ピクニックに行きたいッ!


 わたしはプラムさんとダンテさんが互いに好き合っているという真実にたどり着きました!

 そのことを直接伝えてあげようとしたら、結月さんに口を塞がれました!

 どうしてッ!?


「いい? そういうのは二人のことなの。いずれは夫婦になるんだから、いつまでも誰かが手助けしてたら成長できないでしょ?」


 結月さんが言いたいことは、「夫婦になるんだったら互いのことぐらいわかるようになれ」ということらしい。

 二人が夫婦になることは確定なんだね。


「だから、私たちはソッとしておくの。わかった?」

「はーい」


 つまり、二人の恋仲に関して触れたら怒られるってことなんだね。よし、触れない! そうだ! ケーキと遊ぼう!


「おいで、ケーキ」


 モンシュターボールを軽く投げると子犬状態のケーキが現れた。

 ケーキはわたしの姿を見るなり、すぐに抱きついてきた。ペロペロと頬を舐めてくるのはくすぐったい。


「くすぐったいよぉ……!」

「ネットにあげたらバズるよな?」

「アンタがあげたら性犯罪者扱いされて一瞬で炎上するわよ」


 結月さんがロリコンさんと何か難しい話をしていた。

 炎上ってなんだろう? ロリコンさん、燃えるのかな?


「じゃあイリヤの自己紹介も終わったことだし、そろそろ本題に入るぞ」


 兄さんがリーダー格みたいな雰囲気を出すと、全員が切り株でできた椅子に座った。

 今回、わたしはプラムさんの膝上に座らされてる。

 結月さんと謎のバトルを数秒間だけ繰り広げてたけど、わたしがプラムさんの裾を掴んだことですぐに決着がついた。


「次回の大会はPvPになる。参加は任意だが、出来れば参加してほしい」


 兄さんの頼みとあっちゃ仕方ない。特別に参加してあげても……


「それと、イリヤは参加禁止だ」

「なんで!? わたしもやりたい!」

「人殺しだぞ?」

「ひぇっ!?」


 な、なんでそんな大会を開くの……!? この世界の人間、脳みそどうなってるの!?

 わたしゼッタイ参加しないからッ!!


「じゃあ参加するヤツは手を挙げろ」


 わたし以外の全員がスッと手を挙げた。

 なんで!? みんなそんなに人殺したいのッ!?

 わたしの人生の中で一番の驚きだよッ!!


「兄さん人殺すの?」

「……いいや、違うぞ。悪いヤツらをぶっ飛ばすだけだ。だから、イリヤは気にするな」


 わたしは兄さんの元まで歩み寄り、上目遣いで聞いてみた。

 兄さんは悪いヤツらを懲らしめるだけだって言ってるけど、さっき普通に人殺しだって言ってたような……?


「まあ、兄さんを応援してるね?」

「ああ! よろしく頼んだぞ!」


 それから兄さんたちは、作戦会議っぽいことをして作戦を練った。

 その間わたしは暇だったので、ギルドハウスにあった『前後に揺れる椅子』に座ってケーキに椅子を揺らして貰っていた。

 暇だ……どっか行きたいな。


「兄さん、どっか行こー」

「もう少し待っててくれ」

「えぇー……」

「あとでピクニックでも連れて行ってやるから」


 ピクニック……? それって丘まで歩いてサンドウィッチなるものを食べるとするアレだよね?


「はーい!」


 アニメでたまに見かけるから、興味あったんだよね。ピクニック、どんな感じなんだろう?

 しばらく椅子で前後に揺れてたり、ケーキをモフモフしながら時間を潰していると、兄さんたちは作戦を立て終えた。

 わたしは、兄さんの元へ駆け寄って「ピクニックピクニック!」と、はしゃぎながらピクニックを催した。

 そんなわけでわたしたちは、チーム全員でピクニックへとやって来た!


「あまり遠くには行くなよー!」

「わかってますぅー!」


 ダンテさんがお花畑へと直行するプラムさんに注意を促す。プラムさんはちょっと頬っぺたを膨らせながら返事を返した。

 プラムさんは、そんなだから小さく見えるんだよ。わたしみたいに黙ってサンドウィッチを食べることもできないの?

 このサンドウィッチうまうま。


「イリヤも行かなくて良いのか?」

ふぁふぉひっひおいウィッチ美味ふぃはらいいしいから良い

「飲み込んでから喋れ! お行儀悪いぞ!」


 はーい……


「お花畑よりもサンドウィッチの方が良い!」

「ユウキ、花より団子タイプよ」

「リアルだとすぐお腹が膨れるから、全然食えないけどな」


 結月さんと兄さんが失礼なことを言ってるけど、お花畑は王宮生活で散々見てきたから厭きただけだ。それに、十五歳にもなる成人した女性がプラムのようにお花畑へ特攻するのも変でしょ?

 大人な対応するのが当然だと思うよ。


「お花畑はキレイだけど、ここから見てるだけで十分だよ」

「……そうか」

「お茶ちょうだい」


 結月さんにお茶を要求すると、結月さんは水筒を取り出してカップにお茶を注いで渡してくれた。


「そういえば結月さんってレベルいくつなの?」

「34よ。最弱モンスタースライムばかり倒してるイリヤちゃんにはまだまだ届かないでしょうね」


 自慢気に言う結月さん。

 あー……うん。なんか、ごめん。わたしのがレベル36ってことは内緒にしておこう!


「イリヤちゃんはいくつなの?」

「ろ、6だよ! ね! 兄さん!?」

「あ、ああ、そうだな」

「そっか。頑張ってるね」


 兄さんにわたしのレベルが結月さんのレベルを上回っていることを内緒にするよう、笑顔を仕向けると、兄さんは相づちを打って辿々しく返事をした。

 しばらくサンドウィッチを貪っていると、兄さんが今日はもう帰るように言ったので、そこで解散することになった。


「バイバイ、イリヤちゃん。また明日ね」

「うん、また明日!」


 兄さんがログアウトすると同時に意識が現実世界へと戻ってきた。


「……おトイレ」


 ゲーム中はトイレに行くことができないので、目覚めるとすぐトイレに行きたくなる。

 まだ粗相をしたことはないけど、いつかしそうで怖い。それでも平然としてる兄さんの膀胱はいったいどうなってるんだろう?

 まあいいや。トイレ行こ。


「温かい便器に感謝を……」


 毎日思うけど、トイレが温かいってなんて幸せなことなんだろう。

 わたしの知ってるトイレといえば、地面に穴を空けただけで冷気と悪臭が漂って来る場所だ。こんなフローラルな香りはしない。

 このトイレットペーパーと呼ばれるモノですら初めて見た時は驚いたよ。

 貴重な紙で股を拭いてるし、わたしでは到底考えられるようなことではなかったよ。この国で例えるなら『諭吉』で股を拭いているようなものだ。

 どこのお金持ちだよって感じだった。

 それに、ボタン1つで水が流れて洗浄される機能。なにこれ? 神ですか?


「こんなわたしでもこの国の文明にすっかり馴染んだよ!」

「そうか。よかったな」


 兄さんたちは、わたしの過去について聞いてこない。

 最初は何度か聞いてきたことがあったけど、愛想笑いでわたしが言葉を濁してると聞いて来なくなった。

 たぶん、わたしのことを信用してくれてるんだと思う。別に隠すようなことでもないような気はするんだけど、いざ話すとなると言葉が出ない。

 お義母さんは「無理しなくて良いよ」って言ってくれるけど、その表情はどこか寂しそうに見えた。


 いつか、話せるようになったらいいな……




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