クリスマスイベント……にゃう!


「ごろごろごろごろっ~♪」


 わたしはビスケットたちの首もとを撫でている。というのも今日はゲーム内でクリスマスイベントが行われるため、ビスケットたちに構ってあげられないからだ。その代わりにお昼までは満足するまでビスケットたちを撫でてあげることにした。


「ニャー」

「ニャー」

「ニャー」


 まだまだ満足してくれるまで時間がかかりそう。どうしよっか?

 そういえば朝起きたら枕元にクマさんのぬいぐるみが置いてあったんだけど、アレはなに? 何を持ってしてクマさんはわたしの枕元に現れたの?


「ファム、昼飯できたからさっさと食いな」

「はーい」


 お義父さんに呼ばれて兄さんと昼食を取ることになった。

 兄さんの昼食はできたてほやほやのオムライス。チーズがトローリしていてよく伸びるのが特徴。

 対してわたしの昼食は湯煎で温めただけのレトルト栄養食品。噛みやすいようにドロドロしているのが特徴。

 兄さんのオムライス、おいしそう……


「ファム、食べたいのか?」


 兄さんが訊いてきた。それと同時にわたしは強く頷いた。この間にタイムラグはなかったと思う。


「一口ぐらいならいいけど、先に自分の分を食べてからにしな。残したら母さんに言われるからな」

「はーい」


 残したら確かに問題だ。お義母さんに怒られる……ことはないだろうけど、色々と文句は言われると思う。あと注射に行かされたらやだ。だから先に食べてからにする。


「食べた!」

「はやっ!? ちゃんと噛んで食べないとダメだろ?」

「噛む必要あるの?」

「……たしかに」


 せいぜいニンジンが固形物なだけで他は液状。子供用に柔らかく加工されたニンジンなら歯を使うまでもなく口を閉じるだけで勝手に崩れる。噛む必要など皆無に等しい。


「兄さん、あーん」


 わたしは兄さんの隣でお願いした。


「……ほら、あーん」


 ちょっと気恥ずかしそうに食べさせてくれた。これがオムライス……


「からい」


 オムライスをよく噛んで飲み込むと、即座に水を口に含んだ。


「子供用には作ってないからな。ファムにはちょっと辛かったかもな」


 オムライス 見た目に反して 辛かった。

 ファム、心の俳句。


「そろそろ時間だな。ファム、行くぞ」

「うん!」


 猫さんたちにバイバイしてお義母さんの部屋でヘッドギアを装着する。兄さんがログインすれば自動的にわたしもログインされるから、ヘッドギアを被れば兄さんを待つだけだ。

 しばらく待つと視界が切り替わる。いつもの見慣れた広場だ。


「よしっ、じゃあ行くか」

「うん!」


 っと、その前に。


「おいで、ケーキ」


 ケーキを呼び出して抱っこする。ケーキは抱っこするとモフモフしてて落ち着く。


「行こっ。兄さん」


 わたしと兄さんは集合場所であるギルドハウスへと向かった。


「こんにちわー」

「イリヤたん! どうかこの俺と結婚してくだヘブッ!?」


 ロリコンさんがわたしに近寄った瞬間に吹っ飛んだ。……イリヤたんってなに?


「イリヤ、気をつけろ。害虫っていうのはこうやって近寄ってくるんだ」

「う、うん。わかった」


 これはさすがのわたしでも肯定せざるを得ない。出会った瞬間にわたしみたいな小さな女の子に結婚を申し込んでくるなんて頭がおかしくなっているに違いない。わたしの代わりにお医者さんに注射をしてもらうべきだ。


「イリヤちゃんこんにちは。今日はよろしくね」

「よろしくおねがいします」


 プラムさんに挨拶を済ませると、結月さんが背後から抱き上げてきた。


「ああっ~イリヤニウムが補給される~」


 い、いりやにうむ? なにそれ? なんか専門用語っぽく聞こえるけど、全くわからないや。


「ユイ! このお兄ちゃんを差し置いてイリヤニウムを補給するだなんてあり得ないぞ!」

「男にイリヤニウムなんて百万年早いのよ」

「そ・れ・はッ! 俺以外の男だけだッ!」


 兄さんと結月さんが何か争ってるみたい。どうでもいいや。暇だしプラムさんのところに行こっ。


「イリヤニウム補給中~」

「プラム、てめえ抜け駆けはダメだぞ!」

「そうよ! アンタはダンテとイチャイチャしてなさいッ!」

「だ、ダンテさんは関係ないでしょ!?」


 今日はどこもかしこも騒がしいね。みんなイベントで浮かれてるのかな?


「…………」

「……お前も大変だな」


 なぜかダンテさんが同情するような顔をして頭をポフリと撫でた。


「ひゃっ!?」


 首を傾げているといきなりギルドハウスが揺れて転びそうになった。

 たまたま近くにいたダンテさんの足にしがみついて体勢を戻そうとすると、兄さんたちの騒がしい声が聞こえてきた。


「ダンテ、まずはお前をPKしてやる」

「チーム戦だろっ!?」

「お前は一線を越えた。敵対する理由はそれで十分だ」

「奇遇ねロリコン。今回ばかりは同意するわ」


 なんか兄さんたちがダンテさんに攻撃しようとしてる……これ、わたしが悪いのかな?


「ケンカだめ! ケンカする人はきらいです!」

「すっ、すいませんでしたぁぁああっ!!」


 兄さんたちが一斉に土下座した。ダンテさんは助かったとばかりに安堵の息を吐いていた。

 ダンテさん何も悪くないのに殺されちゃうのは可哀想だからね。守ってあげないと。


「おい、もうイベント始まってるんだぞ」

「……そうだな。じゃあ早速手分けして探すか」

「ケーキ、がんばって探そうね」


 さて、わたしはさっさと出て行ってしまおう。どうせまた下らないことで争いを始めるだろうから。


「イリヤは俺と行動するんだ!」

「何言ってるの! アンタはいつも一緒なんだから引っ込んでなさい!」

「私だってイリヤちゃんと一緒に居たいもん!」


 ほら始まったよ。アレ疲れるからやめて欲しいんだよね……


「仕方ない、ここは間を取って俺が……」

「寝言は寝て言えロリコンが!」

「アンタは黙って消えなさいッ!」


 ロリコンさんが一番酷かった。誰もが認める危険人物らしいから、シスコンの兄さんが渡したくないのも納得なんだよね。

 それに対して結月さんとプラムさんは、一度わたしと行動してるから兄さんも拒否することはできない。

 そして、誰も退こうとしない。

 だから決着がつかない。


「…………」


 わたしはもう面倒なのはごめんだよ! さらばッ!

 わたしはこっそりギルドハウスの扉を開けて外へと出た。


「わぁ……!」


 いつもなら街中にあるはずのギルドハウスは、平原のど真ん中に建っていた。いつもとは違う風景に驚き、わたしは興奮を隠せなかった。


「よしっ、ケーキ! 行こうっ!」


 ケーキを元の姿に戻すと、背中に乗り込んだ。そのまま兄さんたちに追い付かれないように森へと目掛けてケーキを走らせた。

 ケーキがどれだけ全力で走っても、わたしはケーキから落ちない仕様になっているらしい。加えてケーキは無敵のフェンリル。ある程度の弱いモンスターは自ら逃げて行く。おまけにトラップなどによる被害もなくなる。

 だから、ケーキの上は安心安全。


「よしっ、ケーキ。メダルを探すよっ!」




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