第6話 戦争の呼び声

 いつも通り、応用サイエンス部でまったりしていると。初老の男性が入ってくる。


「僕は陸自のサイバー部隊零課の課長の藍原です」


 どうやら、かぐらの元々のご主人様らしい。かぐらは、この陸自のサイバー部隊零課でパソコンのお掃除AIとてして働いていたのだ。


 話を潤滑に進めるために、わたしはパソコンに向かいかぐらのオプションを立ち上げて制服からメイド服に戻すのであった。


「それで、その課長さんが何の要件ですか?」

「そうですね、この世界は平和過ぎると思いませんか?核戦争の脅威から大きな戦争が無くなり、殺し合いを止めてしまった。そこでサイバー世界大戦を起こそうと思ったのです」


 橋場はなにか苦い顔をしている。敵である課長がここにいるによって、多分、何かが手遅れになったと確信した様子であった。


「ふー、簡単に言うと、そこに居る朝霧さんは一般人としての初の感染者になるのです」

「まさか、政府要人の車の前で自決する事件の被疑者にするつもりか?」

「そうです、最後の因子はパートナーを求めないこと。僕も独身でね。愛や恋などは関係ないのですよ」


 わたしは朝霧に何か変わった事がないか聞いてみると。神保町のレンタルビデオ屋に行ったと告白した。そこで『村正』を手に入れたらしい。


「朝霧の手に入れたのはゲームの『村正』のはず……」


 藍原は嬉しそうにパチリと指を鳴らす。朝霧の携帯から日本刀が具現化するのであった。


「クマたん、ゴメン、わたし行かなきゃ……」


 朝霧は日本刀を持って藍原と共に部室を出ていく。シーンと、静まり返る部室内で橋場が口を開く。


「わたしの任務は失敗だ、かぐらはこの事件のAIのプロトタイプである。かぐらを元にして作られたAIを搭載したゲームから守れなかった」

「大丈夫だ、わたしのハッキング能力を最大限に使って朝霧を守る」


 わたしは友達の朝霧を自決などさせないと誓うのであった。


 それから……。


 朝霧の携帯をハッキングして位置情報を探してみる。


 電車での移動が終わり目的地に着いたようだ。そこは西新宿のオフィス街だ。


 ダメだ、高層ビルの多い場所では正確な位置が分からない。せめて、Wi-Fiに接続すれば探知できるのに……。わたしがパソコンに向かい頭をかいていると。


「そうだ、政府要人に協力をお願いすればいいのでは?」


 橋場に問いかけると、橋場は目をそらす。


「それはダメよ、AIによる個人への思考操作は国家機密なの、外国の反政府系のメディアにバレたら国際問題よ」


 つまりは藍原が行っていた研究の元々は国家プロジェクトで、藍原のその思想から政府を裏切り、暴走したのが真実らしい。


「藍原は保険としてロシア連邦との繋がりも確認されているわ」

「亡命……」


 わたしは何も出来ない自分を呪うしかなかった。


「とにかく、まだ、時間はあるわ」


 橋場は自分に言い聞かせる様に呟く。わたしは応用サイエンス部から帰宅する事にした。


「クマたん、ファイトです」


 帰宅中にメイド服姿のかぐらは拳を握りわたしに話しかけてくる。実にありがたい応援であった。朝霧はわたしの大切な友人である。この思いは本物だ、わたしはかぐらが落雷で具現化してから変わったのかもしれない。そんな事を思いながら夕焼けの空を眺める。


 そして、帰宅するとかぐらは夕食の準備にかかるのであった。そう、平和な日常が続いていた。


 しかし、頭はガンガンして目はかすみ、肩こりも酷く、わたしはパソコンに向かうのを休む事にした。わたしも人間だ、物理的にハッキングする時間は限られている。


 リビングにあるソファーに深く座り込み疲れを癒す。とにかく、シャワーだけでも浴びよう。ノロノロと動き出して、わたしは熱いシャワーを浴びる。滴る水を感じながら朝霧の救出方法を考えるのであった。

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