた。


 問題:古代オリエントを統一した王朝名を答えよ。

 解答:アケメネス朝ペルシア 


 私はちゃんと正解した。

 ちゃんと『アケメネス朝ペルシア』と記述したのに私の回答欄に×が付いていた。

 なので私は先生に「ちゃんと書いてますよ!」と、言ったら、


 「『ク』にしか見えねぇな。」


 と、宣いやがった。

 私の「アケメネス朝」の「ケ」の字が「ク」にしか見えないと言うのだ。

 だから私は「『ケ』って書いてます!」と再び抗議したが返答は……


 「『ク』にしか見えねぇな。」


 同じだった。

 ずっと先生に向かって「『ケー』ッ!」と言うのもはたから見たらバカっぽかったと思う。

 『ケ』の二画目の横棒がお粗末な長さだったが故に『ク』に見えてしまったなんて…。

 結局「アケメネス朝ペルシア」の2点を私は諦めなければならなかった。


 悔しかったのでその次の期末テストの時に「アケメネス朝ペルシア」の解答の「ケ」の字を太く濃く書いてやった。……むなしかった。    

                 end.


***


 そんなちょっとしょっぱい過去もあり、もう歴史は読み物として位置付けている。

 だからあーちの誘いには悪いが、私は休むのだ。

 もちろん、


 「あーちのサポートは神様とも約束したし、ちゃんとやるよ?で、自分のやりたいことはのんびり読書することなの」

 「……あ、そうだったんだね。この家の本読み漁ると良いよ、結構増えたから…」


 あーちはちょっと気遣う感じで言ってくれた。

 「あ、この子疲れてる」って顔に書いてあった。

 そしてあーちは空気を変えるように次の議題に移ることに決めた。


 「じゃあ、次に家族の現状確認ね」


 ……えっ?!今それいう?


 「本来ならそれを1番最初に話題に出すもんじゃないの?」


 と、思わず言ってしまった。


 「うっ…。でも、ほら神様が大丈夫って言ってたし、みーちだって話さなかったじゃん」 


 うっ……。

 確かにそうだけど、神様の瞳の色とかより先に言うべきだろう。


 「はぁ…。私はかなちゃんに新しい絵本何か良いの無いかなって思って本屋に居たでしょ?で、かなちゃんは幼稚園。亮は出張で香川に居る」


 娘の花奏のことは普段は「かなちゃん」と呼んでいる。

 私が消えた時間はちょうどお弁当を食べている時だったろう。

 そして『亮は香川に居る』とはあーちには迷いなく言ったが、実際は(確か香川って言ってた気がする〜)ってくらいの曖昧さだ。


 お互い普段からそんなに頻繁にLINEもしない。

 ましてや電話なんてよっぽど急ぎの用とかじゃないとしない。便りがないのが元気な証拠っていうし。まぁ夫婦ってそんなものだろう。

 「ちゃんと毎日声が聞きたいの」とか思ったことない。そんなこと言うのは私じゃない。


 「花奏ちゃん、給食食べたまま止まってる感じになってるのかなぁ?てか、万が一やらかしてうちらが消えちゃったら、花奏ちゃんのお迎えが絶望的になっちゃう!!」


 ……あーちが笑えないことを言ってきた。

 だから私も、


 「あーーーーー…終わりだね」


 としか言えなかった。

 あーちも最悪の未来を想像したんだろう。


「みーち、頑張るからね……」


 と、悲哀に満ちた声で言ってくれた。


 「…うん、頼んだ。まじで」


 …うん、頼んだ。まじで。


 「あ、小澤家はお母ちゃんとお姉さんが拝んだままでしょー。で、親っさんは会社」


 私たちのパパもとい、「おやっさん」は働き者だ。

 立派に社会の歯車になっている。

 趣味は週末に高尾山に登山に行ったり、スポーツセンターで汗を流すことだ。タバコもパチンコもしない。真面目を絵に書いたような人だ。


 「私らの体感で言うと、親っさんはとんでもない社畜になっちゃうね…」

 「もはや『社住』だね。笑えない冗談過ぎるよー…ははっ………ハァ」

 「ハァ…」


 大丈夫とはわかっていても社住になっていたらと思うと乾いた笑いとため息しか出てこない。

 おやっさん頑張って!私たちも頑張るから!!!


 一通りため息をついた後、あーちは次へ行くことを決めたらしく、


 「はい、次に神様に聞きたいことを募集します。一色さん、メモして下さい」


 と、言ってきた。


 「はいはい。…って、さっき一通り質問したから無いんじゃないの?」


 さっき神様に「もう聞きたいことないでーす」って言ったのに。

 私はボールペンを握りながらあーちの続きを待った。


 「すっっっっっっごく大事な事聞き忘れてたの!」

 「なーに?」


 人に書かせるんだからよっぽど大切なことなんだろう。

 何かこの世界のことで聞きたいことを思い出し……


 「『参考文献は文字数に入りますか?』って聞き忘れてたでしょ!?死活問題じゃん!」

 「…………」


 ……てはいなかった。

 私はメモの上にペンを置いた。

 そして感情を無くした。


 「どったの?(どうしたの?)」


 どうしたもこうしたもあるか!

 私は今『常識』をこの目の前に座る人物に説かなければいけない義務があると自負している。


 「セコい!セコい!」

 「……え?」

 「あんなに良くして貰っておいて、まだ神様からお金搾り取ろうとしてるの!?不敬にも程があるでしょうっ!」

 「えぇっ!」


 ええっ!じゃない!!

 こっちが「ええっ!」って言いたいわ。

 論文を書くわけでもないのに参考文献を文字数に入れようとするセコさ、ダメだろう。神様が赦してくれたとしても私が許せない!あーちの一発芸で得た一月五千円も少しまだ申し訳なさがあるのに! 


 「ちょ、ちょっと落ち着いてよ。大学のレポートにしろ論文にしろ、【参考文献は文字数に入るか問題】はあったじゃん。それにダメ元で聞くだけだし、端から期待もしてないよ。OKだったらラッキー、アイス買えるねーってしか考えてなかったから」

 「えー…?本当に?」


 思わず疑いの目であーちを見つめてしまう。

 あーちはさながら浮気を疑われた夫のようだ。 


 「ほ、本当だって!…んーまぁ、お金が極限になったら『必殺!引用&参照の嵐』をしようとは思ってたよ。みーちの心と身体のキープのために」


 ……こやつ、人をダシに使うとは。

 そもそも、


 「…お金が大変になったら、いつもより多く文字を打てば良いでしょ?それにあーち全然食べないし、全く問題ないから。これ以上神様からお金巻き上げちゃだめだよ」

 「……はい」


 あーちはしおらしく項垂れるように頷いた。

 神様の財布と心を少し守れた気がする。……神様はこうなることも読んでいたのかしら。


 「で、他に何聞くの?」

 

 私から聞いてみることにした。


 「ここでまとめたデータを元の時間にテイクアウトできるかと、全部まとめ終わったらどうすればいい良いですかってことかな?」

 「ふむふむ」


 やっとまともな質問だ。と、思いながらメモしていく。

 そして次の議題のテーマは、私の視界の隅にチラチラ入ってくるあれだ。


 「…みーちよ、この核ミサイルのスイッチどうする?」


 これだ。


 「………あーちに任せる」


 …その回答に尽きると思う。


 「え、困る」


 あーちは本当に嫌そうな顔をしていた。

 でも、「この家に住んでるのはあーちだから」と、返してやった。

 私はお母様のお城に入るのも緊張してしまう小心者なので、ほら、勝手に変な所にしまったりしたら駄目でしょ?やっぱり家主の指示を仰がなきゃね。


 「えーーと…きっと使うのは大ピンチになった時か、日本史終わった時だから、仕舞っとこう」


 あーちはたぶん言葉の後ろに「だって邪魔だから」というのを付けていただろう。

 私にはわかる、だって本当に邪魔そうな目をしながらそのブツを見つめていたから。


 「リビングにあると落ち着かないから、洗面台の下の棚にでも入れとくね。あ、身体が今すぐにでも記憶からスイッチの存在を強制的に消しにかかりそうだから、みーち付箋に『ボタンは洗面台の下』とでも書いて冷蔵庫に貼っといて」

 「ん」  


 ……洗面台の下に危険物か。

 洗剤とか石鹸とかを補充する度にチラッと視界に入る未来が見える。

 でも他に場所もないから私は付箋に『ボタンは洗面台の下にある』と書くのだった。

 あーちは一先ずこの件が片付いたので、肩の力を抜きつつ私に質問してきた。


 「みーちは何か聞いとくことある?」

 「んー…特には無いかな」


 さっき神様に聞かれた時にも思ったことだが、そんな急に質問は出てこない。

 ……私の頭の中は今晩のおかずを何にしようかでいっぱいだから。 


 「So cool……」

 あーちはポツリと呟いた。

 そしてまた何か思い出したように言葉を発した。


 「そうそう!神様の名前聞いてなかったでしょ?家の中でならまだしも、外で『神様が~』とか言ったら変な人間と思われちゃうから、教えて貰うまで『多神さん』って呼ぶのどう?」

 「たがみさん?」


 ……なぜ「たがみさん」??


 「田の上で田上さんって居るし、うちが拉致された場所が『多賀宮』だったし、沢山、多くの事やってくれたからさ。良い名前じゃない?」

 「まぁ良いけど…」


 まぁ確かに外で二人で「神様がさー」とか言ってたらそれこそ新興宗教の信徒だと思われそうだ。

 あーちが拉致されてすぐに言ってた通り神様が『危険な思想の教祖』になってしまう。それは余りにも可哀想だ。


 「はい、採用!…ふふっ」


 あーちは我ながら名案だわ!っという顔をした。

 ……そして調子に乗ってこんなことを言い出した。


 「思ったんだけどさ、多神さん睫毛を瞼に挟めそうじゃなかった?ハサミニストからすると、ポテンシャルを秘めていると思うんだよねー。やってみて下さいって夢で頼もうかな」

 「どうでも良いし、絶対頼まないで。家の恥だから」


 また神様も吃驚の神速の速さでツッコミを入れてしまった。

 そもそも『ハサミニスト』って何!?

 多くのことをやってくれた神様『多神さん』に対しての扱い!名前の意味考えたのお前だろ!!?失礼にも程があるわ!


 「そこまで!?」


 あーちは吃驚していた。こっちが吃驚だわ!

 しかし、あーちは立ち直りも早かった。心臓強い。


 「そう、あと思ったのが、パーソナルスペースがめっちゃ近かったよね。神様レベルになると距離感が分からなくなるもんなのかね」

 「そこに関してはどう(でもい)い。で、日本史の本を借りに行くなり、買いに行くなりしなくて良いの?参考文献自体手元に無いじゃん」

 「……はっ!多神さんに現を抜かしている場合じゃなかった!うち、忙しい!」


 あーちはうちの声に気づいだたろうか。すぐ話が横道に逸れてそっちに進んでしまう。

 私はリアル方向音痴だか、あーちは会話の方向音痴なんだろう。

 神様は私にツッコミを入れされる為に本当は召喚したんじゃないかと本気で思ってきた。

 サポートだよね?

 ツッコミ要員じゃないよね??


 「じゃあ、みーちが書き出してくれた質問は今日の夜聞いとくね。気付けば全部うち関連の質問だし。ここでみーちに丸投げしたら、社会的に心証悪すぎだしね。」

 「だろうね」


 うん、そうだろうね。


 「まず図書館行って、そっから買い物して帰りませう。旅行で丸二日居ない予定だったから、食べ物全く無いよ」

 「さっき冷蔵庫見たから知ってる。多神さんから貰ったお財布忘れずに持たないと」

 「お金はみーちに一任します…。うちってあるだけ使っちゃうし」

 「それも知ってる」


 あーちは本当にあるだけ使ってしまう。

 追い詰められるのが好きなのか?キリギリスタイプだ。

 逆に一番上の姉は貯蓄が凄い。働きアリタイプ。

 私はそのちょうど中間だ。使う時はパーっと使うし、使わない時は貯金する感じ。

 まぁそんな訳なのであーちに財布は預けられません。あーちも自覚があるから良かった。



 図書館への道を歩きながらあーちは赤福ぜんざいを食べ損ねたことを悔しそうに語っていた。

 私もあん団子を帰り道に買う予定だったことを思い出した。もう口が『餡子』を欲している。

 「今日のおやつはスーパーのお惣菜コーナーのおはぎを買おうよ!」とあーちに提案しつつ少し寒くなった秋の道を進んで行った。

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