お買いものに行ってきます!





 今日はお義母さんが休みだそうで、わたしは朝からお義母さんに面倒を見て貰っていた。


「じゃあ、そろそろ行きましょうか」

「どこに?」

「お買い物よ」


 わたしが首を傾げながら訊くと、お義母さんは買い物をするために出掛けると答えた。

 わたしの服は替えがないから兄さんの服を適当に着てるけど、それだと可愛くないからとお義母さんが言っていたので、わたしの服を揃えに行くのだろう。

 今のわたしは靴も持っていないので、お義母さんに抱き上げられてお店の扉とは違う場所から外へと出た。


「おお……っ!」


 わたしのいた国とは風景がずいぶん違って感傷的な声を漏らした。

 お義母さんはそんなわたしを見て少し首を傾げていたが、わたしを馬車のような四角い乗り物の座席に座らせた。


「シートベルトもしっかりしないと、危ないからね?」


 お義母さんがわたしの隣に座ると座席の斜め後ろにあったシートベルトというものを斜め下にある穴に嵌めた。

 馬車にはこんなものはなかったけど、出発時と停車時は身体に負担がかかることがあったから、これはそれを抑制するものなのだろう。

 ってことはやっぱり動くんだね。でも馬もいないのに、どうやって動かすんだろ?


「ぴゃあッ!?」


 いきなり強い振動と大きな音が鳴ってビックリした。お義母さんは一瞬驚いてこっちを見たけど、すぐに前へと向き直した。

 ぜったい怪しまれたよね……?


「あれ? う、動いてるッ!?」


 お義母さんが円状のモノを握って横にあったレバーを下ろすと馬車のようなものが動き出した。

 見る限りは魔法を使っているようには見えないし、魔力の気配すら感じない。いったいどうやって動かしているのだろうか?


「えっ?」


 窓から外を見ていると、住宅が並んだ場所を抜けて街道のような場所に出た。

 そこはわたしの知っている国の文明とは遥かに異なるもので、見慣れないものしかなかった。

 ここは、いったい…………?

 もしかして、わたしはとんでもないところに来ちゃったのでは?


「ファムは車に乗ったことないの?」

「馬車なら何度か……」


 お義母さんは一瞬、拍子抜けしたような顔をしたけど、すぐににっこりとした顔をしてわたしのことを生暖かい目で見てきた。

 わ、わたし、何か変なこと言ったかな?

 そういえば馬車ってさっきから全然見てないような……あれ? 馬車どころか馬すら見てない?

 先ほどから黒い髪をした人間を見かけるばかりで、人間以外のエルフやドワーフ、魔族と言った他種族を見かけなかった。たまに茶色い髪をした人間と犬を見かける程度で、青い髪や緑色の髪をした人間がいない。


 魔法がないどころか、魔力を一切感じられないし、同じような人間しかいない。でも、技術や文明レベルはこっちの方が断然上ときた。……ここ、わたしの知ってる世界じゃないよね?

 一つ一つに驚いていたらキリがないけど、しばらくはここに住むみたいだからこの街の常識を知って置かなければならない。片っ端からお義母さんに訊いてみよう。


「お義母さん、アレはなに?」

「信号機よ。青は進んで良し、黄色と赤は止まれっていう意味があるの」


 じゃあ今は赤いから止まってるんだね。あっ、目の前をヒトが歩いてる。……ヒトの方は青くなってるんだ。この信号機っていうのは人間を安全に向かい側の通路へと渡らせるモノなのか。

 ただ光ってるだけの棒かと思ってたけど、ちゃんと意味があるんだ……


 それから目的地にたどり着くまでの間、色々なことを訊いてみた。

 一番驚いたのは高級な紙が何十枚もセットでリンゴよりも安いってことだったかな?

 そして、わたしは目的地であるデパートにやって来た!


「デパートってなに?」

「たくさんのお店がある建物のことよ」


 市場がこの建物内に集結した感じかな?

 周囲をキョロキョロと見渡して、色んなお店を見て行く。

 ……視線が痛い。なんか人とスレ違う度に奇怪なモノを見るような目で見らるよぉ! どうしてわたし以外に金髪が居ないのッ!?


 しばらく視線に耐えていると目的のお店にたどり着いた。最初はこの靴屋さんでわたしの靴を買うらしい。

 まあ、歩けないといつまでもお義母さんの負担になっちゃうからね。仕方ないか。

 靴屋さんでは水色の可愛らしい靴と、白色のサンダルを買った。

 お義母さんが勝手に決めて、履かされたと思ったらお会計をしていたから選択権なんてなかったけど。


 それから服屋さんに行って何着か服を買って貰い、ついでに帽子も買って貰った。さすがにこれ以上は視線に耐えられない。

 王宮の時でも汚物を見るような目で見られることは多かった。けれど、大抵の人が視界に入れたくないようで、すぐに目を逸らしてた。だから、こんな長い時間視線に晒されたことはなかった。


「ちょっと疲れちゃったかな? ケーキでも食べる?」

「食べる!」


 強く頷きながら答えた。

 昔、一度だけ食べたことがあるけど、そのときめちゃくちゃ美味しかったからまた食べてみたいと思ってたんだよね!


「じゃあ行きましょうか」

「うん!」


 わたしはお義母さんの手を握ってケーキがあるというお店に足を運んだ。

 お義母さんがケーキを注文すると、切り分けられたケーキをフォークと一緒に渡されてお金を払っていた。

 それから椅子に座ってケーキを食べさせて貰う。


「はい、あーん」

「あーん」


 お義母さんはケーキを頼まないで飲み物だけなんだけど、良いのかな?

 ケーキうまうま……

 苺あまーいッ!!

 それからしばらく、幸せな時間が続いた。


「あーん」

「……もうムリ」


 お腹パンパンでございます。ケーキの半分ぐらい食べただけなのに……昨日のグラタン食べた時にも思ったけど、わたしって普段から食を求めてるのにいざ食がそこにあると全然食べられないんだね。貧乏生活が板に付いてるのかな?


「じゃあ残りはお母さんが食べちゃうから、ちょっと待っててね」


 ……お義母さんはこうなることわかってたんだね。だからケーキを頼まなかったんだ。

 全部お義母さんの手のひらの上で踊らされていたというわけか……でも、ケーキは美味しかったし、また食べてみたいな。


 それからわたしはお義母さんと一緒に夕食に使う食材を買いに行った。


「市場みたい!」

「まあ、似たようなものね」


 市場に似ているのだが、鶏とかの血生臭さが全くない。ここでは加工してないのかな?

 でも売ってるってことは鮮度もそれなりに大丈夫なんだろうし……どうやって鮮度を保ってるのかな?


「それは?」


 お義母さんが小さな箱を手にとって籠に入れていたので訊いてみた。

 野菜とかじゃないし、調味料って感じでもない。いったいなんだろうか?


「ファムの夕食が入ってるのよ。こんな見た目してるけど、栄養満点なのよ」

「へー」


 兵糧丸みたいなものかな? 味はあまり良くないけど、栄養価が高かったから結構助けられたんだよね。

 いやぁ~、まさかケーキを食べた日の夕食が兵糧丸なんて誰が予測できたんだろうね。


 その日の夕食でわたしが食べたのはカレーと呼ばれる茶色くてアレみたいな見た目をした食べ物だった。

 思ってたのと違うけど、おいしいからいいや。

 カレーうまうま……



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