第8話 最後の因子

 神保町を彷徨うこと一時間、目的のレンタルビデオ屋に到着する。狭い通路を目的の『政治結社同盟』のビデオテープを探す。朝霧もデッキは買った形跡がないので、わたし達も手ぶらできた。カウンターを見つけ店員さんに聞こうとすると。


「あんたら、東大に寄ってきたね」


 かぐらの文字の書かれた扇子を見て先に声をかけてくる。奥に案内されて迷路の様な店内を進む。


 そこにはブラウン管テレビとデッキが置いてあった。店員さんはデッキに『政治結社同盟』のビデオテープを入れて再生すると。白黒の軍事パレードの映像が延々と流れる。


「『村正』が反応しないね……」


 店員さんは冷めた様子でわたし達を店から追い出す。


「やはり、この店が最後の因子の発動の場所であった。多分、携帯ゲームと最後の因子である、パートナーを求めないが複雑に必要であるのであろう」


 橋場の解説に納得するが、わたしは首を傾げる。結局、朝霧の行方が分からない。


「この店の資本元をハッキングして求められないか?」


 おぉ、立地場所が特定できたので可能であろう。しかし、今から地元に戻ると夜中だ。わたしと橋場は翌日に応用サイエンス部でハッキングをかける事にした。


 その夜……。


 朝霧との思い出を走馬灯の様に思い出していた。子供の頃からコンピューターオタクで親が転勤族だったので、わたしの唯一の友達である。


 藍原に選ばれるくらいなので朝霧も特別な人かもしれない。でも、そんな事は関係ない。朝霧が自決する前に救い出さねば。微睡の中でわたしは改めて誓うのであった。


 わたしは朝、起きると血圧はどん底であった。かぐらにブラックコーヒーを頼むとリビングのソファーでぼっーとする。


「クマたん、今日は休まれては?」

「ダメだ、神保町のレンタルビデオ屋の住所がわかったのだ。ハッキングをかけて

朝霧の居場所を見つけなければ……」

「それは私情ですか?」


 わたしはかぐらの問いに一瞬固まる。個人に思考操作を国家が行うことは悪なのであろうか……?


 また、その技術がロシア連邦に流れるのは……。


 そう、大人事情である。そして朝霧は民間人で初の被験者である。


「そうだ、わたしの私情だ!朝霧の居ない世界など興味はない」


 とにかく何か食べなくては……。テーブルに座ると、かぐらの作った塩辛いサラダを食べる。


「クマたん、わたしは落雷により多くのデータを失いました。それでも、そばに置いてくれるのに感謝しています」


 ふ、AIにも私情があるのだな……。わたしは栄養ドリンクを飲んで制服に着替える。授業には出ずに応用サイエンス部でハッキングを行う事にした。


 玄関から外に出ると橋場がいた。橋場は仕事として女子高生をしている。しかし、その表情は私情である。


「クマたん、お昼のお弁当も用意しました」


 かぐらが特大の包みを持ち出してくる。


「ありがとう、かぐらが味方でよかった」


 わたし達はグータッチをして応用サイエンス部に向かうのであった。

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