空虚。【角田×青山】

今日も雨。

夏祭りが1週間後に控えているのに大丈夫だろうか。

今年こそ角田君と......。

三玖もいるしそういうわけにもいかないか。


教室では角田君と小田くんと大木さんが話している。

いち早く私に気づいた大木さんが手を振って私を呼ぶ。


「鳥居ー!おっはよー!」


「おはよー。朝から元気だね。」


「来週の夏祭り行こうよって話してたんだ。鳥居行くよね?」


三玖の姿が見当たらない。

もしも三玖が来なければ角田君と2人きりになれるかも......?


「うん、行くよ。」


「やった!2人とも、鳥居も行くって!あとは三玖だね。」


「まだ来てないの?」


「うん、生徒会の仕事じゃない?大変そうだよね。」


「そうだね。」


「でもさ。」


小田君が口を開く。


「赤城さん、最近俺らと一緒にいること無くない?もしかしたら夏祭り来ないんじゃ......。」


「ちょっと圭太、何言ってんの。」


大木さんが制止する。

気まずい空気が流れる。


「私が聞いておこうか。夏祭りに来るかどうか。」


「そうだね。鳥居に任せようか。」


「確かに、俺たちが聞くよりはいいかも。な、啓介。」


角田君は椅子に座ったまま腕組みをして黙っている。


「まあ、そうだな。」


そう答えた角田君の表情はいつもより硬いように感じた。

まさか三玖となにかあった......?

そんな不安を感じずにはいられない。




2限目の教室に移動する時、1人で移動しようとする三玖に声をかける。

もちろん、夏祭りのことを聞くために。


「三玖、今度いつもの5人で来週の夏祭り行こうって話してるんだけど、三玖も行く?」


「ごめん。生徒会の人達と行く約束してるんだ。」


「あ、そうなんだ。じゃあ仕方ないね。」


「ねえ鳥居。」


三玖はこっちに笑顔を向ける。

少し寂しそうにも見える。


「啓介と楽しんでね。」


「え......?」


どういうこと?

三玖はもう角田君を諦めたってこと?

やっぱり2人になにかあったんだ。

でも何が......?


「私ね、啓介に遠回しにだけどフラれたの。」


「そんな。」


幼馴染で仲が良くて、女子の中では唯一角田君を下の名前で呼んでいる三玖がフラれた?

にわかには信じ難い。

でも三玖の表情を見ると本当だとわかってしまう。

三玖は嘘が下手だから。


「だから私のターンはおしまい。ここからは鳥居のターンだよ。」


「でも、三玖がフラれるのに私が大丈夫なわけないよ。」


「鳥居。」


「そもそもどうして諦めるの?もう未練はないの?」


なぜか涙が溢れてくる。

私は何をしているのだろう。

ライバルが自ら敗北宣言をしてくれたのに、どうしてそれを嫌だと思ってしまうのだろう。


「ないよ。」


三玖はこっちを向かず、少し俯いて答えた。

下唇を軽く噛む。


「嘘だ。」


「嘘じゃないよ。」


「私にはわかる。三玖は嘘が下手だもん。」


「嘘だったとして、それがどうしたの?」


開き直った?

三玖は目に少し怒りのような光を浮かべている。


「私はフラれた。鳥居はまだフラれていない。この時点で決着はついたようなもんでしょ。」


「ちょ、三玖?」


「だいたい、ライバルが手を引いてるのにどうして塩を送るような真似をするの。意味わかんない。」


「それは......。」


「もういい。」


そう言って三玖は移動先の教室へと駆け出した。


三玖の言うとうりだ。

どうして私は敵に塩を送るような真似をしたのだろう。

もしかしたら三玖が横にいることに甘えていたのかもしれない。


現に私は今すごく怖い。

横にいたはずの三玖がフラれた。

誰よりも角田君に近かったはずの、私より可能性があったはずの三玖がフラれた。

その事実は私の自信を喪失させるには充分過ぎるものだった。


自信が持てないまま当日を迎えることになりそうだ。




空虚な夏祭りまで、あと1週間。

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