はじめてのお散歩!
ゲームのクリスマスイベントが終わり、その翌日。
今日はゲームもメンテナンスというのですることができない。そのため、わたしはお店に用意されたこの『こたつ』と呼ばれるものに身を潜めている。
「散歩行くんじゃなかったのか?」
「さむい」
「ファム。お前がそこにいるとビスケットたちが炬燵に籠るから、外に行くか二階に行くかにしてくれ」
理不尽な理由でわたしは炬燵から追い出されてしまった。……ひま。
「兄さんお散歩行こっ」
「こんな寒い中歩いて風邪引いたらどうするんだよ」
「お義父さんがたくさん着せてくれたから大丈夫」
ベッドの上でゴロンとなっている兄さんがこちらに寝返りを打つ。
「……ずいぶん重装備だな。お前は北極にでも行くのか?」
その北極っていうのがどこかはわからないけど、この世界基準なら言うほど重装備じゃないと思う。タイツを穿いて、コートを着て、手袋をつけて、耳当てをつけたぐらいだ。
王宮生活をしてた頃は冬でもワンピース一枚だったから、よく生きてたなぁ、って思う。今なら確実に凍死は免れないね。
「兄さん! お散歩!」
「あと五分寝かせてくれ」
「……五分だけだからね」
五分ぐらいなら待ってあげよう。兄さんの服でも準備して待ってればいいや。
「兄さん五分経ったよぉ。早く行こうよぉ」
「あと五分だけでいいから」
「もう待てないよぉ! いいもん! わたし一人で行っちゃうもん!」
わたしは兄さんを置いて部屋から出ようとドアノブに手を掛ける。それと同時に兄さんがわたしの肩に手を乗せてきた。
「一人でなんて危ないだろ? 俺がついて行ってやるよ」
わたしが呆れながらも振り返ると、そこには既に着替えを済ませた兄さんが立っていた。
着替え早っ! さっきまでパジャマだったよねッ!?
わたしは兄さんに驚きつつも、扉を開けて階段を降りた。
そして玄関に置いてあるいつもの靴を持って、お店の入り口から兄さんと出ていく。
「お義父さん、いってきます!」
「事故には気をつけろよ」
「はーい!」
お店を出てまずは右に行く。道はわからないから、とりあえず道なりに進んでみることにしよう。……あっ、そうだ。
「ねえ兄さん」
「どうした?」
「小学校ってどこにあるの?」
「行きたいのか?」
「うん」
せっかく出歩くのだったら今度から通うようになる小学校を見に行きたい。
「仕方ないな。今日は小学校だけだからな」
「うん、わかった」
わたしは兄さんと手を繋いで歩く。こっちの道は、車でも来たことがなくて全く知らない。それでも辺りを見回せば、相変わらず不思議なものが多い。この世界に魔法が無いせいで、余計に理解できないのだ。
「ファム、どこに行く。踏切が鳴ってるときは入っちゃいけないんだぞ」
兄さんが指さした方を見ると赤い点滅が左右に交互して、カンカンカンカンと大きな音を鳴らしている。
そういえば信号機でも赤い点滅は止まれって意味だったね。それと同じなのかな。
「ぴゃあっ!?」
とても大きな音が耳元に響くと同時にガタンゴトンという大きな音が聞こえてくる。わたしはびっくりして兄さんにしがみついていた。
「電車見たことないのか?」
電車? 今のが? ……アニメで見たことあるけど、こんなに騒音するものだったなんて知らなかった。でも言われてみれば確かに効果音はアニメで見た通りだ。ちょっと乗ってみたいな。
「ほら、行くぞ」
「あっ、うん」
気がついたら踏切のカンカンカンカンという音は消えていて、目の前にあった黒と黄色の棒が無くなっていた。
わたしと兄さんは踏切を渡って近くにあるコンビニに立ち寄った。
「これがコンビニ……!」
コンビニは初めて来た! スーパーに似てるけど、所々違う!
「兄さん、アレなに!?」
「雑誌コーナーだな。色んな雑誌が置いてあるんだ。ファムが読むにはまだ早いかもしれないけど、母さんはたまに読んでるぞ」
「へぇー」
雑誌ってどういうのなんだろう? お義母さんが確かに読んでるところを見たことはあるけど、難しい漢字ばっかりだったからわからないや。
「あっ、アレ! アレ欲しい!」
「餡まんか……仕方ない。買っていくか」
「やった!」
餡まんが食べられるなんて! ちょっと前にテレビで見かけて食べたかったんだよね。
「でも今食べるとお昼入らなくなるから、餡まんはおやつな?」
「……はーい」
ちょっと残念。でもあとで食べられるならそれで十分だよ。
兄さんは餡まんを注文すると、店員さんから紙袋に入れられた餡まんを受け取った。
この世界の硬貨はメダル状のモノだけじゃない。紙媒体のモノもあればカードのようなモノもある。紙媒体のモノはわからなくないけど、カードは意味わからない。渡したと思ったら返して貰ってるし。アレでどうやってお金を払ってるんだろうね。
コンビニを出てわたしと兄さんは小学校を目指して歩き始めた。
「おっ、ここからなら見えるぞ。アレがファムの通う小学校だ」
家と家の隙間から建物が見えた。少し進んだところに曲がり角があるから、そこを曲がれば学校の正面なんだと思う。わたしは兄さんの手を引いて急いだ。
角を曲がると長い壁があって、少し進んだところに校門が見えた。
「おおっー!」
これが小学校! アニメで見たのとはちょっと違うけど、だいたい同じ感じだ!
ちょっとだけでいいから中見てみたいな。でも門が閉まってる……入れないのかな?
「今は学校も冬休みに入ったから開いてないんだろ。ほら、帰るぞ」
「ええー」
仕方ない、今日は学校の場所を覚えただけでも良しとしておこう。
でもアレだね。家から学校って結構な距離があるね。
「……兄さん疲れたぁ~」
「帰るまでが散歩だぞ」
「おんぶして」
「餡まんを置いて行ってもいいならいいぞ」
「けちっ」
ちょっと頬っぺたを膨らませて言ってみたけど、兄さんには通じなかった。
普段は親バカで過保護なシスコンのくせにどうしてこういうときだけ厳しいのさ。
わたしは仕方なく兄さんと手を繋いで家と帰った。
途中で体力が完全に尽きて兄さんにおんぶして貰ったけど、正直おんぶしてくれるならもっと早くからおんぶして欲しかった。
その夜、わたしが筋肉痛に悩まされたのは言うまでもない――――――
あっ、餡まんはめちゃくちゃ美味しかったです!
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