第5話 応用サイエンス部にて……。

 わたしが携帯を操作している時に速報が流れる。官房長官の車の前に飛び出して日本刀で自決したとのこと。


 これで三人目だ。


 動機はやはり不明である。わたしは頭をかきながら、応用サイエンス部に向かう。橋場が先に来ていて、何やらメールを作成して送っているらしい。わたしは率直にかぐらの事か聞く。


「かぐらさんは落雷で多くのデータを失っています。わたし達の追うAIとは違います」


 やはり、自決事件はAIが関与しているらしい。わたしは橋場の勤務先の陸自諜報部隊七課をハッキングするか迷った。いや、橋場から直接に情報を得る方が平和的だ。自販機で買った烏龍茶を飲みながら長考する。


「クマたん、東京神保町にあるレンタルビデオ屋に行きたい」


 朝霧が部室に入ってくると、わたしに相談してくる。今時、ビデオテープなどどうするのだ?


「携帯ゲームのレアアイテム『村正』を手に入れるには『政治結社同盟』の映画ビデオテープが必要らしいの」


 関東の田舎のベッドタウンである、この街からでは神保町はかなり遠い。


「秋葉原でビデオデッキを買えば問題なです。何でも神保町のレンタルビデオ店の中で映画を見る必要があるそうです」


 うむ、朝霧がハマっているゲームは重課金ゲーと言えるな。


「また、今度だ」

「そう……」


 つまらなさそうにしょぼくれる朝霧であった。そう言えばかぐらは何処にいるのだ……?わたしは朝霧に聞くと。


「演劇部でメイクを教えて貰うとか言ってました」

「ふ、オタクのわたしにメイクなど必要ないから、演劇部で教えて貰うのか……」

「ホント、かぐらさんは人間臭いですね。落雷だけではなく、同居するクマたんの影響かも」


 橋場がニタニタしながら話始める。わたしはそんな橋場は女狐だと確信する。本音を隠しているつもりでも簡単にバレるのであった。気分転換にハッキングの獲物を探す事にした。


 今日も通常の応用サイエンス部である。


 わたしはお風呂あがりにドライヤーで髪を乾かしていると。鏡の前に色の付いたリップが置いてある。どうやら、かぐらの物らしい。新品がもう一本置いてある。


 わたしが物欲しそうに眺めていると。かぐらがやってきて、わたしに話しかける。

「わたしが教えてあげますので、心配はいりません。そのリップをつけますか?」


 かぐらはメイド服に薄いリップが輝いていた。ここはメイド喫茶かと勘違いするほど、かぐらは綺麗であった。


 わたしは『オタクにメイクなど必要ない!」と心の中で叫ぶが……。


 そう、心の中の叫びとは関係なく、気がつくとかぐらに教えてもらっていた。なんだかんだ言って、カッコイイ彼氏が欲しいのであった。


「クマたんにはこの小さなはけで塗るタイプがオススメです」


 かぐらは小瓶を取り出してわたしに渡す。


「さ、さ、自分で塗って……」


 輝きを増すくちびるによって、わたしは不思議な気分になっていた。


「最後の因子はパートナーが欲しいかどうかです」


 ???


 かぐらが意味深な言葉を呟く。わたしは素直に何の事か聞くと。

「わたしのAIとしてのプログラムに残されたモノです。落雷により多くのデータが失われたので詳細は不明です」


 兵器としてのかぐらか……わたしは少し寂しい気分であった。


「クマたん、お化粧講座の続きです」


 かぐらは自分の頬にポンポンとして赤らめる。そして、かぐらの綺麗な指先がわたしの頬にもポンポンとする。


「わたしはお風呂に入ったばかりだ。今日はこれくらいにしてくれ」

「はい、クマたん」


 わたしはメイクを落として独りになる。ベッドに横になると手鏡で自分の顔を覗き込む。


 彼氏が欲しいかどうかか……。そう言えば朝霧は彼氏はいらないとか言っていたな。わたしは微睡の中で彼氏が欲しいと思うのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る