エピローグ わたし今、とっても楽しいです!



 お正月から早くも三ヶ月が過ぎて遂に小学校の入学式のある月……四月になりました!

 明日は入学式だけど、今日は前からお義父さんたちと約束をしていたお花見にやって来ました!


「いいか、ファム。お花見の日以外は公園に来ちゃダメだからな。今日は警察の人が見回ってるから居ないが、普段は変態だらけで変態祭りのオンパレードって感じだからな?」


 じゃあ兄さんも普段は公園にいるんだね。

 それはそうと、せっかくのお花見なのに家族というのもアレな話だったので、今回は兄さんに頼んで数名連れてきて貰いました!

 待ち合わせ場所は確かこの辺りだって兄さんが言ってた。


「ファムちゃん、おはよう」

「おはようございます。結月さん」


 待ち合わせ場所で既に待っていた結月さんに挨拶を済ませると、わたしは近くに居た男女一組に目をやった。最近ちょっとだけ進展して距離が縮んだ二人……プラムさんとダンテさんだろう。

 両想いで両鈍感のお二人さん。端から見れば二人のは付き合ってると言っても過言ではなかった。……まあ二人にはそんな自覚ないんだろうけどね。


「おはようございます! 結城ファムですッ! 今日はよろしくおねがいします!」


 なんとも子供らしい自己紹介になった。

 わたしが頭を下げると二人もそれに釣られて頭を下げた。

 それからプラムさんとダンテさん……二人の自己紹介を終えて、わたしたちはお義父さんが朝一で場所確保をしに行った花見会場を目指した。

 ちなみにプラムさんの名前は吉田杏子あんず。ダンテさんは佐々木啓介けいすけだ。


「おーい! ファム! こっちだ!」

「お義父さん!」


 既に青色のレジャーシートを敷いて座っていたお義父さんが手を振りながら、わたしに呼び掛けた。

 わたしはお義父さんのいるレジャーシートを目指して走った。

 わたしが走ると、背後から何とも表現し難い生温かい視線を複数感じた。


「パパの膝に座っていいぞ」

「はーい!」


 お義父さんの膝上に腰をかけて、もたれ掛かる。


「ファム。パンツ見えてるから、パパから離れなさい」

「はーい」


 お義母さんに軽く言われてお義父さんから離れた。今日はスカートの下にスパッツ穿いてるから、パンツは見えてないんだけど、品がないと思われちゃうからね。

 お義父さんから離れると、心なしかお義父さんの表情が沈んだような気がした。


「ほら、お義母さんの膝に来なさい。ちゃんと教えてあげるから」

「はーい」


 今度はお義母さんの膝上に座る。そしたらお義母さんに足を握られて女の子座りをさせられた。確かにこれならパンツは見えないだろうけど、教える必要はなくない?

 あっ、兄さんとお義父さんが羨ましそうに見てる。


「お義母さん、わたし早く食べたい」

「そうね。じゃあ準備するからちょっと待っててね」


 お義母さんは紙袋から重箱を包んだ紫色の風呂敷を取り出して準備を始めた。

 この三ヶ月でわたしもそこそこ成長した。身長は同年代と比べればやはり「成長の遅れた小柄な女の子」になってしまうが、食べられる量は普通の子より少し少ない程度まで成長した。

 おかげでわたしはお医者さんから貰っていた食べ物を卒業して、兄さんたちと同じ食事を取れるようになった。

 これもわたしが小学校で出てくる給食が食べたいがために頑張った結果だ。

 ……わたしが邪魔でお義母さん、お料理の準備が全然進んでない。ちょっと退いてあげよ。あっ、兄さんが膝上トントンしてる。来いって意味なのかな?


「兄さんの所行ってくる」


 今度はお義母さんの元を離れて兄さんの元へと流れた。

 わたしが離れるとお義母さんはしょんぼりしてた。でも、みんな待たせてるから悪いような気もするし、仕方ないよね。


「ファムは軽くて可愛いなー」


 兄さんがわたしの頭を撫でながらそんなことを言ってた。

 このままだと兄さんのシスコンが加速してしまうような気がする。他の人に逃げよう。お義父さんは……過保護になりそうだね。お義母さんも忙しそう。じゃあプラムさん……


「あの、啓介さんって呼んでも良いですか? 私のこと杏子って呼んで良いので」

「あ、ああ。いいぞ」

「ありがとうございます!」


 ……ダメだね。あそこには入れないや。もう二人だけの楽園が形成されてる。


「仕方ない、ここは余った結月さんで我慢しよっかな」

「誰が余りモノよ」


 あっ、声に出てたみたい。結月さんからの若干冷やかな視線を感じる。

 実は結月さん、わたしの正体を知っている。理由はお察しの通り、兄さんたちが口を滑らせたから。

 この調子だと小学生で友達を家に呼ぶことも出来なさそうだ。

 まあ子供なんて好きじゃないから友達なんて作るつもりもないし、別に良いんだけど。教師の家庭訪問とかあっても普通は信じられないだろうからね。


「んっ、しょ……」

「ファム、どこに行くッ!? 兄ちゃんを見捨てるのか!?」

「うん」

「グハッ!?」


 わたしは兄さんから離れて結月さんの膝上に移動した。それと同時にお義母さんがお弁当の準備を終えたようで、紙でできたお皿と木でできた棒切れを渡してきた。


「?」


 これ、どうやって使うんだろう?

 首を傾げていると結月さんがこれは半分に割って扱うのだと教えてくれた。

 わたしはお義母さんたちがどんな風に割ってるのかを見て扱い方を把握した。

 よしっ、やってみよう!


「ふぬぬっ……!」


 箸を半分に割ろうとする。割ろうとする。割ろうと…………割れないんだけど?

 なにこれ、不良品じゃないの?


「ファムちゃん、これ使っていいよ」

「……ありがとう」


 結月さんが割った後の割り箸を渡してくれた。代わりにわたしの割れない割り箸を差し出すと、結月さんは意図も容易く割った。

 ……子供の力じゃ割れないようにでもなってるのかな。それともわたしの握力が低いだけ?


「そんなショボくれなくてもいつか割れるようになるからね」


 結月さんはわたしの頭に手をポフリと乗せて、撫でてきた。兄さんの撫で方と違って優しい感じがしてとても落ち着く。


「うん……」


 わたしはお義母さんたちが見たことない表情をしていたようで、お義母さんたちの嫉妬混じりの視線が結月さんに飛んでいた。

 本当に親バカだね……まあいいや。早くお弁当食べたい。


「お稲荷さん食べたい」

「いなり寿司のこと?」

「うん」


 わたしが頷くと結月さんはいなり寿司……もとい、お稲荷さんをお皿に取ってくれた。

 ……どうしてお稲荷さんかって?

 だって、いなり寿司っていうよりもお稲荷さんって言った方が可愛くない?


「ありがとー。……いただきます!」


 お稲荷さんを一口、パクっと食べる。

 油揚げの味がお酢の入ったご飯に染み込んでいて美味しい。これはハマるね。

 お稲荷さんやデザートを満足するまで食べ終えると、わたしは疲れてぐで~っとしていた。後ろには大きなクッションおっぱいがあるから、頭や背中が痛くなることはない。

 ……ちょっと眠くなっちゃった。少しだけ寝ちゃおうかな。


 わたしはそのまま眠りに落ちた。

 目を覚ました頃には既に日が暮れていて、家に帰っていた。

 ……いつの間に。もう少し結月さんたちとお喋りしてみたかった。


 そんな後悔を抱きながらもわたしはをして再び眠りについた。夕食は入りそうになかったからパス。明日の朝食べれば一緒だよ。


 翌朝、わたしはきちんと朝食を取ると水色のランドセルを背負って学校に行く準備をした。


「えっ? 兄さんも来るの?」

「当たり前だろ?」


 なんかトラブルが起きるような予感がするから来なくて良いんだけど……とは言うこともできず、わたしたちはで小学校へと向かった。


「写真お願いします」

「はい」


 お義母さんが近くに居た人にカメラを渡すと『小学校入学式』と書かれた板の前に立たされた。

 ここで家族写真を撮るのは常識らしい。


「撮りますよ。はい、チー――――」

「ニャー!」

「――ズ!」


 わたしのランドセルの中にいつの間にか潜んでいたビスケットたちが姿を現した。

 そしてその瞬間にカメラのシャッターが切られた。


「「「……えっ?」」」


 撮り終えた瞬間にわたしたちはランドセルに目が行った。ランドセルの中にはビスケットたちがギュウギュウに詰まっていた。


「いつの間に……」


 道理で重たいと思ったよ。ビスケットたちはしょうがないね。

 空から降ってきた花びらを掴むと声が聞こえてきた。



 ――――あなたは今、幸せですか?



 誰の声なのかはわからない。でも言えることはある。





「うん、とっても幸せだよ!」




 ゲームの世界から追放されたら、幼女になって受肉したので地球でのんびりと暮らしたいと思います。 完







 ……あれ? そのセリフって普通、結婚した後に訊くヤツじゃなかった?


――――――――――――――――――――

【あとがき】


 これまでご愛読ありがとうございました。わずか1ヶ月ぐらいのお付き合いでしたが、

『ゲームの世界から追放されたら、幼女になって受肉したので地球でのんびりと暮らしたいと思います。』はこれで完結になります。


 また、他にも色々書いているので読んでくださると嬉しいです。

 それではまた、別作品でお会いしましょう。

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ゲームの世界から追放されたら、幼女になって受肉したので地球でのんびりと暮らしたいと思います。 名月ふゆき @fukiyukinosita

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