第6話 誰かの為の秘密の挨拶
迷子の様な、気分だった。
戻ってきた筈なのに、私だけが違う。
何気ない日常で、私だけ適応出来ていないと思う事が多くなった。
昔の私ならば、平気な顔して終わっていた事なのに。
ただ、耐えて口を噤んで、下唇を噛み締めている筈だったのに。
それだけだったのに。
時折、私の思想は解き放たれた野獣の様に『敵』を見る。
自分でもわかる。
命が掛かっているわけでもないのに。こんな事、良くないのに。
牙が、剥かれる。内側から。
命を掛けて戦ったあの時の私の覚悟が。
次に命を掛けるのはいつだと笑いながら顔を出す。
安田潔子には何一つ必要としない顔なのに。
死戦を潜り抜けたあの高揚。人を守ったと言う傲り。戦ったと言うプライドが、現代の私の中に野獣として纏わり付く。
そんなものは要らない。
私に必要なのは、ランティスだけでしょ?
思いの人と重ねた手以上に必要なものなんて、ないでしょ?
私は彼の彼女として、一人の女として、生きるんだ。
この現代で。
それ以外は、ダメなんだ。
だから、どうか、忘れてくれ。
あの戦い抜いた日々を生き抜いたローラ・マルティスを。絶望の味を。絶望を耐え抜いた誇りを。誇りを守った日々を。
どうか、どうか。
忘れてくれ。
なのに、どうして。
あの、醜い悪役令嬢は今日も私の中で笑い続ける。全てを持っている顔をして。幸せの中に、絶望色の肉を喰らう野獣の目で。
忘れる事など許さないと、言う様に。
ああ、女神よ。ローラ・マルティスは何故、死なないんだ。
「今日から授業なんて、忙しないわね」
「現代でも入学式の後は通常ですよ」
「え、始業式しないの?」
「した後、普通に授業あったりしますよ?」
「うわー。大変だ。それは」
おかしな話だ。
ゲームの世界でこれ程までに安眠を貪るなんて。
フィンに髪をとかれながら、私はあくびを噛み殺す。
「フィンはよく寝れた?」
「ベッドなんて用意していただいたお陰で」
「忍者がベッドで寝ちゃいけないなんて掟、聞いた事ないわよ? よく寝れたら良かった」
「テライノズ忍者はそんな掟があるんですよ」
「伊賀でも甲賀でもないの? ハイカラな忍者ね」
「お姉様、フィンさん。おはようございます」
私達がたわいのない話をしていると、セーラが寝室から顔を出す。
「おはよう、セーラ」
「おはようございます」
「朝食食べちゃいました?」
「まだだよ。あ、ここの朝食って、配給制?」
「良かった。何も説明してませんでしたものね。ここの朝食は寮の食堂に行くんです」
「へー。寮の食堂ってつかう事あるんだ」
「昔も公爵令嬢以外は朝食は食堂でしたよ」
「えっ!? そうなの!? じゃあ、アリス様もそこで毎日朝ごはんを!?」
「そうなりますね」
「ひゃー! 神スチル見逃してた……っ!」
「いやいや、あの時代にローラ様が食堂へ降りられたらえらい騒ぎになりますよ。部屋で私と大人しく食べていたのが正解です」
「悪役令嬢だもんねぇ……。はぁ」
「まあまあ。プログラムのアリスとはいえ、此方では好きにできるので思う存分憂さ晴らしをして下さいませ」
「憂さ晴らしって……。まあ、滅茶苦茶するけどね?」
ガン見しよ。
瞬きすら根性で止めよう。
「お二人とも、既に制服ですし下に降りましょうか」
「はーい」
「ローラ様、お手を」
「椅子から立つぐらい、いいよ。朝ごはん食べるの久々かもー。昨日の朝ごはんはセーラに気を取られて食べた気にならなかったし」
「申し訳ないです。まさか、全て忘れてるとは私も思いませんでしたので……」
「いや、普通にびっくり案件よ? 色々と」
行成、訳のわからない世界に連れてこられた訳だし。
「説明不足だったかなと反省しております」
「その通りだけど、次から気を付けてくれれば良いから。それより、朝ごはん何かなー?」
「楽しそうですね。普通に、パンと果実でしょうね。昔はそうでしたし」
「階級によって、食事って変わるの?」
「朝夜は。公爵級なら納めてる金額が金額故いいもん食ってますよ」
「シビアだなぁ。昼は平等なのね」
「男女同じですからね。一時の恋人の食事が質素なんて、嫌でしょ?」
そう言えば、この学園はその為にも作られているんだったな。
「もっとシビアな話になってきたな」
「世界なんて何処もそれなりにシビアなところが無いと成り立たないですからね」
確かにそれもそうだ。
でも、朝から何もしなくてもパンとフルーツが出てくるのはありがたい。
後片付けもないし、ゴミ出しもしなくていいと来たものだ。
それだけで十分手を合わせる程ありがたい。
「ああ、ローラ様。アリス達の居場所を確認しておきますか?」
「え? ……いや、して欲しいけど、今回はいいや」
「どうしたんです?」
「だって、朝起きて行動見張られてるみたいじゃない? そんなプライバシーの侵害、悪いじゃない?」
「昨日の今日でそんな口を?」
「昨日はイベントだったし、それは悪い意味で使われる言葉でしょ!? 今日はまともなのに!」
「悪いものでも食べたかと思って使ってみました」
「ここはゲームの世界なので、悪いものはないですっ」
多分。
いや、確かにフィンの提案通り、アリス様の居場所が知れるなら是非とも知りたい所だが、このメニューは悪魔のメニューなんだよな。
知りたい時、いつでもアリス様の都合関係なく居場所が分かる訳だし。
下手に多様化すると、慣れてきて開いて見てしまいたくないものを見てしまう気がする。
そう。
王子との密会とか。
慣れというものはいつの時代、いつの場所でも怖いものである。
そのうち、用もないのに開いてしまうことは間違いない。
推しが好きな人と付き合うのは大変心温まるが、それは内輪でないのに限る。
そんな過ちを犯さない為にも、今はこの悪魔のメニューから精神的に距離を取ることが大切なのだ。
「どうせ、これから毎朝チャンスがあると考えれば、初回一回外れたところで痛くも痒くもないわ」
「チャンスは伺うんですね」
「アリス様担当として、まあ、礼儀かなって」
毎回外れればそれはそれで痛くも痒くもなってくるに決まってるだろ。
「それに、私達だけじゃない。本当のアリス様を知ってるのは」
もし、もしだ。
もしもの話だ。
彼女達が何の前触れもなく私の前に現れて、手を差し出したとしよう。
私は、崩れ落ちる様に泣くだろう。
私とフィンだけが知っている。
彼女達の戦いを。
彼女達の勇ましき姿を。
私達だけが、思い描ける。
こんな平和な場所に必要ない程に、自分を顧みず友のために命を捧げた彼女を。
こんな平和な時代に必要ない程に、自分を律し他人の背中を押した彼女を。
私達だけが知っているのだ。
最後に、私は彼女の秘密を暴いてしまった。
あんな場所で。
あんな時に。
あんな形で。
余りにも、ひどい仕打ちをしてしまった後悔は消えない。
あの能力は、彼女の心の在りどころであったかもしれないのに。
いくら時間がない。
状況が悪くても。
人の秘密を人の前で私は暴いたのだ。
恨まれてもおかしく無い。
それでも、平気だと笑って加護をくれた。
背中を押してくれた。
こんな私を守ってくれた。
彼女達の笑みは、もう二度と手に入らないと言うのに。
彼女の秘密を暴いた罪人に、そんな事をしないでくれ。
責めてくれ。
約束一つ守れぬ阿呆だと、人の秘密を告げる卑下たる者だと。
でも、この世界の彼女は何も知らない。
下手に近づいて、手を伸ばされて、笑いかけられてしまえば、私は耐えられない。
「だから、いいのよ。それに、今の私にはフィンもいるしね」
「今じゃなくても居ますよ」
「そうね」
フィンだって。
私が言い出さなければ彼女達の前に立ちたいとは思わないだろう。
顔には出さない女だが、フィンだって、彼女達の事を愛していた。
あの時代に置いてきたものを、再び掬い上げ様なんて思いたくも無いだろう。
階段を降り、寮母の部屋を過ぎればセーラが立ち止まる
「お姉様、ここが食堂でございます」
「あの時は負傷者の運搬で入っただけだし、楽しみだわ」
「普通の食堂ですよ」
フィンが扉を開けるとそこには……。
「……出張先のビジネスホテルで朝食食べる所みたいになってる……っ」
それなりに人は入っているのだが、あの時代の食堂とは違い質素な机と椅子はなく、本当にビジネスホテルの、なんて言うの? あんな感じなんだって。
しかも、パンとフルーツと聞いたのに、ウインナーとかバイキング方式だし。
現代がちらつきすぎじゃ無い!? これ!
「部活の大会に出る時に泊まったホテルの朝食思い出しますね」
「私はこの後、プレゼンなのかなって気になってくるわ……」
資料見返ししよとか、思っちゃうじゃない。
「え? これが普通では!?」
「現代よりだよ。限りなく」
「利用していた身としては、こっちの方がいいんで助かりますよ」
「私、ここにカレー並べられてても驚かないよ?」
「カレー食べたくなるじゃ無いですか」
「ここから出たら作るか。でも、ケーキもあるしなぁ……」
「カレーとケーキはあいますって」
「いや、量ね? 一人暮らしだからね? 私」
「余ったらタッパーで持ち帰りますよ。ケーキ以外は」
「ケーキはダメなんだ……」
なんだかな。
「では、この料理も創造主様達が食べていたものを再現されているのですね」
「メニューはわからないけど、そうじゃない?」
「あのクソ眼鏡も出張多いとか言ってましたね」
「ランティスもそれなにしてたなぁ」
だからこそ、予定があう日も少なかったわけだが。
「ゲーム作ってるのに出張なんてあるんですか?」
「その業界にいないし、分かんないけどあるって言うんだからあるんじゃない?」
「へー」
「自分からふっといて興味なさげだね」
「まあ、知ったところでその業界に入ろうとは思いませんしね」
そういえば、フィンは進路どうするんだろ?
スポーツ推薦で高校に入ったのは聞いてるけど、それ以上は知らないし、何だか首を突っ込むのも何だしな。
「フィン、そんなに食べれるの?」
「育ち盛りなもので。ローラ様もそれだけで良いんですか?」
「うん。朝食べてる習慣ないし。初動はこれで行く」
「お姉様方って、なんと言うか、正反対ですね」
各自自分の好きなものを盛り付けた皿を見て、セーラが笑う。
「そうかな?」
「ええ。でも、仲がいいのは素敵です」
「似てるんですよ。私とローラ様は」
「そっちでも、そうかな? と、なるんだけど」
「似てますよ。特に、腹の中のものがね。けど、ローラ様はもう少し食べた方がいいのは賛成です」
「誰もそんな事言ってないよ」
「私も言ってませんが、ゲームの中ですし、それ程栄養は関係ないですけど、ある程度は食べた方が良いですよ? お姉様」
「昼頑張るよ。朝はこれだけでいいって。どうせ、この後も授業じゃん? 座ってるだけでしょ?」
「座学ならば」
「え? 体育とかあんの?」
正気か?
ここは王族貴族学校だぞ?
「ありますよ。ネットで検索した授業ですけど」
「現代の授業じゃん」
「ネットで検索って、セーラがですか?」
「ええ、私です」
「何故? あの馬鹿二人の存在は何処に?」
「ば、馬鹿って! 創造主様方の事を悪く言わないで下さいよ。お二人は、ここや教室などのゲームでユーザーが見える場所は作り込んでらっしゃいましたが、それ以外はそれ程作り込んでくれてないのです。授業もその一つで……。お姉様方をお招きするのに当たり、私が足りない分を補って作り出しているのです」
「あー。確かに描写は放課後の方ばかりだもんね」
「何も無い空間は、ただの空白ですしね。そんな所にお二人を放っておけないでしょ? それに、私も先生と同じ時間に少しでも長く居たくて、この術を覚えたのです」
空白。
そうか。私達の見ていた場所以外は、彼女達は空白な時間を過ごしていたのか。
意思がなければ、それでよかったのかもしれない。
でも、一人だけ意思を持ってしまったセーラは……。
その空白の時間すら孤独なのか。
「マルティス家も、セーラが?」
「あ、いえ。あれは、ランティス様です」
「ランティスが?」
「本当は、こんな話では無かったんですよ。本来のこのゲームの出発点はローラ様が体験された所からでしたし。色々変更がかかって、今の様なスタートになりましたし。なので、マルティス家はランティス様が作ったけど使用できなかった旧作の名残となりますね」
「旧作、か」
「プロトタイプってやつですね」
「二人だけでゲームを作ってるわけじゃないって証拠よね」
沢山の人の手を借りて、あのゲームは私の手に届いたのだ。
どれが正解なんて、手を借りた私もわからないものを、彼らは作り上げた。
「それでも、矢張り創造主様方の愛の賜物ですよ、このゲームは。結果的には悪役令嬢としての私しか残らなかったですが、それでも。生み出してくれた事に感謝しない日はないです」
「セーラは、ランティスとタクトが大好きなんだね」
感謝。
とても愛おしそうに笑う彼女を見て、思わず言わなくてもいい言葉が口をつく。
「ランティスやタクトと恋愛してみようとは思わなかったの?」
私の言葉に、フィンがすこし眉を動かしたが口から出た言葉はもう取り消せない。
もし、そうだと言われたら、私はこの純愛に道を譲る気でいるのだろうか?
「ランティス様とタクト様ですか? んー……。確かに、愛しさはありますが、私はただの代用品だと言うのがわかってますので、そんな痴がましい感情は沸かないですね」
「代用品?」
「ええ。お姉様の。お二人のお姉様を思う気持ちの代用品ですもの。それぐらいは、プログラムでも分かりますから」
「そんな事……」
「あるのでは? 弟王子は知らないですが、馬鹿眼鏡はそのつもりでセーラを作ってますよ。彼の望みは、私と似てますからね。それに、その否定は謙虚さでも、優しさでもないと思いますよ」
「私は、お姉様の代わりでもお役に立てた事が嬉しいんです。本当に愛を注がれて作られたのを知っているから。だからこそ、恋愛なんて大それた事も思わないし、何よりも代用品だとお姉様が気に病む事なんてないもないんです。それが、私と創造主様の幸せなのですから」
そう言ってセーラは笑った。
ああ、本当に。
私はどうしようもない大馬鹿ものだ。
藪を突いて、蛇に噛まれて、悲劇のヒロインにでもなりたかったのか?
「ごめん、二人とも。今の言葉は忘れて」
私はとんだ阿保だ。
「勿論です」
「はい、お姉様。それに、私が好きなのは先生です。恋愛相手も先生じゃなきゃ嫌です。私、本当に彼が好きなんです」
「……うん。そうだね。ごめんね、変な事聞いちゃって」
「いいんですよ。確かに、私はランティス様もタクト様も誇り高き創造主様として大好きですから」
「私達で言う、親みたいなもんですよね。あの二人は」
「両親かぁ」
「恐らく、そうですね。私、とてもお二人を尊敬してるんですよ」
暖かくセーラが笑う。
本当の愛を教えてくれと言った顔で。
きっと、ランティスは本当の愛とやらを彼女に注いできたのではないだろうか。
私の代わりじゃない。彼女はローラ・マルティスの代わりなのだ。
では、安田潔子に注がれる愛とは何だ?
それは、あるものなのか?
それは、ないものじゃないのか?
本当の愛だなんて、私が教えて欲しいぐらいなのに。
「二人が両親ならタクトがお母さんかな?」
「え!? タクト様ですか!?」
「何だかお前が可哀想に見えてきたな」
「それはそれで、失礼ですよ!? フィンさんはランティス様がお母様の方が宜しいのです!?」
「どっちでも憐むよ」
「何でですかー!」
ああ。
酷く、惨めだ。
私は、私なのに。
「アリス達は来ませんでしたね」
「そうね、もう朝食をとった後かもね」
「食堂は朝早く空いてますからね」
無事ご飯を平らげた私達は食堂を出る。
「明日は少し早めに降りますか?」
「うーん。そうしようかなぁ。あ、でも、私都合だし、二人とも付き合わなくてもいいよ?」
二人の安眠を妨げるのはやめておきたい。
しょうもない案件である自覚は流石にあるからな。
「付き合いますよ。そんな寂しいこと言わないでください」
「別にいいのに」
「私もお姉様に付き合いますわっ! 一人で食べるより、今日のご飯の方が美味しかったですもの」
「セーラ迄……。じゃあ、明日は少し早めに食堂行こうか?」
「ええ、喜んで」
「はい、お姉様」
こんなにも可愛い事を言われたら仕方がない。
私の方が折れるのが筋だろ?
「そう言えばこのゲーム、アリス様のスキル上げる訓練とかあるよね」
「ありますね。図書館に行くと学力が上がるとかそういう奴でしょ?」
「それそれ。学力上がると、タクトとの親密度が上がるんだよね?」
「正確に言えば、リドルとローランドの三人ですね」
「あれって、今でも適応されるの?」
「んー。正確に言えば、アリスへの親密度ですからね。私が図書館にいくら通ったところでタクトや先生への親密度は上がりませんね」
「あ、そうなんだ」
「親密度って、遭遇率を上げるぐらいの意味合いですよね?」
「はい。ルート確定には、矢張りそれなりの交流がなければなりませんし」
「それを踏まえて考えたんだけど、もし、アリス様がリドル先生のルートに自動的に入っちゃったらどうなるの?」
今回のアリス様の恋愛は完全自動式になる。
誰と付き合うかは、蓋を開けてみないとわからない。
「それは……、考えた事も無かったですね」
「今まで、セーラがどれだけ努力しても無理だったって事は、自動的にリドル先生がアリス様へのルートに入ってしまったが故にとは考えられない?」
「あり得なくはないです。そうですね。盲点でした。アリスは読書好きな女の子だから、図書館にもよく行かれますし、自動的にルートに入ってしまったのかも……」
「そうなると、アリス様に図書館へ行かせない努力も必要じゃない?」
「どうしますか? 閉じ込めたりします?」
「物理的過ぎでは……? そんな物騒な事しなくても、ある程度違う攻略キャクターのルートに入る様にこちらで動くのが筋じゃない?」
「そうですね。それなら……」
「リュウと」
「アスランと」
「王子と」
「付き合わわせる……、え?」
三者三様の答えに思わず固まる。
「ひゃえ?」
「ん?」
「ちょっと待って? 推しを言い合う時間ではないのよ?」
アリス様を幸せにできる男を選ぶ時間だぞ?
「ええ。なので、攻撃力が高くこの私の弟弟子でもあるアスランが最適かと」
「ちょっと待ってくださいっ! 王子だって負けてませんっ! ステータスは全てがアベレージ少し上のバランス型! 立ち位置もセンターの先生の下にいて悪くないと思うのですっ!」
「待って? 読書好きならリュウが適任でしょ? ステータスは高くないものの、穏やかな学園生活は間違いなしよ?」
「リュウでアリスを守れますか?」
「優しいだけではダメですよ」
「え!? まずは私の推薦を二人で折に来るの!? 発案者なのに!?」
「弱気は罪ですよ」
「致し方ないです」
まさかの方向性の違いがこんな所に。
「確かに、アスランは強いけどさぁ……」
「当たり前ですよ。幼き頃は共に私と剣術を学んだ男です。私には遠く及びませんが、弟弟子に恥じぬ力量はありますよ」
「でも、この世界では不良なので駄目です。アリス様は品行方正の鏡なので」
「え!? そう言うのがいいんではなくて!? 不良と優等生の組み合わせは万物平等に皆んな好きでしょ!?」
「駄目です」
アリス様だもん。
「ならば、矢張り王子こそ相応しくはありませんか!? お姉様!」
「王子は、すべてが駄目です」
「其処迄!?」
「特に婚約指輪にクソみたいな頭文字彫るところが駄目」
「あれは無い。センス諸共毛根が死んでいる」
「フィンさんまで!? と言うか、全てはお姉様判断では!?」
「当たり前でしょ? ここの中で一番アリス様を愛して推している自信があるのはこの私よ? アリス様クイズ全問正解できるレベルよ? 私に権限がなければ誰に権限があるとでも?」
アリス様担をどれ程極めているとでも?
グッズも全てあるんですけど?
「凄くどうでもいい自信だけはありますよね、ローラ様は」
「どうでも良く無い! 私の女神だもん!」
「と言ってもね。此方にはローラ様のアリスと産まれた時から見守るセーラがいますしね? ね、セーラ。ガツンとローラ様にかましてやってくださいよ。真のアリスマニアの力を」
「……いえ、お姉様はアリス様のスチルを一枚2時間かけて堪能されていたので、多分負けます……。月一ですよ……?」
「セーラさん!? それ、ここで暴露する事!?」
「……ローラ様、流石にそれは……」
「引く事なくない!? 引く事、なくないかな!?」
酷くない!?
「もう! 絶対にリュウを推してやるっ!」
「まあまあ、そう躍起にならずに」
「そうですよ。先生登場までに考えればいい事ですし」
「それはそうだけど、基盤は作っておいた方がいいでしょ? 何事も早めに……」
私が階段を登ろうとした時だ。
アリス様とシャーナ嬢が階段から降りて来たのは。
朝の光と共に、女神が舞い降りたのかと思うほど、その姿は美しかった。
「……ご、ご機嫌様」
思わず、そこで立ちす尽くしてしまう所を、何とか体を無理やり動かして彼女に挨拶をする。
「あ、え、えっと、ご機嫌様」
突然挨拶を返す為に、アリス様がスカートの裾を掴む。
天使の羽ばたきだ。
最早、ここが絵画だ。
「シャーナも」
「あ、はい。ご、ご機嫌様」
シャーナ嬢もアリス様に促されて挨拶をしてくれる。
可愛い。
シャーナ嬢は特にゲーム中は何も思わなかったが、過去であんなにも可愛い姿を見せてくれたのだ。
好きにならない方がどうかしていると言うもの。
アリス様と並べば、その可愛さは天井知らずだ。
この姿を今すぐフィギアにして世界中に見せびらかしたいぐらいには好きなんだよなぁ。
しみじみと可愛らしい姿を噛み締めていると、二人は足早に階段を降り私たちに道を譲る。
「あ、有難う御座います」
「いいえ。では、私たちは失礼致しますね」
アリス様がそう笑ってすれ違う時だ。
「……え?」
目を疑った。
アリス様とシャーナ嬢がまるで示しわした様に掌をぐっと握って拳を作ってみせた。
それはまるで……。
「ご機嫌様……?」
御機嫌様。そう言って、お辞儀しながら挨拶していると思って頂戴?
そう笑いながら、言った私が蘇る。
過去で約束した私とアリス様にシャーナ嬢。そして、フィンだけの四人しか知らない秘密の挨拶のはずなのに……?
何故、ゲームの中のアリス様とシャーナ嬢が知っているんだ!?
次回更新日は7/13(月)12:15頃となります
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます