甚平。【弓坂×小山】

夏祭りを3日前に控え、数日間降り続いていた雨が上がり、久しぶりに太陽が顔を出している。

今朝の天気予報曰く、夏祭りの日まで雨は降らないらしい。

弓坂君と夏祭りに行く約束をしているから、雨予報じゃなくて本当に良かった。


今日は学校終わりに近所のショッピングモールで浴衣を探す。

弓坂君も行きたいと言っていたが、当日の楽しみにして欲しいから断った。

私と同じように浴衣を探す人が多いのか、ショッピングモールはいつもより人が多い。


「あ、青ちゃん。」


声をかけられて振り向くと同じクラスで友達の九華ちゃんがいた。


「九華ちゃんも浴衣探しに来たの?」


「そうだよ。青ちゃんもなんだね。弓坂君は?」


「浴衣姿は当日のお楽しみにして欲しいから私1人。糸川くんは...あ、いた。」


糸川くんは少し離れたところで甚平を見ている。


「力ったら、私が浴衣着るって言ったら俺も甚平着るって言い出したの。別に良いのに。」


呆れたように言うが、その表情はすごく嬉しそうだ。

弓坂君の甚平姿、見てみたいな。


「浴衣一緒に探す?」


「うん。」


可愛い花柄浴衣、落ち着いた色の浴衣、ちょっと派手目で風変わりな浴衣、たくさんの浴衣を順に見て回る。

どれを着たら弓坂君に喜んでもらえるかな。


「青ちゃん、これとかどう?」


九華ちゃんが持っていたのは水色を基調とした明るい花柄の浴衣。


「可愛い!これいいかも。」


「そっちに気に入るのなかった?」


「あ、九華ちゃんに似合いそうなのはあったよ。」


私は途中で見つけた紺色の落ち着いた色合いの浴衣を見せる。


「おー、いいね。こういうの好きなんだ。」


「試着してみる?」


「そうだね。」


店員さんにお願いして試着をしてみる。


着付けた水色の浴衣はすごく可愛くて、弓坂君が照れる姿が脳裏に浮かぶ。

これなら悩殺間違い無しだ。




2人とも試着した浴衣が気に入って購入した。

九華ちゃんが糸川君を迎えに行くそうなので一緒に行くことにした。


「力、今試着室にいるらしいからちょっと待ってようか。」


「そうだね。」


「弓坂君も甚平着たらいいのにね。」


「どうだろうね。何も言わなかったら着てこない気がする。」


「彼女が浴衣着るの知ってて甚平着ないかな。」


「着ない人の方が多いんじゃない?よくわかんないけど。」


そんな話をしていると試着室から甚平姿の糸川君が出てきた。


「九華、どう?これ。」


「おー、似合ってんじゃん。」


「よっしゃ、じゃあこれにしようかな。」


いいな。

弓坂君も甚平着てこないかな。

でも3日前にいきなり甚平着てほしいなんて言っても迷惑だよね。


「弓坂君!?」


九華ちゃんの声がして顔を上げると、糸川君のいた試着室の隣から甚平姿の弓坂君が出てきた。


「どうしたの、甚平着ちゃって。」


「小山が浴衣を着るらしいから俺も甚平くらい着ようかと思ってな。小山には言うなよ。」


「え、いるよ。そこに。」


九華ちゃんが私の方を指さす。

こっちを見た弓坂君は目を見開いて顔を真っ赤にした。


「ゆ、弓坂君、偶然だね。」


「おう、偶然。」


なぜか気まずい。


「ほら、青ちゃん、弓坂君の甚平姿の感想は?」


「え、えっと......」


弓坂君は少し期待したような目でこっちを見ている。


「か、かっこいい、よ。」


恥ずかしさで死にそうになる。

穴があったら入りたいどころか落ちてマントル辺りで焼け死にたい。


「ありがとう。」


弓坂君の声が聞こえたけど直視できない。


「浴衣姿、楽しみにしてる。」


「う、うん。」


私も見るなら当日が良かったけど、今見てちょっとでも免疫付けといた方が当日余裕が持てていいのかもしれない。




夏祭りまで、あと3日。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る