異変
Root 4-1;異変
少女と約束した次の日から、自身の研究なんかそっちのけで、僕はこの町で起こり始めていた異変を調べ始めた。まずは、野生動物の変死がいつ、どこで、どのくらい報告されているかを調べることにした。町役場に電話で問い合わせをしたら、案外丁寧に教えてくれた。
町役場に初めて通報が入ったのは5日ほど前で、道端で死んでいる野狐を見つけた通行人から駆除依頼だったそうだ。その狐を町の農林課の職員が回収したところ、外傷がほぼなく、あまりにもきれいな死体だったことから、念のため病理検査を行ったところ、凍死であることが判明した。ただの凍死であることを確認したため、狐は通常通り火葬されたそうだ。その日を境に、狐、リス、野良猫と冬眠をしない動物の死体が町のあらゆるところで発見された。しかも、数日の間に。現状把握できているだけでも、この町を中心に近隣の町村で20件ほど変死は報告されており、すべて死因は凍死ということだった。数日前、流石に不自然だと思った農林課の職員が県へ相談し、一昨日から県と協力してこの変死の原因を調査しているそうだ。
昨日見たHPの掲載についても聞くと、原因が不明である点から、未知の寄生虫や感染症の恐れがあるので、農林課だけではなく保健所も協力して注意喚起を行っているとのことだった。ただし、現時点では人体に影響を及ぼすような病原体は今のところ発見されていないとのことで、むやみに死骸へ触れたりしなければ、何ら問題ないと町役場の担当者は言っていた。
念のため、解剖が行われた動物病院へも聞き込みをしてみた。この町に一軒しかない動物病院だが、意外と暇そうでお爺ちゃん先生が詳しく教えてくれた。
素人でもわかるように簡単に説明すると、野生動物が凍死することは稀であり、越冬ができる動物は余程のことが無い限り凍死はありえないとのことだった。発生するとしても、食料が極端にない年か自然が厳しく吹雪が止まない年、もしくは足などにけがを負っている場合しか考えられないそうで、お爺ちゃん先生も初めて見たと言っていた。また凍死した動物達を解剖してみると、ほとんどの動物たちが食事をした直後に凍死していることが判明した。お爺ちゃん先生が何度も繰り返していたが、凍死の条件とはかけ離れているらしく、不思議だと言っていた。
最後に昨日見たSNSで投稿のあった公園に来てみた。公園は相変わらず雪が至る所に積もっていて、地面が見える場所はほどんとなかった。埋葬したと投稿されていたので、それらしい場所を探してみたが、手掛かりを見つけることはできなかった。さすがにSNSをたどって投稿者を探す訳にもいかず、その日は空振りに終わった。
久しぶりに研究以外で忙しい日を過ごしたことと、少女の力になれていることがなぜか少しうれしく、その日はぐっすりと眠れた。
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事態が急変したのは次の日だった。朝、気持ちよく目覚め、大学の食堂で朝食を取りながら、SNSを見ていると町にある養豚場で大量の変死体が発見されたとの書き込みが複数見られた。
『近くの養豚場がTVで見るみたいにテープで立ち入り禁止になってる...怖い。』
『養豚場警戒線張られてる、なんかのウイルスか?』
『防護服の人がたくさんいて、映画みたい!』
『なんかの撮影か?』
心なしか学内の雰囲気も浮足立っているように思えた。気にして周りを見てみると、あちこちでスマホを見ながら養豚場の出来事を話しているようだ。詳細が気になって、テレビもネットニュースも一通り見てみたが、こんな田舎の出来事を報道する媒体は無かった。
異変が拡大し始めているのかもしれない。
どうしても今調べている事件と関連があるように思えて仕方ない。
そう考え始めると、居ても立っても居られなくなり、養豚場の近くまで来てしまった。
~
養豚場に着くとそこは今まで現実で見たことのないような空間になっていた。
パトカーが数台止まり、防護服を来た警察官らしき人が入口で検問を行い、SNSに投稿されていた通り、黄色のテープで警戒線が張られていた。
養豚場の中には白い防護服を来た人たちが右往左往している。
養豚場は両端を小さな丘で囲まれた地形の谷の部分にあり、入口以外からは中を覗けない上に、近づくものを寄り付かせないような異様な雰囲気に、少し恐怖を覚えた僕は流石にこれ以上近づくことはできなかった。
恐怖心と葛藤しながら、中の様子がもっと遠目から見えないか見渡す。ふと、左手の丘を見上げると、何かが動いたような気がした。周囲に気づかれないように、丘を上り、気配があった場所へ行く。
気配の合った場所に着くと、そこに居たのは彼女だった。
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