国を滅ぼ……救済しようッ!
神殿からマリアを連れ出して、わたしたちは王宮へと向かう。馬車を使うとサキュバスに気付かれてしまうため、マリアにはフードを被せて歩かせることにした。
「働きたくないです」
「王様殺して国王になれば働かなくていいんじゃない?」
「……なるほど、その手がありましたか!」
実際、そんな手はないよ。王様殺したら家臣たちが襲ってきて首が跳ぶから、すぐに逃げるよ。
そしたらわたしたち、晴れて指名手配犯だねッ!
……そしたら今後、行動が制限されちゃいそう。なんか面倒だし、家臣たちもヤっちゃおうかな?
「じゃあ皆殺しだね!」
「皆殺しですね!」
わたしとマリアは意気投合すると、不気味な笑い声を出しながら笑っていた。
「……コイツら、神子と聖女だよな?」
若干引き気味に兄さんは呟いた。
「あっ、ここだよ」
「暗いな……」
地下水路の入口に二人を案内する。逃げそうなマリアに関しては手を恋人繋ぎで逃がさないようにしているから、拒否権はない。
それでも全力で振りきられればすぐに外れてしまうけど、兄さんが逃がさないと思う。
「いつも市場に行くときに使ってたんだ。王宮内部には最短ルートだよ?」
「王宮の警備ってこんなにガバガバだったのですか?」
「神殿もなかなかだったけどな……」
こんな地下水路に立ち寄る人がまず居ないんだよね。それでもこの水路がそれなりに綺麗なのはお菓子をくれるおじさんが頻繁に使うから、定期的に掃除してるんだろうね。
でも、いつもよりちょっと薄汚ないような気がする。あのおじさん、サキュバスに気付いて逃げたのかな?
「えっと……あった!」
わたしは水路付近にある小さな赤いボタンを押すと真後ろの扉が少し開いた。
ここの扉は回転式になってる。忍者みたいだよね。壁に張り付いてぐるんってひっくり返るヤツやってみたいんだけど、ここの扉は重いから出来なさそう。
「侵入者用通路じゃねーか」
「? わたしたち、今は侵入者だよね?」
「そうですね」
「……もういい。イリヤ、案内任せた」
マリアにイリヤって何かと聞かれたから神子であることを隠すための偽名と答えておいた。
わたしは隠し通路をいつも通りに進んで二人を案内する。
「ここだね」
ちょっとだけ壁を押すと、入口と同じように壁が回転する。
「ここは?」
「地下だよ」
「妙な生活感があるのは?」
「わたしが住んでたから」
「はあ?」
兄さんとマリアから違うトーンの声が聞こえてきた。マリアは信じてないような感じだけど、兄さんは怒ってるような感じだった。
さすがはシスコン。どうせ心の中で「俺のこんなに可愛い妹をこんな所で寝かせるとか頭イッてんじゃねーか。潰すぞオラ」って思ってるだろう。
まあ事実、頭イッてるんだけどね。
「さっ、こっちだよ」
いつもクソ王子が謁見の間に行くときはこの道を通れって指示してきた薄汚い経路。クソ王子はメイドですら立ち寄らないような場所をわたし専用の通路とした。わたしが廊下を歩くと王宮が穢れるんだってさ。
でも今回はそれが裏目に出たね。わざわざ人の目がない道をわたしに教えてくれてたんだから。
「ここを開ければ謁見の間だよ」
わたしは小声で二人に教える。二人は黙って頷いた。謁見の間からはあのクソ王子の声が聞こえてくる。会話相手は……女? サキュバスかな?
「開けたら王子の股間を破壊して」
「……は?」
「サキュバスの退治法なの!」
「……マジかよ」
「じゃあ、開けるよ」
わたしが勢いよく扉を開けると同時に兄さんが王子に目掛けて突っ込む。
マリアはサキュバスに近寄る。今は触れることも魔法でダメージを与えることもできないけど、王子の股間が殺られればダメージを与えることができるようになる。射程距離にいれば成功率は上がる。
わたしはというと、扉を開けたらお仕事が終わりなので「がんばれっ、がんばれっ♪」と応援している。
だって何もできないんだもん。仕方ないじゃん。せいぜいこの扉からサキュバスが逃げるのを封じることぐらいしかできないよ。
「悪く思うなよ。愛する妹のために、お前の聖剣、破壊させてもらう!」
兄さんが予め渡しておいたトンカチを振った。
なんかカッコいいセリフ言ってるけど、翻訳すればただの下ネタにしか聞こえない。日本語って不思議だ。
「アフッ!?」
兄さんの振るったトンカチが王子の股間に大ダメージを与えた。
「うわっ、アレは痛いだろうなぁ……」
見てるこっちが辛いよ。ちょっと目を閉じておこうかな。……って、それどころじゃなかった!
「マリア!」
「わかってます! 『ターンアンデッド』ッ!」
マリアがサキュバスに目掛けて神聖魔法を放つ。かなり苦しんでるように見えるけど、相当養分を蓄えていたのだろう。あまり浄化出来てない。
「『ターンアンデッド』ッ! って、神子様も手伝ってくださいッ!」
「いや、わたし魔法使えなくなっちゃったし」
「ハアッ!? ふざけんじゃないよ! さっさと逝けよッ!」
おーい、聖女様ー? お口が悪ぅごぜぇますよー?
「『ターンアンデッド』『ターンアンデッド』『ターンアンデッド』『ターンアンデッド』『ターンアンデッド』ッ!!」
我を忘れた聖女様は、それは見事に魔力が尽きるまで浄化魔法を使い続けましたとさ。もうオーバーキルしてたね。
「お疲れさま。お仕事終わりだよ。……どうする? 国、滅ぼしておく?」
「おい」
「じょ、冗談だよ~」
兄さんに睨まれてちょっと肩が震えた。さすが男の股間を狩っただけの男。かなり強気だ。
「マリア、立てる?」
「アンタのせいでむりです。運んでください」
「……黙っててごめん」
モンシュターボールからケーキを出した。
「兄さん、マリアを連れて先に行ってて」
「……わかった。気をつけろよ」
「うん、大丈夫」
兄さんが扉を閉めるとわたしはケーキと一緒に倒れているクソ王子の元へ向かう。
兄さんはわかっているのだろう。そのうえで止めなかった。これはわたしのケジメだ。
「お久しぶりですね。ローランド殿下」
「……なぜ生きている」
「どうしてだと思います? 殿下、どうですか? 股間を狩られたお気持ちは」
「殺すぞ」
「あら、ここにわたしに懐いたフェンリルがいるのですが、同じことが言えますか?」
わたしはケーキの頭をよしよしと撫でながらクソ王子に説明してあげる。
「何が目的だ」
「べつに? 股間を狩られたお気持ちが知りたいぐらいですね」
ルカたちのことは伏せる。間違っても言えばルカたちに被害が及ぶ。さすがのクソ王子も、もう十年も関わってない村のためにわたしが行動を起こすとは考えてないだろう。
「ナメてんのか」
「あっ、足が滑ってしまいました」
「ぐああああぁぁぁぁあああああっ!!!」
殿下の股間を踏みにじる。まだ痛みが残っているようでスゴい声が聞こえてきた。これが今までわたしのことを散々虐めてきた人の声だと思うと気分が良い。
「ほらほら、どうしたんですか? その程度でへばっちゃうようなヤツが王子を名乗るんですかー? この国大丈夫ですかー? ……おっと、そういえばこの国はサキュバスに乗っ取られてましたねー!」
「キサマ許さないぞ……」
「ワンパターン過ぎじゃありません? さすがに飽きてきましたよ」
多くの兵士たちの足音が聞こえてきた。まっすぐにこちらへと向かっている。
そろそろ興醒めかな。もう少し遊んでいたかったけど……
「殿下、あなたは神子という存在をきちんと理解するべきだったと思います。それこそ国王陛下や女王陛下のように……」
わたしはポケットからマチェットを取り出して殿下の首を掴む。
「あなたは国王にふさわしくない。今の殿下の状況、外の世界ではこういうらしいです。『革命』と……あの世で何が間違ってたのかを国王陛下にでも聞いてください。それではさようなら、殿下」
わたしはクソ王子に目掛けてマチェットを振り下ろした――――――
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