第6話 地下への道
地下への道
祭壇の隙間は大人が一人通れるほどで、四人は難なく通ることが出来た。村長の話では洞窟という事だったが、無骨な部分は天井だけで、横に見えるのは隙間なく積み上げられた灰色煉瓦の壁。長い歳月を隙間風に晒されていたからか苔が覆っているが、明らかに人工物である。
アツキが何の気なしに壁に触れ、苔を抉り取って指を擦り合わせる。ポロポロと落ちる苔を気にすることなく抉った壁をじっと見る。
先頭を歩くクロヴィが溜め息をついた。
「入っていきなり階段か」
「滑りやすくなってるかも知れないから皆足元に気を付けて」
「そんな初歩的なミ──おーっとー!」
「ぐえっ!? 何っ──おわ、っとっと、うおおぁぁぁぁ……」
鼻で笑ってハンナの注意を聞き流したアツキは、次の瞬間に足元を滑らせ、前を歩いていたリュウの襟元を掴んで事なきを得た。代わりに同じく油断していたリュウに全ての衝撃が込められ、階下へ落ちていった。
「おいおい探索でリマルモにダメージ入らんとはいえ気を付けろよアツキ」
「えへへ。ごめーん。うっかり」
「リュウはどこまで落ちたのかしら」
階段には踊り場がなく暗闇へと先が続いている。階段は幅広く段差が緩やかだが、それでも闇は心細くさせるだろう。
「アツキ、灯りお願い」
「あいあい」
アツキがライトと短く呟くと、人差し指から小さな光の玉が放たれ、近すぎず遠すぎない距離に漂う。赤みがかった淡い光は暖かく、闇を優しく照らした。直視しても目に優しい不思議な光源である。立て続けに二つライトと呟き、三人それぞれの近くで発光する。
「戦闘でもこれぐらい早く魔術打てたら楽なのに」
「その辺はしゃーないだろ。戦闘中でもターン経過なしで打てるし、ライトは場合によっては重宝するだろ」
「確かに。この洞窟じゃあもしかしたら相当役に立つんじゃ……?」
「ああね、暗闇に潜むものには光は劇薬だよね」
何かを思案するように上を向いて歩くアツキは、時折つんのめりになって前を歩くクロヴィにぶつかるが、頑丈なクロヴィはびくともせずにアツキを叱る一幕があった。
暫く降りていると階段の終わりが見える。そこにはリュウが退屈そうにそれでいて不安そうに眉を下げて屈んでいた。
三人を目視して安堵の溜め息を吐いたリュウは、アツキに自分用のライトを頼む。普段なら揶揄うアツキだが、自分の失態で落ちていったリュウに、申し訳なさそうに無言でライトを渡した。
リュウもすんなり渡された事に違和感を覚え、あと十刹那もあれば理由にたどり着けるところでクロヴィが叫んだ。
「敵だ! リュウこっちに下がれ!」
「っ! 了解!」
先頭からクロヴィ、斜め後ろにリュウが立ち、その後ろにハンナとアツキが並んで構える。
敵の形は空を切る一対の羽を携えた小さな生き物コウモリが一匹。しかし体の大きさに比べて口の端から伸びる牙は細長く、体長の半分はある。本来コウモリは群れで行動するが、対峙する個体は一匹であることから普通ではないと判断出来る。
「オリジンコード確認!」
ハンナの号令に三人は胸に手を当てる。
「使用制限は2。行動力は?」
全ての生物に宿る魂に刻まれたルール、オリジンコード。その行動は誰もが平等である。
「移動1、通常攻撃1」
「方向転換と防御、技能使用は2」
「数の繰り越しは出来ず、持ち数は常に2」
「うん。リマルモの耐久値は?」
四面体の石リマルモは、本来生身で受けるはずのダメージを肩代わりしてくれる代物で、生まれたときに決まる適性によって耐久値が変化する。耐久値以上のダメージを受けると肉体が砕け散り最寄りの村に引き戻される安全装置である。
「剣士のリュウが三回、戦士のクロヴィが四回で魔術師の私と回復術士のハンナは二回まで」
「確認完了。来るよ」
《■■■■》《transcendence mode …go!》
四人の中で比較的身軽なアツキの先制攻撃。アツキは強気な笑みで行動力使用前に宣言する。
「ライト!」
「キキキキィィ!?」
対峙する中で且つ暗闇慣れしたコウモリの視界を白に埋め尽くす。感じたことのないであろう閃光に悲鳴をあげるコウモリは、眼球の奥まで染まる白に戸惑い飛行を止めてしまう。
アツキはいい仕事をしたというように嘆息して待機した。
「一気に畳み掛けて! 私は一応……治癒刀」
ハンナの右手の拳から碧の刀が作られる。自らの力の形を整えることが出来るハンナは、治癒の力を得意武器である刀の形に整えてターン終了だ。
「向こうのリモルマの値、いくつだ?」
リュウが進み、正面からコウモリを袈裟斬りする。何も行動出来ていない且つ視界が奪われている今、コウモリは正面だろうと威力は背後からと変わらない。確率で
油断なく移動し、無言で武器を振り下ろしたクロヴィの一撃であっさりと戦闘が終了した。
罪人と選択 昼夜 @purunpurun
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