神技大公開っ!


 お義母さんが帰ってきて夕食を食べ終えた後に、わたしの『神技』についてのお話合いが始まった。


「えーと、つまり物に触れずに浮かせることができると?」


 お義父さんの質問にわたしは頷く。するとお義父さんとお義母さん、兄さんは互いに顔を見合わせて茫然としていた。


「お義父さん?」

「あ、ああ。この事は他の人に言っちゃダメだぞ。あと、その神技? 誰かいる所で使うんじゃないぞ。ファムを狙う悪い人が居るかもしれないからな。……というか居るから絶対使うなよ!」


 親バカかな? 親バカだね。けどわたしとしても、神技は副作用がキツいから使いたくもないんだけどね。

 しかもそれでできるのは物体を浮かせることと、結界を張ることぐらいだし。というか結界なんて何に使うの? 魔物が存在しないこの世界には不要なものでしょ。

 おまけに特技は何ですかって聞かれたら「雑草をそこいら中に生やすことです!」って答えるよ。頑張れば路上で園芸ができるようになるけど、副作用があるからヤダ。


「使わないよ」

「約束だからな!」

「絶対守ってよ!」

「使ったらお菓子作ってやらないからな!」


 なんでこの家族はここまで親バカなの。というか兄さん、お菓子作ってくれないのはイヤだからやめて。


「その神技って他にも何かあるの?」


 お義母さんがわたしに訊いてきた。


「ないわけじゃないけど、結界以外は目に見えないし、わからないことだから大丈夫だよ」

「結界?」

「うん。これ」


 わたしは試しに立方体の小さな結界を展開してコップ乗せてみせる。この結界は目に見えないからコップが浮いてるように見えるだけ。


「…………」


 信じてないのかな? それとも空中浮遊と同じように思われてる? なら、コップの中身を溢す!


「えいっ」

「えっ……?」


 わたしがコップをひっくり返すとコップから水が溢れる。

 けれど水はテーブルに落ちることなく、ある程度の高さを保ったまま広がっていく。

 そして結界のない場所まで広がると水はゆっくりと結界の壁を伝って、テーブルに流れた。

 茫然としていたお義母さんは、ハッとすると布巾を持ってきて水で濡れたテーブルを拭き始めた。

 その際に結界を解除すると結界の上に広がっていた水がテーブルに落ちた。


「うぐっ」


 頭が痛い! 反動が……!

 結界を展開した反動で頭痛がわたしを襲ってくる。


「おい、大丈夫か!?」

「う……ん……」


 兄さんの膝上に倒れてしばらく安静にしていると痛みが引いてきた。

 わたしが起き上がろうとすると、兄さんがわたしを兄さんの膝上に座らせてきた。お義母さんとお義父さんが羨ましそうに見てた。

 これはしばらく膝上で過ごすことになるだろうね……


「もしかしてその頭痛もさっきの神技と関係あるの?」

「うん……強い力を使ったり長時間使えば、その分だけ頭痛も強くなるよ。ちょっとだけならフラッてくる程度だけだけど、さっきみたいに使ってるとこうなる。前はここまで強くなかったんだけど……」

「前は?」

「あっ……」


 わたしは自分の失言に気づいて口を手で覆い隠した。

 やばっ。言いすぎた。まだ神技すら受け入れて貰えてるか分からない状況で話すのはよくない。どうにか言葉巧みに操って神子のことだけは隠しておかないと。


「どういうことか、説明してくれる?」

「少し前まではどれだけ神技を使ってもフラッとするぐらいで何ともなかった。でも、ここに来てからかな。急に反動が酷くなって……」

「そっか。ファムはどうして神技が使えるのかはわからないの?」


 お義母さんに言われて一瞬戸惑ったけど、まだ言うのが怖くてわたしは黙って頷いた。


「……そう。ありがとね、眠いでしょ? お風呂入って早く寝ましょ」

「うん……」


 わたしはお義母さんに抱えられてお店を後にした。


「まずは服を脱ぎましょうね」


 ヒーターによって温められた脱衣場で上着から順番に服を脱がされる。

 お義母さんは手際よくわたしの服を脱がせてあっという間に丸裸にされた。


「頭洗ってあげるね。濡らすから目瞑っててね」

「う、うん」


 シャワーからそこそこ熱い水が出てきて頭から掛けられる。夏はじっくりと髪にお湯をつけるのに対して、冬は熱を出すといけないからという理由で軽くお湯につける程度で済ませる。


「じゃあ手を出してね。シャンプーつけるよ」


 まずはシャンプーを髪につける。

 最初はわたし自身に練習ということでさせているけど、後の方はお義母さんが洗ってくれる。


「お湯かけるよ」


 お義母さんにお湯を頭からかけられてシャンプーの泡を流す。次にトリートメントという毛先の保護をする液体を髪に塗る。やらないと髪の毛がボサボサになっちゃうんだとか。

 たしかに王宮で暮らしてた時はわたしの髪の毛って結構ボサボサだった気がする。

 トリートメントを終えるとボディソープで身体を洗う。お義母さん曰く、肌はとても繊細らしくて優しく丁寧に洗ってあげる必要があるとのこと。


「ほら、脇とか首回りもちゃんと洗わないと臭うわよ」

「はーい」


 ちょっと洗うのが大変だけど、やらないと注射するって言うから仕方なくやる。お義母さん、なんでもかんでも注射するって言えば済むと思ってないよね?

 でもわたしは知っている。明日は定期健診の日だから、注射はできないということを。


 わたしはこの世界に来てから一月に一回、病院に行って定期健診というものを行ってる。食事が喉を通りにくく、身体が痩せ干そっているため、定期的に身体が健康かどうかを調べる必要があるらしい。

 わたしの一月分の食事もそこで貰ってたりする。

 最初の頃はドロドロとした液状の食べ物だったけど、最近はニンジンみたいな温めると柔らかくなる系の固形物が少しだけ混じるようになった。

 ニンジンとかピーマンとか子供の嫌いそうな食べ物は意外と食べられるから、「嫌いな食べ物はないの?」ってお義母さんに訊かれたこともあるけど、レモンとか極端に酸っぱいのは嫌いだ。食べ物を与えられて騙された感が半端ない。

 あっ、イチゴみたいに甘いのは大好物なのでどんどんください!

 話がかなり逸れちゃったけど、身体を終えたわたしはじっくりとお湯に浸けられた。


「ファムは上手にパジャマ着られるかな?」


 着られるわ! ……なんて言えるわけもなく、わたしはワンピースタイプの寝巻きを着て上からパーカーを羽織る。ボタン一つなかったよ。上からワンピース着てパーカーに袖通しただけだよ。

 ちなみにボタンがついてるパジャマは持っているけど、お義母さんはわたし一人じゃボタン付きパジャマは着替えられないと思い込んでるみたいで、そのときは勝手に着せてくる。

 いや、着替えられるからね? 実際、家族の親バカを改善するためにボタンの付け外しぐらいベッドで暇な時に練習してるからね。

 ……さて、お楽しみはこれからだよ!


「兄さんプリン食べる! プリン出して!」


 今日一日、がんばったわたしへのごほうびタイムだッ!



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