シンプルな。【裏川×表】

夏真っ盛り。

とまではいかないがひたすら暑い。

湿度も高いし、本当に地獄だ。


部屋の窓を開けるとじめっとした嫌な風が通る。

天然の涼しさは諦めて、窓を閉め冷房をつける。


今日は土曜日。

学校がないのはボッチの僕にとってはありがたいことだ。

大人数の中に1人でいることはいろいろと苦悩があるものだが、部屋に1人でいる時は1人でしかいられないのだから1人でも何の問題もない。


スマホを開くとクラスのLINEグループでクラスメイト達が夏祭りについて話している。

そうだ、あと1週間ほどで夏祭りだ。

もしも表さんと行けたら......。

そんな妄想が頭を過ぎる。


ありえない。

人気者の表さんのことだ。

もう既に友達と一緒に行く約束をしているだろう。

僕は今までどうり夏祭りとは無縁だ。


ブーッブッブッ


LINEの着信バイブが鳴った。

唯一の友人、前沢からだ。


「裏川、夏祭り行かないか?」


野郎と行っても楽しくないだろ。


「やめとく。人混みは苦手。」


「それは残念だ。じゃあ俺と佐野と表さんで楽しむわ。」


表さん!?

別の人と行くと思っていた。

これはチャンスなのでは?


「前沢、やっぱ行く。」


「そう言うと思ってた。」


前沢のやつ、わかってて言ったな。


「じゃあ来週の日曜、駅前広場集合な。」


「了解。」


何はともあれ、まさかの形で表さんと夏祭りに行けることになった。

前沢と佐野というおまけが付いてきたがそれは今回は良しとしよう。


「ん?待てよ。良さげな服あったっけ。」


普段学校以外の外出はほとんどしないため外行きの服を少ししか持っていない。


部屋のクローゼットを開け、タンスの奥に仕舞われた長いこと着ていない外出用の衣服を引っ張り出す。

どれを着てもしっくりこない。

首元がヨレヨレの服が多いし、色褪せたりシワが付いて取れそうにないものもある。


急いでスマホを開き、「デート 服装」で検索する。


「あまりかっこつけず、シンプルな色合いを心がけましょう。」


例に挙げられている服装は街で時々見かけるような白いシャツに黒のズボンといった、ユニクロでも買えそうな代物ばかりだった。


これだ。


財布に充分な金額が入っていることを確認し、家を飛び出す。

ユニクロでもいいなら話は早い。

ちゃんとした服装で行って、あわよくば表さんに振り向いてもらいたい。


多分今の僕は浮かれている。

表さんと夏祭りに行けるなんて夢みたいだ。


さあ、行くぞユニクロ。



僕らの夏祭りまで、あと1週間。

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