わたし一人でもできるもん!


 ケーキと森の中へ突っ走って小一時間ぐらい経った頃。

 わたしはケーキとメダルを探して森を駆け回っていた。


「インフェルノブレス! 極小で!」


 規模だけが小さくなったケーキのインフェルノブレスがライオンみたいなモンスターを焼き付くした。

 いやぁー、ケーキって最強過ぎじゃない?


「……何かドロップした」


 限定メダル五枚だ! これで合計十八枚だね。今回獲得したメダルが多かったけど、特別に強いモンスターだったのかな?

 まあいいや。次行こっ。


「っと、その前に……」


 ステータス画面を開いてチーム総獲得メダル量を確認する。わたしたちのチームは全部で六十枚ぐらい。ランキング順で一番上のチームなんて既に百枚を超えてた。

 トップの人たち、わたしたちの二倍近くあるよ……


「スゴいね。ケーキ、わたしたちも頑張らないと!」


 わたしとケーキはメダルを求めて森の中を進み出した。

 そういえばさっきダンテさんから兄さんたちが騒がしいから早めに帰ってくるようにってメッセージが届いてた。あまり遠くに行くのも良くないよね。


「もう少ししたら引き返そっか」


 そう言った直後だった。わたしとケーキの前には洞窟みたいな穴があった。


「あそこ行ってみよ!」


 あの洞窟を見たら引き返すことにしよう。

 近付いてみて気づいたけど、入口のサイズがかなり小さい。わたしでもギリギリ通れるぐらいだ。

 奥を覗いてみても真っ暗だし、ちょっと怖いな……

 するとケーキが小さくなって洞窟の入口の前に立った。


「ケーキ?」


 もしかして、先に行ってくれるのかな?

 ケーキが頑張ってるのに、わたしだけこんなところで待ってるわけにもいかないよね。


「ありがとうケーキ。行こう」


 ケーキの頭を撫でると、わたしは洞窟の中へ入った。洞窟内の視界は最悪で入口から照らされるわずかな光を頼りに前へと進む。

 暗い……けど、誰かいるような気配もない。この洞窟、いったい何なんだろう……

 少し進むと前方の壁に緑色の光が見えた。


「出口……?」


 どうやら壁に光が当たっているようだ。あそこの角を右に曲がれば何かある筈。わたしは、先ほどよりも早い足取りで洞窟内を進んだ。


「……っ!?」


 誰かいるっ!?

 わたしは岩陰に隠れて様子を窺う。わたしの視線の先にいるのは赤い服を着て大きなゴミ袋を背負った怪しげなお爺さんが一人。

 まるで何かを探しているかのようにキョロキョロと辺りを見回している。けれど、何故かこちら側には振り向かない。

 そして、そのお爺さんの手前には不自然に用意されている布団が1つ。

 ……あそこで寝ろと?


 あのお爺さんが何者なのかわからない。布団に入った瞬間にあのゴミ袋でベッチャっと潰される可能性も十分にあり得る。行くのは少し危険のような気がする……


「……あれ?」


 わたしって、物理ダメージ受けなかったよね? じゃあ最悪ケーキを守れればそれで十分ってことだよね?

 やってみる価値、あるんじゃないの……?


「ケーキ、戻って」


 小声でケーキに話しかけて、ケーキをモンシュターボールに戻す。モンシュターボールは『玄武のリュック』にしまう。

 赤服のお爺さんを覗いてみるけど、未だにこちらを振り向く様子はない。

 よしっ、行くなら今だ……!


 わたしはお爺さんに気づかれないよう足音を出さないようにしつつ、布団へと目掛けて走った。


「寝ているいい子はどこかの~?」


 お爺さんの声が聞こえてきた。やっぱり布団で寝ることに間違えないようだ。

 わたしは布団の中へと潜り込み、そのままゴロンと横になった。『寝ること』が正しいみたいだから、瞳を閉じてゆっくりと待つ。


「おおー、こんなところにおったか! ワシもずいぶん年じゃからな。気付かんかった。少女よ、良い夢を見るんじゃぞ」


 お爺さんに頬を軽く撫でられるような感触がした。しばらくするとシャンシャンという音が聞こえて、お爺さんの気配が消えた。

 わたしが目を開くと何かアイテムを入手したみたいで表示が出ていた。


『サンタさんからのおくりもの:イベントメダル1225まいをかくとく』


 サンタさん……って、だれ?

 まあいっか。なんかたくさんメダル手に入ったし、この辺は何もないし、帰ろ。


「おいでケーキっ。帰るよー」


 ケーキをモンシュターボールから出して来た道を戻る。洞窟は狭かったけど、帰り道は入口から光が見えてたから行きよりも早かった。


「――――っ!?」


 入口を出ようとしたそのとき、人影が見えた。わたしはケーキを抱えたまま少し下がって様子を窺うことにした。

 男の人が五人かな……? でもその奥にも結構いるように見える。


「……見られてるな」


 身体がビクリと震えた。ば、バレた……?

 わたし、バレたらどうなっちゃうの? メダルたくさん持ってるし、殺されちゃう? 

 物理攻撃は効かないわたしでも、魔法によるダメージは受けてしまう。玄武のリュックを装備して防御力が上がってるとはいえ、大人の扱う魔法なんて受けきれるわけがない。


「そこか!」

「ヒィッ!?」


 ナイフが飛んできた。わたしの両手のちょっと先の場所に刺さってる。ダメージを受けないとは言っても、さすがにこういうのは驚く。


「なんだガキかよ。そんなところで何してんだ」

「いやッ!?」


 なにこのヒト!? 超こわい! やだ! わたし、おうち帰るぅ!!


「ファイアボール!」

「あぶなっ!?」


 ファイアボールを放つと道が開けた。その隙に洞窟から飛び出して逃げた。洞窟に隠れてるのを見つけられた時点で隠れるのは得策じゃない。今は一刻も早く距離を!


「じゃま! ケーキ!」


 ケーキを元の姿に戻して飛び乗る。目の前に突然現れたモンスターを踏み潰して距離を稼ぐ。


「速ぇ……というかなんだあの饅頭まんじゅうは」

「でも、犬に乗る幼女か……」

「最高だなッ!」


 何かロリコンさんに近い台詞が聞こえてきたけど、わたしは気にすることもなく一心不乱に逃げた。途中、モンスターの群れっぽいのを踏み潰したような気もしたけど、構うこともなく逃げた。


「あっ! アレッ!」


 わたしとケーキの目先には、わたしが飛び出してきたギルドハウスが見えた。

 1時間で来た道を十分もしないうちに戻って来てしまった。気がついたらメダルが二十枚ぐらい増えてたけど、サンタさん? から貰ったメダルが多すぎて何とも言えない。疲れたし、戻ったらケーキをモフモフしてモフ値を回復しておこう。


「ただいまー!」


 扉を開けた瞬間にめちゃくちゃ涙を流した兄さんが飛び付いてきた。

 そんなに心配かけさせちゃったかな。


「頼むからお兄ちゃんを嫌いにならないでくれッ! 代わりにずっと一緒に居てやるから!」


 どうやら今回の件は兄さんのシスコン度数を大幅に上昇させてしまったらしい。というかずっと一緒に居るのがちょっとウザくなってきたから飛び出したわけなんだけど……言った方が良いかな?


「兄さんウザい」

「ぐはっ!?」


 兄さんが吐血した。

 もう同じ手はくらいません!


「ダンテさん! これあげる!」


 持っていたメダルを全部ダンテさんに渡した。兄さんはあのまま放っておこう。


「こんなにいっぱい、ありがとな」

「どういたしまして!」

「元気だな」


 ダンテさんに頭を撫でられると同時に背後からただならぬ空気を感じ取った。

 即座に後ろを振り向くと、そこにはいつもとは様子の異なるプラムさんの姿があった。


「イリヤちゃん? ちょーっとお話いいかな?」

「やだー」


 そういえばプラムさん、ダンテさんのことが好きだったね。でもこんな幼児に嫉妬するなんて、いくらなんでも予想外だよ。

 こういうときはさっさと寝るに限るね!

 おやすみなさーいッ!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る