Root 3-4;次に会うまで
表現が微妙に異なるが、少女たちからの似たような質問は今回で3回目になり、僕もこのセリフを聞くと良いことが無いのは知っている。最初はこの少女が突然眼前から消え、次に来たアイラからは質問攻めにあった挙句、彼女もまた消えた。今回も質問攻めに合うか少女が急に消えるか、その両方か。
いずれにしても良くない質問だが、あれを聞きに来ているというのは、なんとなくわかる。なぜ、このような質問をしているかは疑問だが、少女の問いを聴くことにしよう。
「えっと、何を答えればいいですかね?」
「単刀直入に。ここで起こっている変わった出来事について知りたい。」
まあ、この手の質問をしてくるだろうとは思っていたので、驚きはしない。
「君が知りたいのは、たぶん最近ここで起きている野生動物の凍死だと思うんですけど、あってます?」
「そう。」
「アイラさんにも聞かれたので、少し気にはしてました。」
「詳しく知りたい。」
「わかりました。ちょうどネットが使えるので、一緒に確認しますか?」
僕はさりげなく自分のノートPCが置いてあるソファーを指さした。
「助かる。」
そう告げると少女はソファーへ座った。僕も当たり前のように少女の隣に座る。
3人掛けのソファーで密着しているとまではいかないが、少女との距離がかなり近い。少女の顔をこんなに近い距離で見たのは初めてだ。ついつい少女の顔を改めて凝視する。相変わらず、整った綺麗な顔をしているが、明らかにこの間会った時よりも成長しているような気がする。
少女の顔を見つめていたのは少しの間だったと思うが、凝視されていたと悟ったのか、目が合う。
「さあ、早く。」
「あ、はい。」
せかされた僕は急いでPCをスタンバイから起動させる。インターネットブラウザを開いて、まずはこの町のHPを確認する。
少女にもPC画面が見えるようにすると、少女は顔をぐっとPCへ近づける。目が悪いようで、眉間にシワを寄せながら画面を凝視している。さらに縮まった少女との距離に若干ドキドキしながら、僕もPCの画面を覗く。HPは分不相応と思えるほど凝った作りで、トップページには赤文字で《【お知らせ】:野生動物死体の処理について》という見出しが目立つように配置されている。それをクリックして、開く。
~~
【お知らせ】:野生動物死体の処理について
町周辺で野生動物の死体が多数報告されました。
野生動物死体を見つけた場合は、次のことを意識して行動してください。
・触らない
・近づかない
・ほかの人を呼ばない
動物の死体処理を個人で行うことは、野生生物の保有する感染症に罹患する恐れがあり危険です。野生動物死体を発見された方は、町農林課までご一報ください。
現在、県と町の農林課が協力し、多発している変死原因の究明を行っています。家畜を飼育されている事業者の皆さんは念のため、県農林課から配布されたガイドラインに従って対策を行ってください。
~~
ずいぶんあっさりとした内容だが、注意喚起は行っているようだ。あまりこのHPを見に行く機会がないからか、注意喚起を行っているのも初めて知った。
「こんな情報だけですけど、足りてますか?」
「もう少し詳しく知りたい。」
「では、もう少し調べてみますか。」
その後、県のHPや猟友会のHPを詳しく調べてみたが、特にこれ以上の情報は無かった。ネットニュースや畜産農家のHPも確認したが、さっぱりだった。
「うーん、やっぱりこれ以上の情報は今のところなさそうですね...」
「…」
望んだ情報がなかったのか曇った表情の少女は、黙ったままPCを覗いている。どこかに情報が落ちてないか細かく調べていると、あるSNS投稿が見つかった。
その投稿には写真が添付され、そこには野生の狐が写っており、狐はまるで雪の中で眠っているようだった。投稿にはその写真と共に、「狐さんが眠るようになくなっていました。かわいそうなので、近くに埋葬してあげました。」と書いてあり、いいねがかなり押されている。かわいそうな狐の死体を埋めてあげた、心優しい投稿だな程度くらいで、大した情報とは思えない。少女の反応を見ようと少女の顔を伺うと、少女はとても驚いた表情をしている。
「なんて、バカなことを。」
「えっ?」
「…Zoonosis」
「はい?」
「いや、なんでもない。気にしないでくれ。」
そう僕に告げると少女は明らかに態度を変えて、顔をPCから離し、ぶつぶつ独り言をつぶやき始めた。少女の顔は険しく、折角のかわいい顔の眉間にシワが寄りまくっている。そういえばさっき、少女がぼそっと何かを言った気がする。日本語ではなさそうだが、《ずーんのいす?》なんだそれは?
少女はもはやPC画面見ていないようなので、僕だけでこのSNSの投稿をくわしく確認する。狐の死体はどうやら下界のコンビニ近くにある公園で見つけたようで、投稿者は地元の女子高校生のようだ。埋めている場所まではこの投稿に書かれていないが、この公園に行けば何かわかるかもしれない。
「…また、ダメなのか。」
「え?」
また、少女がぼそっと独り言をつぶやく。何がダメなんだ?
「…」
「さっきから、様子が変ですが、どうかしましたか?」
「…なんでもない。」
いや、絶対なんかあったでしょ。という言葉が喉から出かかったが、飲み込む。
しばらく少女は独り言を続けたが、突然ソファーから立ち上がる。
「帰る。」
「え、どうしたんですか?」
「時間が欲しい。一旦帰る。」
「急にどうしたんですか? あの投稿写真に何か変なところでもあったんですか?」
「…」
「また、黙ってずるいですよ。」
「…申し訳ない」
「あ、そうだせめて学外まで送っていきますよ。」
「いや、遠慮しておく。」
予想以上にあっさりと断られてしまい、若干傷つく。
「せ、せめて、君の名前を教えてくれませんか? 僕ばっかり質問に答えて、君に協力しているんだから、その...名前だけ、次会った時に呼びたいのですが。」
言ってやった。ずっと気になってた少女の名前をようやく聞ける。
僕の言葉を聞いた少女も先ほどからの険しい表情が少し和らぐのを感じた。
「…いいよ。」
まさかの答えに、聞いた僕自身が驚いた。ダメ元で聞いてみるもんだ。
「ただし、条件がある。」
「条件?」
「次に会うまでに、この事件について詳しく調べてほしい。どんな些細なことでもいいから、可能な限り調べれるだけ詳しく。」
「…わかりました。」
「その情報と交換。忘れないで。」
そう言い残して少女は研究室から去っていく。
未練がましく少女の後を追っかけて行こうとも考えたが、そんな無粋なことはしない。少女は次に会うと僕に言ってくれた。その言葉を信じて、少女の小さな背中を見送った。
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