2人の。【西野×東原】
どこからか太鼓の音が聞こえる。
そうか、もう夏祭りが近いのか。
学校終わりにいつものカフェで優希とコーヒーを飲んでいる。
今日のコーヒーはカンボジアが云々と言っていた。
カンボジアなんてドデカい遺跡があるとかないとかくらいしか知らないのだが、コーヒー豆も栽培しているらしい。
なかなか美味しい。
「おーい、瑠夏聞いてる?」
顔をあげると至近距離に優希の顔がある。
驚いて椅子を引き距離を取る。
「すまん、考え事をしていた。」
「何、浮気?」
優希はニヤニヤして言った。
「んなわけねえだろ。」
「まあいいや。でさ、今度の夏祭り行かない?」
「ダメだろ。」
考えるより先に声が出た。
考えてもおそらく同じ答えではあったが。
優希はアメリカのコメディーのように大袈裟に肩を落とす。
「やっぱりダメかー。」
「仕方ないだろ。クラスの連中も絶対来るし、もしかしたら親の知り合いなんかもいるかもしれない。」
「友達って言えばいいじゃん。」
「じゃあ祭り高揚感の中で優希は俺とくっつくの我慢できるか?」
「無理。できない。」
「じゃあダメだろ。」
「でも......。」
「ダメなものはダメだ。」
俺は残ったコーヒーを一気に飲み干し、カップを返しに行く。
席に戻ると優希はまだ項垂れていた。
「瑠夏、俺らもう2年生だよ。」
「そうだな。」
「来年は受験生だから多分夏祭りには行けない。」
「だろうな。」
「卒業したらもしかしたらどっちかが遠くに行くかもしれない。」
「そうだな。」
「今年が最後なんだよ。夏祭りに行けるの。」
「だとしても周りにバレないためには仕方ないだろ。」
「瑠夏にとって、僕ってその程度だったの?」
ようやくこっちを向いた優希は目に涙を浮かべている。
「そういうわけじゃないが、一緒に行けば周りにバレることはおそらく避けられない。こんな狭い地域の祭りだ。親にバレるのも時間の問題だ。」
「もういいよ。理屈ばかりはもう聞きたくない。」
優希はコーヒーを飲み干し、カバンを持って立ち上がる。
「今日は帰る。」
「待て。」
「なんだよ。瑠夏は自分のことばかりじゃないか。結局自分が1番隠していたいんだろ。だったらもういいよ。もう......。」
「一旦座れ。」
優希は涙を流しながら、俺の言うとうり席に座った。
「夏祭りに行くことはできない。だけど花火なら見てもいいだろう。」
「でも花火なんて見に行ったら人混みに入るから結果は一緒だよ。」
「人混みに入らなければいい話だ。」
「どうやって。」
「ホテルのレストランの窓から見るんだ。」
「でも予約は。」
「もう取ってある。」
「流石、準備いいね。」
「行くか?」
「もちろん。」
優希はまだ涙の残る目を細めて笑った。
2人の夏祭りまで、あと1週間。
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