今はまだ。【糸川×馬木】

「ねえ、私たちって付き合ってるよね?」


学校からの帰り道。いつもの川沿いの道で、幼馴染の力に聞いた。


「ああ、付き合ってるな。」


力は前を向いたまま答えた。

夕日に照らされる力の顔はいつもよりかっこよく見える。


家が隣同士の彼、糸川力と私、馬木九華は、幼馴染として兄弟同然に育ってきた。

そんな私たちが付き合い始めたのは約1年前。今と同じくらいの時間に、同じ場所で私から告白した。


それから関係性が変わったかと言われると、実の所全く変わっていない。

1年経ってもキスとかその先どころか、手も繋いでいない。

幼い頃から一緒にいるから、今さら恋人らしいことはお互い恥ずかしいのだろう。

しかし私だって手は繋ぎたいし、ハグもしたいし、キスもしたいし、その先だって...。


「何、俺何かしたかな」


「いや、そうじゃなくて」


逆に何もしないのが問題だっつーの!

とは流石に言えない。

私だって女だ。そういうことを自分から求めるのは恥ずかしいというか、はしたないというか...。


「あ、わかった!」


そういうと力は立ち止まり、体ごと私の方に向いた。

次の瞬間、力の手が私の両肩を掴み、力の顔が近づいた。


え、ここでキスすんの?

誰もいないけど、今?

何の脈絡もなく?


私は思わず目を瞑ってしまった。


だが、私の唇には何も触れなかった。


「九華、お前生理だろ」


...はぁ?


「そういえばそろそろだったよな。生理。」


はいぃ??


「生理になったらいろいろ不安になるらしいけど、心配すんな、俺は九華のことが好きだ。」


「バカ!あんたデリカシーないわけ?」


でもちょっと嬉しい自分が腹立たしい!


「あれ、違った?ごめん」


「ごめんじゃないよ!私はただ手繋ぐとかキスとか、そういう恋人っぽいことをしたかっただけで...あっ」


言っちゃった...。


「ごめん、違うの、私は別に良いんだけど、友達からいろいろ話聞いてたらそういうことも必要なのかなって思っただけで、決してそういうことをしたいわけじゃ」


「え、したくないの?」


「え?」


「キス、するか?」


「ほんとに?」


「うん」


何この急展開。

髪の毛に芋けんぴ付いてる系少女漫画もびっくりなジェットコースター展開。


再度、力が私の両肩を掴む。

力の手がちょっと震えてる。

緊張してるのかな。可愛いな。

力の顔がゆっくり近づく。

私は目をグッと閉じる。


たった数センチのはずなのに、凄く長く感じる。

力の息が顔にかかる。

もう少しだ。


その時だ。


「ラブラブだねー」

「ヒューヒュー!」


通りかかった同じクラスの男子2人が冷やかしてきた。

当然、力は私から離れた。

そのまま力が叫ぶ。


「うるせー!あっち行けー!」


「ヒューヒュー!」


男子たちは足早に去って行った。

すると急に恥ずかしくなってきた。

力も湯気が立ちそうなほど顔が真っ赤だ。


「か、帰ろっか。」


「...そだね。」


そこからはお互い無言のまま歩いた。

力は少し罪悪感を感じたのか、途中で手を繋いでくれた。


この先のことはまだまだ時間がかかりそうだけど、今はまだ、この距離が心地良いのかもしれない。

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