はじめてのお正月っ!




 昨夜は確か年越しまで起きていると言ってお義母さんとアニメを見ようとしていたことは覚えているんだけど、そこから先の記憶がない。気がついたら朝になってた。

 いつの間にか寝ちゃってたのかな? なんかスゴいショックを受けるような出来事があったような気がするんだけど……夢だったのかな。子供の身体だとすぐ眠くなっちゃうのかもしれないからね。


「明けましておめでとう、ファム」

「? お義母さん、おはよう」


 いつもとは違う挨拶をしてきたお義母さんに首を傾げていると、お義母さんがお正月の挨拶はこういうものなのだと教えてくれた。


「あけましておめでとうございます」

「じゃあお着替えしましょうね」


 わたしはパジャマを脱いでお洋服をお義母さんに着せて貰った。今日の服はスゴく着替えやすそうな服だった。


「?」


 わたしは少々、疑問に思いながらもお義母さんと部屋を出た。

 一階に降りるついでに兄さんを起こした。

 兄さんの起こし方も、もう慣れた。ベッドの上から兄さんに座ってあげれば起きてくれる。


「兄さん朝だよー!」


 一度で起きないときはベッドをギシギシと音を立てながら、何度も兄さんのお腹の上で跳ねてあげると起きる。


「その起こし方やめろって言ってるだろ」

「あっ、起きた。あけましておめでとう!」

「あけおめ」


 なんという傲慢な略し方! 日本の文化を切り捨て過ぎじゃないの!?

 兄さんに少しばかり憤りを覚えながらも、わたしは部屋を後にした。

 一階に降りたわたしはお義父さんに挨拶を済ませてビスケットたちのいる炬燵へと混ざりに行った。


「ビスケットたちもあけましておめでとう」

「ニャー」


 お義母さんが朝食を用意するのを確認すると、わたしは食卓……もとい、お店のソファー席に向かった。


「あれ? なんか豪華じゃない?」


 いつもは例のお医者さんから貰った食事なのに、今日はずいぶんと違う。

 これもお正月だからなのだろうか?


「ファム、運ぶの手伝って」

「はーい!」


 お義母さんに呼ばれて朝ごはんの『お雑煮』を両手で持って1つ運ぶ。

 一方でお義母さんは、お盆を駆使してお雑煮3つと取り皿やお箸を運ぶ。

 お義母さんスゴいなぁ……


 お義母さんに感心しながらもわたしはお雑煮を運んでソファーに座った。お義母さんたちのお雑煮はわたしのお雑煮とは違って白いナニカが浮いていた。


「なにそれ」

「お餅よ。ファムじゃ噛めないし、喉に詰まらせたら大変だからね。一口なら食べさせてあげるから、我慢してくれる?」

「うん、わかった」


 お餅は一口食べられれば良いや。それに、他にもこんなにたくさん食べ物があるから食べきれるとは思えないし。

 それから朝食の仕度を終えて、兄さんが降りてくると、わたしたちは朝食を食べ始めた。


「ファム、お餅は喉に詰まらせないようによく噛んで食べるのよ」

「はーい」


 お義母さんにお餅を口に入れて貰う。お餅は噛んでみるけど、モチモチしていて噛みきれない。たった一口食べるだけなのに、二分近くかかってしまった。

 これはかなり大変だ。お餅、今年はもう十分です……。


「これは黒豆で、こっちが蒲鉾。柔らかいから食べてみて」


 お義母さんがお皿によそってくれる。わたしは無器用ながらもお箸を扱い、何とか黒豆を掴む。

 お箸は最近使い始めたばかりでまだあまり慣れていない。お義母さんが言うには小学校ではみんな使っているから使えないと変に見られるんだとか。

 わたしは自ら変な目で見られたいと思うような変態ではない。地球での常識はできる限り学んでおきたいのだ。

 黒豆を口に含むと先ほどのお餅とは比べ物にならないぐらい噛みやすかった。おまけに甘味があっておいしい。


「かまぼこ……二種類あるの?」


 片方のピンク色が付いているかまぼこはアニメでお馴染みだけど、無色のかまぼこは初めてみた。


「赤いかまぼこには『魔除け』、白いかまぼこには『清浄』の意味が込められてるのよ」

「へぇー……」


 存在そのものが『魔除け』のわたしにはちょっとばかり心細く感じた。こんなかまぼこ1つで『魔除け』などできるのだろうか。


「一種のおまじないみたいなものよ。ファムの居た世界と違って、ここには魔法もなければ神子だって居ないんだから」


 聖女や神子、神様という単語だけでもそれなりの力があった。人々はそれだけで安堵する様子も古代の文献に目を通しただけでも窺えた。

 聖女や神子の概念がないこの世界でも神様はあるみたいだし、神頼みってヤツだね。


「うん、わかった」


 わたしは赤い色の付いたかまぼこを箸で掴み、口に運んだ。


「……おいしい」


 それから朝食を食べ終えるとお義父さんがわたしに小さな紙袋をくれた。


「ファム、お年玉だ」

「お年玉?」


 なんだろうかと思って紙袋を開けてみると、中にはお金の形をしたお菓子が入っていた。


「お菓子だ! お義父さんありがとう!」


 わたしが笑顔でお礼を言うと、二ヶ所から同時にドタドタと足音が聞こえてきた。首を傾げていると、兄さんとお義母さんがお年玉をくれた。どうしてかわからないけど、二人とも少々息遣いが荒かった。

 それからしばらくすると、わたしはお義母さんに呼ばれて二階へと上がった。


「お洋服脱いだら着付けするからね」

「はーい」


 これから神社へ初詣に行くため、わたしはお義母さんに袴の着付けをして貰った。


「かわいいぞファム! もうそこらのアイドルなんて比べ物にならないぞ!」


 兄さんがスゴい高そうなカメラを持ってわたしのことを撮ってくる。

 着付けた後に兄さんと遭遇した瞬間には、この始末である。いったいあのカメラはどこから取り出したのだろう。

 兄さんが撮り終えると、次はお義父さんだった。親子だからなのだろうか。まったく同じことをしていた。あとはビスケットたちも呼んで、家族の集合写真を撮ったよ。写真は今度現像してくれるらしいから、枕元にでも飾ろうと思う。

 そして幾分かの時間が過ぎ、わたしたちはご近所にある神社へとやって来た!


「お義母さん、人が多い!」

「ふふっ、そうね。でもそれと同じぐらい猫さんも多いと思うわ」


 お義母さんに言われて後ろを振り返ると、大量の猫さんたちがゾロゾロとわたしの後ろを追従していた。

 い、いつの間に……全然気付かなかった。


 わたしが初詣のための列に並べば、当然この子たちもわたしの後ろに並ぶわけで、後ろの人の待ち時間がとんでもなく長くなったのは言うまでもない。

 神社の関係者っぽい人は猫さんたちを追い払おうとするけど、一向に退かないため、一匹ずつきちんと説明して帰るように説得していた。


「ほら、邪魔だって言われてるよ。わたしは大丈夫だから、帰っていいよ。他のみんなにも伝えてあげて」


 わたしが一番近くにいた猫さんを撫でながら言うと、その猫さんは凄まじい速度で他の猫さんたちを説得させた。

 説得させられた猫さんたちは徐々に神社から離れて行き、一時的な混乱はそのまま収束した。

 ……え? 混乱してたの?


「ほらファム、順番よ」

「はーい」


 帰って行く猫さんたちを眺めていたら、いつの間にか順番が来ていた。

 お義母さんから五円玉を授かり、お賽銭箱に投げる。

 そして大きな鈴を鳴らして兄さんたちと同じように手を合わせる。

 ……そういえば、なにか願ったり、感謝したりするんだっけ? じゃあ――――


『神様。わたしをこの世界に運んでくれてありがとうございます。これからも楽しい日々が送れるよう、見守っていてください』


 わたしは最後に一礼すると、お義母さんに呼ばれた。


「ファム! おみくじするんでしょ!」

「おみくじ!? うんっ! する!」


 わたしはお義母さんの元まで急ぎ足で移動しておみくじを引かせて貰った。

 何が出るかな! 大吉かな? それとも中吉かな? 楽しみだなぁ……!






「……小吉」





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