2-6:イオナの村の戦い

 ユスティナがユニティに乗り込むとプリムローズ隊の隊員たちが続々と集まってきた。


 あるものは騎馬にまたがり、あるものはチャリオットに乗り込み、あるものは隊員とバリスタを載せた馬車を率いて基地から出発していった。ユスティナは彼らの最後尾について、歩調を合わせてついていった。


 移動している間はナタリオからユニティの持つ機能について聞いた。

 操縦席からでも外にいる人たちと話せる機能はすでに使っているが、他にも遠くにいる人の姿を拡大して内壁に映す機能や、さらには残されていた資料によるとユニティにはいくつかの武器が搭載されているらしい。


「隠された機能……いや、能力はこれだけではないと俺は思うね!」


 ナタリオは騎馬を走らせながら意気揚々と持論を語り続けた。ユニティに乗り込んでから緊張感が高まりっぱなしだったので、ひっきりなしに話しかけてもらえるのはユスティナにとってはありがたかった。


「ユニティはどうしてユニコーンの角を持っているのか……そこに秘密があると俺はにらんでいる。乙女に従うという話を初めとして、ユニコーンには色々と逸話があるだろう? 虎や熊ではいけなかった理由が必ずあるはずなんだ」


 そうやって行軍すること半日。

 日が傾き始めた頃、ユスティナとプリムローズ隊はイオナの村に到着した。


 イオナの村は街道沿いにぽつんと存在していた。

 反乱軍に襲われてから復興し始めたばかりと聞いていたが、あまりの惨状にユスティナは言葉を失ってしまった。


 まともに建っている家がまず見当たらない。崩れて瓦礫の山になっている家、火を放たれて焼け落ちてしまった家、壁に生々しい血の跡が残っている家……復興するために戻ってきた村人たちはどこで雨風をしのいでいたのだろうか。


 崩れずに残っていた建物の柱には村人に連れてこられたらしき牛が繋がれており、放し飼いになっているニワトリやブタが置き去りにされていた。反乱軍がイオナの村に乗り込んできていたら、残された家畜は全て食料に変えられていたことだろう。


 なるべく高く積み上がっている瓦礫の山を探して、ユスティナはその陰にユニティを仰向けに寝かせて隠した。


 プリムローズがナタリオを初めとする分隊長たちをユニティのそばに呼び集めて、ユスティナも一旦ユニティから下りて作戦会議に参加することになった。


 甲冑を着込んでいる大人たちが円を描くように並んでいる光景は物々しく、その中に少女が一人だけ……しかも田舎娘丸出しのエプロンドレス姿で混ざるのは少し気まずい。


「さーて、やつらが来るまであと一刻って感じですか」


 ナタリオが胸元から懐中時計を取り出した。


「で、いつもの作戦ですか?」


 いつもの作戦とはなんだろう、とユスティナはプリムローズの方を見てしまう。視線に気づたプリムローズが木の枝を拾って、地面に図を書き始めた。


「腹を空かしている反乱軍相手の常套手段だ。反乱軍を村の奥まで誘い込み、進路と退路を塞ぐと同時に正面、真後ろ、左右から同時にバリスタを浴びせる。やつらは空きっ腹を抱えていて判断が鈍っているし、しかも村が空っぽだから間違いなく油断している」

「でも、その方法だと……」

「そう、村の中が戦場になる」


 最初の一斉掃射でブラックナイトを全滅させられるのが理想だろうが、いくら腕の立つプリムローズ隊といえども撃ち漏らし一つしないのは至難の業だろう。反乱軍が反撃を諦めてくれたら助かるが、必死に抵抗されたら家屋に間違いなく被害が出る。


「これまでは多少の被害を覚悟してもらっていた。しかし、今回はユニティがいる」


 プリムローズがこちらに期待しているらしき視線を向ける。

 ユスティナは己を鼓舞するように大きくうなずいた。


「私、この村を守りたいです!」

「……では、こうしよう」


 プリムローズは先ほど地面に書いた図をさらに書き加える。


「我々は村の北側にバリケードを作って反乱軍を迎え撃つ。ユスティナはユニティに乗って最前線に立ってくれ。反乱軍がユニティを目にして、尻尾を巻いて逃げてくれたら御の字。愚かにも戦いを挑んできたら、先日のようにユニティが注意を引きつけている間にバリスタでブラックナイトを対処する」


 実にシンプルで分かりやすい作戦だ。

 しかし、先日と大きく異なるのは自分がしっかり戦わなければいけないことである。先日はがむしゃらに前進しているだけで、背後に回り込んだナタリオの分隊が敵を仕留めてくれた。

 けれども、村の北側にはだだっ広い平野が広がっているのみで、裏側に回り込めるようなルートは存在しない。


「いっちょやってやりますかあ!」


 ナタリオが拳をパンッと手のひらに叩きつけて気合いを入れる。

 他の分隊長たちも声援を上げて作戦に賛同してくれた。


 それからのプリムローズ隊の行動は早かった。彼らはイオナの村の北側へ瓦礫を運び出し、慣れた手つきであっという間にバリケードを作ってしまった。あとはバリケードにバリスタを固定して、反乱軍がやってくるのを待ち構えるだけだ。


 ユスティナも作戦通りユニティに乗ってバリケードの前へ出る。

 傾き始めた日の光を浴びて、水晶のような角が眩しく輝いているのが勇ましい。


 しかし、その一方でユスティナは体の震えに襲われていた。

 これから、また私は人を殺してしまうのかもしれない……。

 自分から作戦を言い出したのに怖がるなんて情けない話だ。


「ユスティナ、戦場に立つと決めたなら迷うな!」


 プリムローズは騎馬にまたがってユニティのすぐ足下にいてくれた。


「戦場で迷えば自分の命を危険に晒すだけでなく、守れるはずだった命を取りこぼすことになる。確かに戦うのは恐ろしいだろう……しかし、きみはもう我々の仲間であり、そして私の部下でもある。きみの背負う罪は全て、上官である私が肩代わりする。私が言っていることの意味は分かるな?」

「……はい」


 プリムローズの心の強さにユスティナは驚かされ、そして同時に勇気づけられる。


 幼い頃、自分が誰かを困らせてしまったときは、父が「親である私の責任です」と一緒になって謝ってくれたのを思い出す。

 それは友達と遊んでいて花瓶を割ってしまったときだったり、森の中で迷子になって村人総出で探してもらったときだったりした。そういったユスティナの罪を父は「親だから」と共に背負ってくれたのだ。


 それをプリムローズは殺生の領域まで背負ってくれようとしている。

 この人に報いるだけの活躍をしないと!

 気づくとユスティナの体の震えは止まっていた。


「……来たな!」


 こちらに向かってくるブラックナイトの姿が見えてくる。


 ナタリオが言っていた通り、確かに百体を超えそうな一団だ。真っ黒な鋼鉄の固まりが砂埃を巻き上げながら突進してくる光景は威圧感がある。砂埃のさらに向こう側には、大勢の騎馬隊や歩兵隊の姿が見られた。反乱軍の兵数はプリムローズ隊の三倍……いや、四倍は間違いなくある。


 接近してくるにつれてブラックナイトの機体が血にまみれているのが分かった。イオナの村へ攻め入る以前から、すでに多くの村々を襲ってきたのだろう。コーンヒルの村での惨劇が思い出されて、ユスティナは黒い感情に包み込まれそうになった。


 しかし、それを強い意思で抑え込む。

 自分の今やるべきことは復讐心を晴らすことではない。

 イオナの村を……ベロニカの故郷を守ることだ。


 ブラックナイトの一団がユニティと大きく距離を置いて立ち止まる。


「聞けっ! ブラムスの反乱軍よっ!」


 そのときを見計らってプリムローズが声を張り上げた。


「ミゼル王国軍独立部隊『プリムローズ隊』の隊長、プリムローズ・オーウェルだ! 我々には巨神がついている。貴公らも巨神と戦ったものたちがどうなったかは存じているだろう。今すぐに退却するなら追撃はしないと約束する。巨神と戦って滅ぼされるか、家族の元へ帰るか……好きな方を選ぶといい!」


 お願いだから大人しく帰って、とユスティナは心の中で祈る。


 大隊を率いている大隊長らしき甲冑姿の男が、騎馬に乗ってブラックナイトたちの前に出てくるなり反乱軍の旗を大きく振り上げた。


「ひるむな、者ども! 正義は我らブラムス解放戦線にあり! あのでくの坊から乗り手を引きずり下ろせ! 部隊長を生け捕りにすれば保釈金もたんまり入る。腹一杯に食って、いい女を抱きたけりゃ、死にものぐるいで村を攻め落とせっ!!」


 反乱軍の士気は最高潮に到達し、先陣を切ってブラックナイトの一団が突っ込んできた。


 ユスティナは困惑する。

 この人たちはどうして勝てないと分かっているのに戦うのだろう?

 そんな簡単に自分たちが正義だと信じていいのだろうか。


「交渉は決裂か……ユスティナ、まずは任せたぞ!」

「は、はいっ!」


 ユスティナは操縦席の中で右手を真っ直ぐ前に突き出す。


「来いっ……ユニソード!!」


 思いを言葉にした瞬間、地面に光の魔法陣が描かれたかと思うと、その中心から巨大な剣がせり上がってきた。それはユニティの装甲と同じ大理石のような色合いをした両刃剣で、柄まで含めると大きさはユニティの全長に匹敵した。


 これがナタリオの教えてくれたユニティに隠された武器の一つ目。


「ええええええいっ!!」


 ユスティナは己の弱気を吹き飛ばすように雄叫びを上げながら、突っ込んできたブラックナイトの一団をユニソードでなぎ払った。


 地面を舐めるようにして振り払われたユニソードの一撃によって、胴体を両断されたブラックナイトたちは壊れたオモチャのように宙を舞い、後方からついてきた騎馬隊や歩兵隊に鉄塊の雨となって降り注いだ。


「帰ってくださいっ! 死にたくないならっ!」


 ユスティナの声を聞いた反乱軍の兵士たちの中には「女の子!?」と驚いて立ち止まるものもいたが、それでも大隊全体の進軍を止めるには至らなかった。


 ユニティの攻撃をかいくぐったブラックナイトがイオナの村に向かって突撃してくる。

 しかし、ユニティよりも後ろはプリムローズ隊の射程内だ。


「撃てっ! 決して撃ち漏らすなっ!」


 プリムローズの号令で放たれたバリスタの矢がブラックナイトをハリネズミにする。ユスティナはプリムローズ隊と連携して、それから何回も突撃を阻止し続けた。


 ユニソードを振るうたびに命が散っていく……しかし、今は難しいことを考えない。罪の全てをプリムローズに背負ってもらうつもりはない。でも、戦場に立っている今だけは心がパンクしないように彼女に預かってもらう。


「おいっ! アレを使えっ!」


 反乱軍の大隊長が指示を飛ばすと、騎馬隊や歩兵隊のさらに後方から攻城戦で使うような投石機(カタパルト)が運ばれてきた。大隊の後方にある林の影に隠していたらしく、ブラックナイトたちに引っ張らせているのでかなりの速度で近づいてきている。


「あんなのを使われたら……よしっ!」


 ユスティナは意識を集中させて叫んだ。


「当たれっ――ユニレイ!!」


 ユニティの頭部にある角が一層強く輝きだしたかと思うと、発射準備の整った投石機に向かって目映いばかりの光線が放たれる。

 投石機に光線が命中した刹那、周囲のブラックナイトを巻き込む大爆発が起こり、地面からは天を突くような巨大な火柱が吹き上がった。


 あまりの威力に反乱軍の兵士たちはおろか、バリスタを構えていたプリムローズ隊の仲間たちすらも棒立ちになる。


 ユスティナ自身も驚きのあまり固まってしまった。


 ナタリオから教わったユニティ第二の武器、ユニコーンの角から強力な光線を放つユニレイ――こんなもの気軽には撃てない。ちょっと間違ったら仲間だって巻き込んでしまう。ブラックナイトに直撃させたら消し炭すら残らないだろう。


「わ、分かりましたかっ! 反乱軍のみなさんっ!」


 ユスティナはユニティを通じて呼びかけた。


「この巨神は凄まじい力を持っています! 戦ったら本当に死んじゃうんです! お願いですから、戦うのはやめてお家に帰ってください! 今ならまだ間に合います。大人しく帰ってくれるなら手は出しません。お願いですから――」

「――ハハッ! 本当にノーマンの言った通りだねっ!」


 突然のことだった。

 操縦席の内壁にいきなり立体映像が浮かび上がってきた。

 映し出されたのはブラムス反乱軍の制服を身につけた少女の姿である。


 年齢はおそらくユスティナと同じ十三歳ほど、背丈もちょうど同じくらいに見える。カーキ色の反乱軍の制服は合うサイズがなかったのか、大人用の上着を着ているため袖が余ってしまっており、下半身には制服の長ズボンではなくショートパンツを穿いていた。


 少女はしっとりと濡れたような艶のある黒髪をツインテールにして垂らしている。瞳の色も真っ黒でミステリアスを通り越して不吉な印象だ。そして、どういうわけか唇には大人の女性がするような真っ赤な口紅を差していた。


 投石機を隠していた林から逃げるように鳥たちが飛び立つ。

 直後、林の中から巨大な何かが飛び出してきた。


 ユスティナは目を見張る。

 飛び出してきた何かはユニティと同じく巨大な人型をしていた。

 とげとげしい造形の鎧を身に纏い、ドラゴンの頭を持っている真紅の巨神だ。


 ユスティナは黒髪の少女が巨神の乗り手であると直感する。

 巨神同士なら交信できると分かっていて立体映像を送りつけてきたのだろう。


「あなたは私たちの敵なのっ!?」

「そうに決まってるだろッ!!」


 真紅の巨神が両腕を振り上げると、空中に浮かんだ魔法陣から黒い刀身の双剣が現れた。


 双剣を両手に一本ずつ構えて、巨神はそのままユニティに突進してくる。左右同時に振り下ろされた双剣をユスティナはユニソードで受け止めた。ユニティの両脚が地面にめり込んで、爆弾が破裂したように土塊が飛び散る。


「あなたは誰っ? どうしてユニティと同じ巨神があるのっ?」

「これから死ぬやつに答える必要がある?」


 真紅の巨神が持つ双剣は高熱を発しているらしく、つばぜり合いをしているユニソードから黒い煙が噴き上がり始めた。ユニソードを溶かして徐々に食い込んでくる様にユスティナは焦らされる。

「私はユスティナ! この村を守るために戦ってる!」

「この村を守るため? 救いようのないバカだね、お前は!」

「なっ……」

「私たちがこの村を襲ったのは、お前と巨神を戦場に誘い出すため! この村は基地から大規模な戦力を送り込むにはやや遠い位置にある。この村を守ろうとしたら、王国軍は巨神を寄越すしかない。この村が襲われているのはお前のせいなんだよ、ユスティナ!」


 真紅の巨神が力任せにユニティを突き飛ばす。

 これ以上は下がれない!

 ユスティナは必死にユニティを踏みとどまらせた。


「惑わされるな、ユスティナ!」


 背後からプリムローズの声が聞こえてくる。


「ユニティを出しても出さなくても、こいつらはイオナの村を襲っていた! やつはきみの心を揺さぶろうとしているだけだ!」

「ふんっ! オバサンは黙ってな!」


 黒髪の少女が言うや否や、真紅の巨神の頭部が大きく口を開いた。

 瞬間、ドラゴンを模した頭部から燃えさかる炎が吐き出される。

 ユニティの全身が炎に包まれて、装甲が焼け落ちる音が聞こえてきた。


 操縦席の中まで熱が伝わってきて、今や呼吸するのすら苦しい。

 しかし、ここで下がったら背後にいるプリムローズ隊まで巻き込むことになる。


「いいぞ、焼け死んじゃえっ! お前さえいなければ王国軍なんてなぁっ!」


 真紅の巨神を操る少女が目を爛々と輝かせる。

 どんな生き方をしていたら、こんなに楽しそうに戦えるのだろう。

 全てがユスティナの想像の範疇を超えていた。


「……死なないっ!!」


 ユスティナは意を決してユニソードを突き上げる。

 狙うのは真紅の巨人の頭部――火炎放射を吹き出している口の中だ。


「こいつッ!?」


 黒髪の少女が素早く反応して、真紅の巨神を後退させる。

 ユスティナはこの機を逃すまいと畳みかけた。

 しかし、必死にユニソードを振り回しているのに攻撃を当てられない。


 はっきり言ってユニティと真紅の巨神の間には性能の差が感じられる。真紅の巨神の力は明らかにユニティの一回り上だ。けれども一番大きいのは乗り手の差だ。相手の双剣を操る巧みさは間違いなく剣術を学んでいる。自分が素人のせいでユニティの力を引き出し切れていないと思うと悔しい。


「くたばれ、ユニコーンッ!!」


 真紅の巨神がユニソードの一撃を左手の剣でいなす。

 それから間髪入れず、右手の剣をユニティの胸部装甲めがけて突き出してきた。

 高熱を持った剣の切っ先が操縦席の目前に迫ってくる。


 殺されるッ!!

 ユスティナは明確な死のにおいを一瞬で感じ取った。


「――させるかよっ!!」


 ナタリオの声が戦場の真っ只中から聞こえたかと思うと、彼の率いる別働隊がバリケードを飛び出してきて、真紅の巨神が振り下ろした剣に向かってバリスタを一斉発射した。


 何十本もの矢が同時に命中して、剣の振り下ろされる軌道がわずかに逸れる。

 胸部装甲を灼熱の剣が掠めていくのを感じた。


「うわああっ!!」


 ユスティナは雄叫びを上げながら、ゼロ距離でユニレイを発射した。

 目と鼻の先にいる真紅の巨神に閃光が襲いかかる。

 あまりの眩しさに視界が真っ白になり、視界が元に戻るまで十数秒を要した。


 真紅の巨神は頭部の半分を吹き飛ばされ、地面に膝をついていていた。しかし、倒れていないところから察するに頭部を壊されても致命的ではないのだろう。やはり操縦席の乗り手を倒さない限りは動きを止められないらしい。


「こいつ……絶対に殺してやる!」


 黒髪の少女がふらつきながら真紅の巨神を立ち上がらせる。

 そのときだった。


「シックス、撤退しろ! 他のやつらはもう敗走している!」


 男性の声が立体映像を通じて聞こえてきた。

 どうやら黒髪の少女に対して呼びかけているらしい。


 周囲を見回してみると確かに反乱軍は北に向かって撤退を始めていた。自分が真紅の巨神との戦いに必死になっている間に、プリムローズ隊の仲間たちは圧倒的に少ない戦力できっちり反乱軍を撃退してくれていたのだ。


 シックスと呼ばれた黒髪の少女が腹立たしそうに舌打ちする。

 それから、立体映像を通じてこちらをにらみつけてきた。


「ユスティナ、次に会ったときは必ず殺してやる!」

「……シックス! あなたの名前、覚えたから!」


 ユスティナにはもはや追いかける力は残されていない。

 シックスと真紅の巨神はあっという間に地平線の向こうへ走り去っていった。


 反乱軍の姿が完全に見えなくなり、ユスティナはその場に座り込む。


 ユニティの周りは反乱軍の死体が散乱していた。。それこそ星の数ほどあるのではと思うほど散らばっている。ユニティの攻撃になぎ払われたもの、プリムローズ隊のバリスタに撃ち抜かれたもの、ユニティと真紅の巨人の戦いに巻き込まれたもの……死因は人それぞれであるがどれも惨たらしい死に様なのは変わらない。


「……でも、守れた!」


 ユスティナは振り返る。


 バリケードはボロボロになっているものの、イオナの村には反乱軍を一歩たりとも踏み入れさせなかった。それはもちろんプリムローズたちが守ってくれたからだけども、今日はちゃんと自分を誇ってもいいよね……とユスティナは思うのだった。


(第2章おしまい)

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