年越しぐらい起きてられるもん!
クソ王子と別れたあと、わたしはケーキに乗って裏道から王宮の外へと脱出した。
兄さんと再開したときにはもう既にマリアは神殿に帰っていた。
マリア、絶対しばらく引き籠るつもりだよね……
「兄さん、終わったよ。全部」
「そうか……」
「兄さんのおかげだよ。本当ならお父さんとお母さんにも会えなかったはずだし、ルカにも会えなかった。それどころか大切な村に住んでる人たちを見殺しにするところだった。わたしがここまでできたのは全部兄さんのおかげ。本当に……ありがとう……」
この感謝はしてもしきれない。今度、きちんとお礼を返そう。
「あまり泣いてると可愛い顔が台無しだぞ」
兄さんはハンカチという布切れでわたしの涙を拭った。
「ほら、帰るぞ」
「……うん!」
わたしは、兄さんの手を取って村へと戻った。
村に戻ったわたしと兄さんはルカと村長さんに報告してログアウトした。
それから数日が過ぎたある日のこと。
わたしはお店でビスケットたちと炬燵でぬくぬくとしていた。
「ニャー」
「温かいねー」
「ニャー」
今日はお店がお休みらしい。年が変わる前日は『大晦日』と呼ばれており、『お正月』と同様に色んなお店がお休みするんだって。
明日はわたしの誕生日だから、お義母さんが「誕生日プレゼントは何がいい?」って訊いてきた。わたしはせっかくだからこの国のお正月というのを過ごしてみたいとお願いした。
特にアニメで見た『おみくじ』というのをやってみたい。あの大吉とか中吉とか出るアレがやりたい。
「ファム、そろそろ散歩行くぞ」
「えーっ、今日はいいよー」
外だって寒いし。歩くの疲れるんだもん。
「こういうのは習慣が大事なんだぞ。ほら、母さんに言って着替えて来い」
「……はーい」
面倒だけど、行くしかないかな。ビスケットたちが羨ましい……
わたしが炬燵から抜け出して、ビスケットたちの方を見ると、ビスケットたちはがんばれーと他人事のように手を振っていた。
「……父さん、コイツらってこんなお団子みたいだったか?」
「いや、たぶんファムが餌をやりすぎたんだろ。……これは少し太りすぎかもな」
餌? そんなにあげてたかな?
まず朝食を与えて、十時ぐらいにおやつ与えて、昼食与えて、三時におやつ与えて、夕食与えて、デザート与えて……あげ過ぎてたかも。道理で最近重くなったと思ったよ。
シャーベットたちのスラリとしたフォルムがビスケットやシナモンと同じ肉まんになりかけている。ちょっとマズいかも。
ビスケットとシナモンに至っては肉まんを極めてケーキの子犬バージョンみたいになってる。
「これはダイエットが必要だな。颯斗、悪いがコイツらも一緒に散歩に連れて行ってくれないか」
「えー……」
「ファムがいれば離れることもないだろうから、リードさえ握ってれば大丈夫だろ。じゃあ頼んだぞ」
兄さんたちの会話を聞きながらもわたしは二階へと上がった。
お店から出ていくときにビスケットたちが哀れな目をしていたからフッと軽く笑ってあげた。先ほどまでわたしを小馬鹿にしていた罰だと思って、一緒に地獄に落ちよ?
「ニャアァァァァアアアッ!!!」
階段の下からビスケットたちの叫び声が聞こえてきた。今頃、兄さんに首輪でもつけられているのだろう。あっ、兄さんを爪で引っ掻こうとしても無駄だよ。わたしが毎日きちんと手入れして爪で怪我しないようにしてあげてるからね。
それからわたしはお義母さんにコートを着せて貰って手袋を嵌めた。マフラーを身につけて耳当てをつけた。いつもの完全防備だ。
「よしっ、みんな行こうッ!」
「ニャー……」
ビスケットたちの元気がない。普段からあの温かい炬燵でぬくぬくと生活をして、寒さに馴染んでいなかったその身体は自らのグータラさを呪うほどのものだろう。
わたしとしては道連れにするお供が増えてくれたので万々歳なのだが。
「いってきまーす!」
「気をつけて行けよ」
「はーい」
お義父さんに元気に返事をして、兄さんと手を繋ぎながら、ビスケットたちと散歩に出た。
扉を開けると外の冷たい風が流れてきた。
「ひゃうっ!? ……寒いね」
ビスケットたちもブルブルと震えていた。寒いから仕方ないよね。でも猫なら毛がフサフサだから大丈夫でしょ。
今日はお店を出て右側にある商店街を目指すことにした。ビスケットたちと踏切を渡るのは少し怖いからね。……ん?
「ねえ兄さん」
「どうした?」
「ビスケットたちっていつの間に子供産んだの?」
わたしの言葉を聞いた兄さんが後ろを振り向く。そこには寒がりながらもわたしの後ろをきちんと歩いているビスケットたちが居て、そのさらに後ろには見知らぬ猫さんたちが追従していた。
「いや誰だよ。ビスケットたちの子供だとしたら大き過ぎるだろ」
……そういえばそうだね。じゃあこの猫さんたちはご近所の猫さんたちなのかな。どの子もかわいい。
「兄さん、このままお家で飼っちゃ……」
「ダメだ。何匹いると思ってるんだ」
ですよねー……
もうビスケットたちだけでもかなり多いのに、これ以上飼うなんて難しいよね。というかこの量はさすがに多いよね。野良猫さん、何匹いるの? 数えきれないよ。
この猫の大行列は通行人全員の目を集めていた。きちんと二列に並んで追従してくる辺りがまた異様だったのだろう。
「なにあの娘、かわいい」
通りすがった女性……結月さんと同じぐらいの年かな? その人がわたしに携帯を向けると、カシャッという音が聞こえてきた。それと同時に兄さんがその女性の携帯を鷲掴みにして、色々言っていた。
「うわっ、なにあの兄さん。きもーい」
「グハッ!?」
べつに写真の一枚や二枚程度なら撮ってもいいよ。それなのにいちいち兄さんはうるさい。
わたしは女性に謝りながらも撮るだけなら良いよと言った。女性も謝りながらもありがとうと、お礼の言葉を言って写真を撮った。
写真を撮り終えても尚、兄さんは四つん這いの状態から立ち上がろうとしなかったので置いていくことにした。
例え恩人だとしても、こんな路上で四つん這いになってる人とは一緒に居たくない。
それからいつもの散歩コースをビスケットたちと歩いてお店へと帰ってきた。
「ファム、早く野生に帰してきなさい」
「はーい……」
やっぱり飼えないよね。ざっと見ただけで百匹以上もいるから仕方ないんだろうけど。
仕方なくわたしは猫さんたちを野生に帰してくることになった。
「みんな、お家帰っていいよ。ここまでありがとう」
「ニャー」
「ニャー」
猫さんたちは、まるで任務を終えた兵士さんたちのように自らの住み処へと帰って行った。
その日の夜のこと――――――
「年越しまで起きてる!」
「まったく……風邪引くといけないから、炬燵からは出ないようにね」
「はーい!」
わたしは二階にある炬燵でぬくぬくとしながらお義母さんとアニメを見る。魔法少女まどなんちゃらを見てる。
主人公の女の子が全然魔法少女にならないのがちょっと意外だ。
『ティ□・フィナーレッ!』
おおー! 黄色い魔法少女が可愛いぬいぐるみの敵を撃ち抜いたッ!
あれ? 可愛いぬいぐるみの中からなにか出てきた……
「えっ……?」
ぬいぐるみの中から出てきた黒いナニカが黄色の魔法少女へと一直線に迫り、大きく口を開いた。
「…………ッ!」
わたしは目の前で起きた惨状を目を見開いて見てしまった。
魔法少女ってこんなに酷いモノだった?
そんな……酷いよ。こんなの、あんまりだよ……
わたしはショックのあまりに意識を手放した。
「……ちょっと刺激が強かったかもね。精神年齢は颯斗とそんなに変わらなくても、基本的には幼児ってことね」
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