罪人と選択
昼夜
第1話 サン村の少年
かつてこの世界は全てにおいて決められた時を進んでいた。
空より生を分け与えられ、空によって死を与えられる。
元々一つのものが分離、吸収されるだけの決められたルールは、永劫に変わることなく続くはずだった。
しかし、始まりは訪れる。
生を受けた者が死を与えられることを拒んだ。生があれば死もまたある。二つは対の存在の為、どちらかを無くすことは、生と死を与える存在でも行うことは出来なかった。
それがルールだから。
しかしここで、誰もが予期出来ないことが起こった。選択肢の誕生だ。
死を拒んだ者によって「いいえ」という選択肢を。
生を拒んだ者によって「はい」という選択肢を。
この者達は、生と死を与える存在、後に語り継がれ神と崇められる存在によって大罪の烙印を押され、ルール外へと落とされた。
◆◆◆
緑の多いサン村。
近くの川から引いてきた水を、村の真ん中に流して生活用水として利用している。小川の近くには疎らに藁葺き屋根の家屋が建っており、家畜を飼う所には簡素な柵で区切りがされている。村人だろうか子供達がおいかけっこで笑顔を作っている長閑な光景。
そんな牧歌的な雰囲気に微睡む少年が、麦藁ベッドから寝返りを打って頭だけがずり落ちた。
器用に頭だけを床に付け尚も幸せそうに眠る少年は、リュウ・ディライトという。
リュウは今年で成人の試練を受けられる年であり、今日がその日である。農作業がある村の朝は早い。しかし明日が試練だからといって早くに休息を取れたリュウだったが、期待と緊張から夜更かしをしてしまい朝を通り越した現在でも眠りこけていた。
幸せそうに眠るリュウの顔にヌッと影が射した。
「いつまで寝てんのリュウ! 今日は試練の日だよ!」
「おぶう!?」
大声と共にリュウの頬に平手が繰り出される。勢いのついた平手は叩いた本人でも予想出来なかったらしく、良い音をならしてリュウの体をベッドから引き摺り落とし、更に床を滑ってタンスの角に頭を打ち付けて止まった。
「……おはようリュウ」
「お、おぉぉ、おはようハンナ」
頭を抑えるリュウは、先程までとは打って変わって苦悶の表情で幼馴染のハンナに挨拶を返した。
まだ痛む頭を擦りながら、ハンナの言葉を反復する。
「試練、の日……試練の日だ!」
「そうよ。あんなに楽しみにしてたのに来てないから心配したのよ……寝てるんじゃないかって」
「はい……ありがとうございます。おかげさまでまにあいそうです」
村長の娘のハンナは、世襲制の為に次期村長になる。村にある試練をクリアすると、めでたく村長見習いとなる。普段からしっかり者のハンナは村人からの信頼も厚く、このまま行けば村は安泰だとも言われている。
そんなハンナも普段の装いと違い今は物々しい服装をしている。
布の服の上から急所を守るように所々装着している厚手の皮や金属の防具。
腕、脚にはそれぞれ茶色い厚手の皮の防具が付けられていて、胸には鈍く光る金属のプレート。誰かのお下がりだろうかプレートは多くの傷が見える。それでも大切に手入れされているのか、凹みや大きな傷はない。
「……何よ、いやらしい」
「い、いや、その、金属の防具なんて珍しい、なんて」
「ああこれ。お母さんのお下がりだけどね、元冒険者の。結婚を期に戦闘の少ない田舎だからって防具を売り払ったんだって。でも何度も命の危険を回避できたこのプレートは、まあお守りなんじゃないかな? 何にも言ってなかったけど。同じ理由で額当てもあるよ。今は邪魔だからつけてないけど」
ハンナと同じように急所にそれぞれ厚手の皮の防具を装着する。村の自警団の父が必要になるだろうとプレゼントしてくれたものだ。厚手というだけあって重く、部分部分とはいえ頭や腕、胸と脚にほぼ全身に装着すれば総重量は十キロを越える。それに腰には母がもう要らないからとくれた錆び付いた銅色の名剣ゲイルグロリアスがある。勿論リュウが勝手に着けた名前だが。
「行こう、試練へ!」
「……はいはい」
半目で見てくるハンナを避けて、開きっぱなしの扉の先に足を踏み出した。
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