ブザービーター。【弓坂×小山】

今日はバスケ部のIH予選。

弓坂くんを応援しに来ている。

弓坂くんがバスケをするのは初めて見る。

かっこいいんだろうな。


うちの高校の応援席でいると試合前の弓坂くんが来た。

ノースリーブのユニフォームに短パン姿の弓坂くんは凄く新鮮。

いつもより露出が多くてなんだかドキドキする。


「小山。来てくれたんだ。」


「うん。弓坂くん、頑張ってね。」


「ああ。絶対勝つよ。」


「怪我には気をつけてね。」


「もちろん。せっかくスタメンなんだし、怪我なんてできない。」


いつもと服が違うだけなのに、なんだかぎこちなくなってしまう。


「おーい弓坂、集合ー!」


「はーい!じゃあ、行ってくる。」


「うん、がんばって。」


駆け足で仲間の元へ走って行く後ろ姿は、凄くたくましく見えた。



ホールにけたたましいサイレンが鳴り響き、IH予選1回戦が始まった。

弓坂くん曰く、相手はめちゃくちゃ強いわけではないけど油断はできないらしい。


試合開始序盤、両校互角の勝負を繰り広げる。

初めの点は相手がとった。

でもすぐにこちらが取り返す。

そんなシーソーゲームがずっとつづいた。

バスケのことはよくわからないけど、決して負けていないことはわかる。


弓坂くんはまだ点を取れていない。

というか、シュートすらしていない。

ボールを持ってドリブルしてもゴール前で必ず別の人にパスを出す。

何故だろう。

弓坂くんがシュートを決めるところを見てみたいのに。


前半が終わった。

点数は僅かに弓坂くんたちがリードしている。

後半が始まるまでの少しの間に弓坂くんが応援席まで来てくれた。


「弓坂くん、お疲れ様。後半戦も頑張ってね。」


「ありがとう。」


「ねえ、率直な疑問なんだけど、弓坂くんどうしてシュートを撃たないの?」


「どうしてって、そういう役回りだから。」


「でも弓坂くんが撃っても良さそうなシーンでも撃たなかったじゃん。」


「他のメンバーの方がシュート上手いから、そっちに任せた方が良いんだよ。俺の役割は味方にいいパスを出すこと。」


「そうなんだ。弓坂くんがシュート決めるところ見れると思ってたんだけど、それじゃ仕方ないね。」


「...うん。」


「あ、ごめんね。そんな凹ませるつもりじゃなかったの。」


「大丈夫、わかってるよ。じゃあ、そろそろ行くから。」


「うん。頑張ってね。」


「おう!」


弓坂くんは早足で試合に戻って行った。



後半戦が始まった。

後半開始早々、相手チームが一気に攻めてくる。

シュートされそうになったところを味方がブロックしてボールを奪う。


弓坂くんにボールが渡った。

ドリブルで前線に出る。

弓坂くんはさっきまでならパスをしていたであろう位置でパスを出さずそのまま走っていく。

相手2人に道を塞がれる。

すると左後ろにボールを投げ、味方にパスを出す。

こんな展開が何度も繰り返された。

弓坂くんはボールを持つとパスを出さずに前線に出ようとするようになった。

どうしてだろう。


後半戦も一進一退の攻防が続く。

残り時間は僅か。

相手チームがリードする展開が続いている。


残り5秒。

敵チームの人が一気に攻め上げ、ダンクシュートを決めた。

応援席は絶望に似た雰囲気が漂っている。

ゴールリングが揺れる。

弓坂くんの顔はまだ諦めていなかった。

他のメンバーも同じだ。

まだ誰も諦めてない。


残り3秒。

相手チームの2点リード。

スリーポイントシュートを決めれば勝ちだ。

それが出来なければ、この時間では勝てない。


味方のひとりがボールを前に大きく投げた。

その先にいた弓坂くんにボールが渡る。

そのまま一気に前に出る。


残り2秒。

スリーポイントギリギリの位置で弓坂くんが止まる。


「弓坂!」


誰かが叫んだ。

弓坂くんはシュートポーズをとる。


残り1秒。

ボールが弓坂くんの手を離れ、綺麗な放物線を描く。

そのままボールはゴールリングに吸い込まれるように飛んでいく。


入れ!


入れ!


入れ!!!


その時間は一瞬だったはず。

しかし、おそらく周りの誰もが、その時間は恐ろしく長く感じた。


ビイイイイイイイイイイィィィィィィ!!!!!!!!!!!!


試合終了のサイレンとほぼ同時にボールがリングに入る。


会場が静まり返った。


「ブザービーターだ。」


誰かが呟いた。

それを合図に全員が歓声を上げる。


「勝ったぞ!」


「ナイス弓坂!」


「凄い!」


「ブザービートなんてそう見れないぞ!」


応援席からも、ベンチからも、歓声が上がる。

よくわからないけど、弓坂くんは凄いことをしたらしい。




会場からは弓坂くんと一緒に帰る。

ホールの入口で待っていると、ジャージ姿の弓坂くんがやってきた。


「小山、お待たせ。」


「弓坂くん、今日はお疲れ様。かっこよかったよ。」


「おう、ありがとう。」


弓坂くんは少し顔を赤くした。

照れてる。

可愛いな。


最寄り駅に向かって歩き出す。

今日の弓坂くんの姿が走馬灯のように脳内を巡る。

真剣な顔、焦った顔、疲れた顔、仲間に呼びかける顔、汗を拭く仕草、何より最後のシュート。

かっこよかった。

弓坂くんが彼氏で良かったって思える。

単純かもしれないけど、今日の弓坂くんは本当にかっこよかった。

そういえば最後のシュート、みんなに凄く褒め称えられてたけど、何がそんなに凄いんだろう。


「ねえ、弓坂くん。さっきの試合で弓坂くんの最後のシュートの後、誰かがブザービーターって言ってたんだけど、それって何?」


「まさにそのシュートのことだよ。試合終了の瞬間と同時にシュートが入ること。ゴールを合図にブザーが鳴るように感じるからそう言われるらしい。」


「へー、凄いんだね。」


「まあ狙ってできるわけじゃないし。滅多に起きないよ。」


「やっぱり弓坂くんは凄いんだね。」


「いや、俺は...」


「どうしたの?凄い人。」


少しからかってみると、弓坂くんは顔を真っ赤にして私のいない方向に顔を向けた。


「あれはなんていうか、少しムキになってたからな。」


「どうしてムキになってたの?」


「小山のせいだよ。」


「え?なんで?」


「小山が俺がシュートを決めるところを見たいって言うから、後半戦で何度も突っ込みすぎた。あんなこと言われたらシュートするしかない。それにいくら作戦とはいえ1回もシュートしないなんて、そんな情けない姿見せたくなかった。その執念で偶然あのブザービーターができたんだ。」


「そうなんだ。やっぱり凄いね。弓坂くん。」


「なんでだよ。勝てたとはいえ、俺の身勝手な理由で多少試合に支障をきたしたんだぞ。」


「でも勝てたじゃん。それにブザービーターっていう凄いことをやってのけた人が彼氏なんて、私は誇らしくて仕方ないよ。明日から学校で自慢しちゃお。」


「小山...ありがとう。」


「何が?」


「いや、なんか、励まされたよ。」


「そう?どういたしまして。」


よくわからないけど、私なんかが弓坂くんを励ませたなら良かった。





次の日、本当に学校でいろんな人に自慢しまくった。

自慢し過ぎて弓坂くんに少し怒られた。

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