猫さんたちをキレイに!



 今日はお義母さんだけじゃなくて兄さんも休みなので、わたしは兄さんの部屋でゴロゴロとしている。兄さんは何かボールみたいな黒くて丸いものをカチャカチャと弄ってる。


「兄さん兄さん、なにしてるの?」

「ああ、友達から誘われてな。VRMMOをやるんだよ」

「ぶい?」


 兄さんの口からよくわからない言葉が発せられた。

 ……なにそれ? おもしろいの?


「ファムはしばらく母さんの所にでも行っててくれ」

「わたしもやりたい!」

「ファムはまだできないよ。もう少し大きくなってからな?」

「……はーい」


 ちぇっ、年齢制限みたいなのがあるなら仕方ないか。

 わたしは起き上がって扉の方へと向かう。

 寝るときはお義母さんの部屋で寝ているけど、昼間はお義母さんがテレビ……アニメっていうんだっけ? それを見るから兄さんの部屋に行ってなさいってわたしを追いやってる。


「えー……VRMMOの設定ってこんなに面倒なのか」


 ……よくわからないからいいや。お義母さんの部屋にでも行こ。

 わたしがお義母さんの部屋に入ると女の子同士がキスしているシーンでお義母さんは慌ててテレビを消してた。


「ど、どうしたの?」

「兄さんが、えー……ぶいなんとかをするからお義母さんの部屋に行けって」

「えー……ぶい?」


 わたしはコクりと頷いた。お義母さんは少し困ったような顔をして膝を叩いた。膝枕をしてくれるみたい。

 わたしはソファーに寝っ転がってお義母さんに膝枕をして貰った。


「お昼寝でもしましょうね~」

「うん」


 することがないならお昼寝だ。お昼寝は空腹も忘れさせてくれるからスゴく良いよ! わたしなんて寝ようと思ったら三秒で寝……れ……る……よ…………



 ◆



 プリズマ☆なんとかを見ていた裕美子は突然部屋に入ってきたファムに驚いてテレビを消してしまった。

 なんとか誤魔化して(?)ファムを寝かしつけたのだが、裕美子はアニメの続きよりも気になることが出来てしまった。


「さっきファムが言ってたの、AVよね?」


 幼児に何を教えてるんだという思いと息子がここまで大人になってるなんてという思いでアニメどころではなくなってしまった。


「見に……いや、それはダメでしょ! 今あの子は1人で楽しんでるのよっ!?」


 ※颯斗はVRMMOを楽しんでいます。


「男の子の事情はよくわかるけど、そのうちファムにまで欲情しないわよね? この前だって一緒にお風呂に入ったって聞いてるし」


 十数分間悩んだ末、裕美子は後程感想だけ聞くことにしてアニメの続きを見ることを選んだ。


「やっぱ週末の生き甲斐は百合よねぇ~!」



 ◆



 だいぶ眠ってしまっていたようで、目を覚ますと既に夕食の時間になっていた。

 わたしはお義母さんに連れられていつも通り下のお店で猫さんたちと一緒にご飯を食べている。


「ねえ颯斗、(妹を放り出して見たAVは)どうだった?」

「ああ、最高だった! (あのVRゲームは)マジで嵌まるわッ!」


 お義母さんが兄さんに訊くと兄さんはめちゃくちゃ元気に返事をした。兄さんのその反応を見たお義母さんはめちゃくちゃ驚いた顔をしてた。

 微妙に話が噛み合ってないような気がするけど、兄さんも楽しかったみたいだし、いっか!


「ほら、口開けろ」

「あーん」


 シチューうまうま……


 わたしが夕食を食べ終えてもなお、兄さんとお義母さんが何やら騒がしかったので猫さんたちと遊んで時間を潰すことにした。


「ニャー」


 あ"っ~、めっちゃもふもふなんじゃ~!


「ファム、少し良いか?」


 お義父さんがわたしの元へ近寄って来ると、お義父さんは耳元で「コイツらの身体を洗いたいから手伝ってくれ」と頼んできた。

 わたしは猫さんたちを連れて、お義父さんと一緒にお風呂場へと向かった。


「俺が全員洗うから、ファムはそこでコイツらが逃げないように見ておいてくれ」

「はーい」


 一匹ずつ順番にお義父さんが身体を洗っていく。その間、わたしは順番待ちの猫さんたちを抱きしめたり首元を撫でたりして逃がさないようにする。

 猫さんたちを洗い終えた頃には、わたしもビショビショに濡れていた。濡れた猫さんたちを抱っこしてたから当然だ。


「ファムも洗ってやるから脱ぎな」

「えっ……」


 兄さんだけでなく、お義父さんにもしっかりと全身を洗われた。

 その間、猫さんたちは嫌がるわたしに「がんばれ」と言わんばかりな表情をしてわたしを見守っていた。

 ……ぐずん。もうお嫁にいけない。


「ニャー」

「ニャー」

「ニャー」


 猫さんたちが「よく頑張ったね」とわたしの頭を撫でてくれた。

 肉球で撫でてくれるのはごちそうさまなんだけど、猫が肩に乗るのって結構重い。


「ちょっと、お風呂入れたなら頭乾かさないと風邪引いちゃうでしょ!」

「す、すまん」

「もう良いから、ドライヤー持ってきて」


 お義母さんがお義父さんに怒ってた。この前も兄さんに同じことで怒ってた。

 お義母さんが言うドライヤーというのは暖かい風が出てきて、濡れた髪の毛をすぐに乾かすことができる不思議な道具だ。魔法で実現しようとすると、精密さが必要とされる。

 魔法で思い出したけど、ここでも使えるか試してみたよ。

 結論から言えばまったく使えなかったけどね!

 でも、神子だけが扱える『神技しんぎ』という能力は使えた。猫さんたちに懐かれやすい体質もそうだけど、神子としての力は残されているみたい。

 今わたしができることは全部で7つ!


 ①めっちゃ動物に懐かれる!

 ②部屋一つ分が限界だけど、結界の展開!

 ③植物の成長促進!

 ④作物がめっちゃ美味しく育つよ!

 ⑤空中浮遊!

 ⑥厄除け、魔除け(人為的な被害でなければ無敵!)

 ⑦どんなケガや病気でもすぐに治せる回復魔法が扱えるよ!(副作用の影響でわたしが病気の場合は使えないけどね!)


 っと、ご覧のラインナップとなっております! 

 この家で植物とか一切栽培してないから意味ない物もあるけど、なかなか便利じゃない?

 ケガどころか病気すらも一瞬で治せるよ! どう? なかなかスゴくない?


「ドライヤー持ってきたぞ」

「ファム、こっちおいで」


 お義父さんがドライヤーを持ってくると、わたしはお義母さんに呼ばれたのでお義母さんの方に近づく。

 ドライヤーでお義母さんに髪を乾かして貰いつつ、櫛で髪を梳かして貰った。

 お義母さんに髪を弄られるのが気持ち良くて、つい力が抜けてしまう。


「もたれ掛からないの。髪が乾かせないでしょ?」

「はーい」


 髪が乾くとわたしはいつの間にかお風呂に入っていた兄さんに預けられた。お義母さんはこれからお風呂に入るみたい。


「二階にでも行くか」

「うん!」


 わたしは兄さんに抱っこされて兄さんの部屋に運ばれた。

 って、思っていたらベッドの中に入れられたよ。しれっとわたしのこと寝かしつけようとしてるよね?

 お昼寝だってしてたんだから、そんなにたくさん寝られ……な……い…………

 わたしは呆気なく意識を手放した――――


「秒速だったな。母さんの部屋に運んでログインするか」




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