蘇生の条件
「本当!? 本当なの!?」
前のめりにケルマ王女が立ち上がる。その影響でお茶が飛び散った。あーあ、このカーペット高かったのに。
「お願い、彼を、ニバリスを生き返らせて!」
「ちょ、ちょっと待てって! いったん落ち着け!」
興奮しすぎて話もできんわ。
「あくまで! あくまで可能性があるかもしれないってだけだから、いったん落ち着いて話を聞け。それから、座れ。な、な?」
「あ、はい。すいません」
ケルマ王女を座らせた後、落ち着くためにお茶を一口口に含んだ。うまいな。
「ケルマ王女は、人間の魂は死後どこへ行くと思う?」
「魂は……、天に帰るんじゃ?」
「教会ではそうだな。だが俺は、死後も魂は死体に残ると思っている」
「死体に……」
「ああ。ケルマ王女もバラまみれのリッチの話は知ってるだろう? 伝承では彼女には生前の記憶があり、言葉も喋れたそうだ」
まあ、それがおとぎ話として有名になり、ネクロマンサーが忌避されるようになったのだがそれはそれとして。
「後は俺の経験則だが、同じスケルトンでもただの村人のと、冒険者のものじゃ強さが違う。冒険者の方が剣がうまい。魂が剣の使い方を覚えてるからだろうな」
「そうなんですか!?」
「経験則だがな。まあ、このことから考えて魂は死体に残っていると考えていい。となれば、ニバリスの魂も死体に残っているだろう。ちなみに、死体はあるか?」
「ある! ていうことは生き返らせられるの!?」
「いったん落ち着け。これが第一条件だ」
興奮するな。説明しづらい。
「2つ目の条件は、アンデッドとしての格だ。ケルマ王女の条件は一緒に暮らせて話ができることだったな。なら、ゾンビやスケルトンじゃ不足だ。最低でも、リッチクラスじゃなきゃいけない」
「ニバリスなら、きっとリッチになってくれるわ」
「あほか」
そんな簡単にリッチになれるものならこの世界はアンデッドに滅ぼされてる。
「な、仮にも王女に向かってあほとは何よ!」
「実際にあほなんだから文句言うな。そもそもリッチってのは長い年月をかけて魔導に精通した魔導士や聖職者なんかが変化するものだ。その辺の冒険者なんかになられてたまるか。せいぜいがアンデッドナイトくらいだろうな」
おっと、つい本音が出てしまった。どう見ても深く考えてないみたいだし、あほとしか思えん。
「じゃあ、どうすればいいのよ」
「普通にアンデッド化させたのなら格が低いアンデッドになる。なら、普通じゃない方法でアンデッド化させればいい」
「普通じゃない方法?」
「ああ」
にやりと微笑む。
「お前、運がいいぞ。なんてったって俺の研究テーマは格の高いアンデッドを量産する方法について、だからな」
「それって……!?」
王女が顔を輝かせる。俺以外のネクロマンサーじゃ死体をリッチ化させるなんて無理難題かなえられなかっただろうな。俺も自分の研究がこんなところで役に立つとは想定してなかったよ。
「スケルトン100体よりもアンデッドナイト100体の方が強い。だから、簡単に格の高いアンデッドを量産できれば、同じ量の死体でも強い兵ができる。ま、そういうことだ」
「てことは、ニバリスを生き返らせられるのね!?」
「あくまで、可能性の話だ。俺もリッチを召喚したことはない」
そう言うと、王女は少し落ち込んだような顔をする。
「さて、俺の研究に関してだが、召喚するモンスターの格を決めるのは使う触媒の品質と召喚時に使う魔力量だと思われる。このうち、問題になるのは触媒の品質の方だ」
「魔力量は関係ないの?」
「関係ないというか、調整のしようがない、だな。格に合わせて必要とされる魔力量が異なっていて、それ以上でもそれ以下でもうまくいかないんだ。だから必要量さえあればどうにでもなる」
最高品質の魔石が5個もあれば足りるだろう。王家の予算に期待だな。
「だから、俺たちが用意するべきなのは十分な魔力と、品質のいい触媒だ。ドラゴンの逆鱗とか、ミスリルインクとかそういう最高品質のものがいる」
いずれも魔導を志す者なら憧れる、一度は使ってみたい素材ばかりだ。まあ、そんなものが用意できるかと言えばたぶん無理だと思うけど。
「それを用意すればいいのね?」
「そこまでやって何とかってところだろうな。神話に登場するくらいの素材になればもう一段上かも知らんが」
「わかった。お父様に頼んでみる」
頼めばできるのかよ。ロイヤルパワーすごすぎ。
というか、これ失敗して無駄にしたら俺処刑されるんじゃね? やばい、怖くなってきた。
「ちょっと待て、落ち着け。これはあくまでも仮説だ。まだ論文書いてる最中で検証もされてない。触媒の品質がアンデッドの格を決めるっていうのも俺の経験則でしかない」
「大丈夫、私が保障する」
いらねえよ! お前の保障なんて魔導の真理のもとじゃ紙きれも同然なんだから!
「それに、俺の仮説が正しかったとしても成功する確率は100%じゃないんだぞ。十分な品質が用意できるかもわからないし、ニバリスの器が耐えられるかもわからない。魂が死体に残るってのも仮説だ。成功確率なんていいとこ5%以下だ。それなのにやるってのか?」
「やるわ。私にはそれしかないもの」
そこまで断言されると、逆にこっちが不安になってくる。
「あの、王女様? 本当にいいんですか?」
「いいに決まってる。それよりあなたこそどうなの? こんな実験、二度とする機会ないと思うけど」
「それは……」
確かに、そうだ。ごく普通の死体をリッチとして生き返らせる。きっと俺以外の誰もやったことがないに違いない。それに、今なら王家がスポンサーとしてついてくれるのだ。このチャンスを逃せば王女の言う通り、こんなにお金がかかる実験二度と出来ないだろう。ネクロマンサーとして、魔導を志す者の一員としてとても興奮する。
……やってみたい、な。
「なら、やるか」
「期待してるね。絶対に成功させるんだから」
やれやれ、まあこのわがままであほな王女様のためにもちょっと本気を出しますか。
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