第2話 村の試練①
緑の多い村の中央は人が毎日多く集まる内に、地が踏み固められ、自然と円が出来たため粘土でそれらしく作った集会所である。
集会所にはリュウと同じ位の年の者が疎らにおり、それぞれがリュウと同じく皮の防具を身に纏っている。その中の一人がリュウに気が付いたのか、談笑に断りを入れて近付いてきた。
「おせえぞリュウ! もうすぐ始まんぞ試練。何してたんだ?」
切れ長の目尻に力強く太い眉、声の割りに笑っている口元からは八重歯が見え隠れする少年は、乾いた笑いではぐらかすリュウを見て、ハンナを見て何かを察したのか片眉を上げて鼻から息を吐いた。
「ハンナが半目で見てるってことはあれだな。お前、楽しみ過ぎて眠れなかったんだろう。んん?」
「っっ! ……そういうクロヴィはどうなんだ。隈、あるぞ」
クロヴィは商人の両親をもつ一人息子で、十年前にサン村に移住してきた。行商を行う両親は同じ場所に留まる期間が少ない為、まだ幼かったクロヴィには過酷と踏んで、村長に頭を下げてこの村に置かせて貰っている。
七日の内、一日だけは必ずサン村で過ごす事をクロヴィに約束していたためか、クロヴィは寂しい思いを内に隠したのか活発な性格になっていった。
「るっせ! 寝坊助に言われたかねぇわ!」
「確かにクロヴィのいう通りよね」
「ちょっハンナ!」
「はいはい静かにー静かにー」
集会所の中央に頭皮がつるりと輝くしかし顎には立派な白い長い髭を持つ老人が声を張った。ざわめいていた周囲も老人の声で静かになり、先を促すようにじっと視線を集中した。
「んじゃ、これから村の試練を始めるぞい。村には普段立ち入り禁止の洞窟があるのは知っておるな。察しがいい者はあれが試練で使われる場所だと気づいておるだろうが……ぁっ……洞窟が試練の場所じゃ!」
シンと静まりかえる集会所では老人の声がよく響く。老人は執拗に咳払いをし、今日は熱いと額の汗を拭った。
「ご、ゴホン。洞窟の最奥に刺さっているものを取って来る事が今回の村の試練とする。四人一組となって向かって欲しい。丁度四組になるじゃろう。では、村の試練の通過を期待している。以上」
老人は顎髭を擦りながら日陰に向かって歩いていった。それを見届けたリュウが二人に向き直る。
「ハンナのおじいちゃんいつも面白いな」
「止めて上げてね? 本人が気にしてる事だから」
「上手く誤魔化せてると思ってるんだっけか」
考えが口から出て、締まらない口上の事を誰もが笑いも咎めもしない優しい世界。果たして冗談を言っても流されるのは優しいのか。
「そんなことよりも四人一組でしょ、アツキは?」
もう一人の幼馴染のアツキは、幼い頃から体が弱く、日中の多くは日陰で過ごしている。村の仕事の殆どが体力が必要な為、彼女の仕事は殆どない。代わりに頭脳明晰で、村長の家にある蔵書は読み終わったという。村一番の頭脳を持つ村長のサポートが彼女の専らな仕事である。
「村長の横にいるだろ? 涼んでるんだとよ」
リュウがもう一度村長を見るとクロヴィが言った通り日陰に椅子を置いて湯飲みを啜っていた。今日は比較的に顔色がいいなとリュウは思った。
「村長がいうほど日差しが強くないし、行くなら早い方がいいだろ」
「まあ待てよ。それなら前に三組行かせて最後に行った方が良いだろ。昼も過ぎたし後は日が傾いていくだけだ」
「まあそうだけど……」
「リュウ。これは成人の試練よ? 全員が万全な状態で挑んだ方が良い。そうは思わないかしら? 逸る気持ちもわかるけど」
「……うん。そうだなすまん」
受けられる試練の数は世界で三つ。
一つは成人に足るための通過儀礼で生を受けた者の義務。
二つ目は身体の向上が格段に上げられる試練で、体を動かす事を生業にしている者が停滞した時に試練の資格を得る。これは義務ではなく任意の為、受けなくても罰はない。
三つ目は、条件が分かっていない。
リュウは成人すると冒険者になることを考えている。両親の説得は済ませている為、後は試練を越えるだけである。
まだかまだかとそわそわしているリュウの腹が鳴った。
そういえば起きてすぐに来たと興奮で忘れていた気持ちを思い出した。
「腹へった」
「はあ? 万全は防具だけかよ。そんなんで試練受けるつもりだったんかよ」
「……はあ。他の組が進むのもう少し掛かりそうだから、軽食だけど食べる?」
「流石ハンナ! 用意がいいよなクロヴィ?」
「え、これって……い、いや。俺も貰おうかな?」
心なしか顔色を悪くしたクロヴィが目を泳がしているがリュウは首を傾げながらアツキの元で食べようと提案する。二人は了承して日陰へと向かった。
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