Root 2-4;アイラの目的
「ですから、
え? どういうこと? またこれ?
アイラの言葉に僕は困惑する。
少女も僕に会いに来たと言っていたが、特に特技もなく、優れた才能も持ち合わせてはいない。もちろん、転生したわけでもないし、異能を持ち合わせてもない。
自分で言うのは変だが、僕はありふれた大学生だ。
「おい、テメーなんか変なことに首を突っ込んでるんじゃないだろうな。」
レイコさんの犯罪者を睨むような鋭い眼差しが僕に向けられる。
いや、だから、僕がそれを聞きたいんだって。
どう返してよいのか困り果てて沈黙していると、それを察したように、レイコさんが口火を切った。
「アイラちゃんも急に変なことを言うんじゃねえよ。こいつと昔からの知り合いっていう訳でもなさそうだし、何が目的でこいつに会いに来たんだよ?」
「
「へえーそっか…」
ギロリと僕にレイコさんの眼差しが再び向けられる。
先ほどとは異なり、明らかに面白いものを見つけて、それで楽しもうとする好奇の眼差しだ。
いや、アイラを見てくれ、レイコさんが思っているような展開じゃないから!絶対!
当のアイラはこちらに顔すら向けていない。
「さて、アイラちゃん、このボンクラの何が知りたいのかな?」
にやにやしながら、レイコさんがアイラを煽る。明らかに遊びモードへ突入されたご様子だ。
「そうですわね、まずは年齢、体重、身長を伺いたいですわ。」
「あははは、なんだよ、それ、そんなところから始まるのかよ!」
レイコさんはケラケラ笑いながら、この状況を楽しんでいる。
他人事だと思いやがって...
「えっと、アイラさん、そんな事聞いてどうされるおつもりなんでしょうか?」
「貴方のことを詳しく知りたいだけですわ。特に深い意味はございませんわ。」
「いやーこれは、これは。どこで知り合ったか知らないが、こういう事だったわけか!こんなボンクラの事がそんなに知りたいとはねー」
レイコさんは今までに見たことがないくらいの笑みでこちらを見ている。
「ちょっと、いい加減に遊ぶのはやめてくださいよ!こっちだって、何が何だか...」
「はいはい、私はお邪魔でしたねー裏でおとなしく聞いてやるから、あとはお二人でごゆっくり~」
どこのお見合いのおばさんだよ。
ダメだこりゃ、完全に色恋沙汰だと勝手に勘違いして楽しんでる。
レイコがカウンターキッチンの奥に続くバックヤードへ姿を消したのを確認したのか、アイラはこちらに顔を向けた。
「さあ、お邪魔な方は居なくなったわ。
「いや、急すぎないですか? アイラさん。いくら何でもそんな質問したいって言われても、アイラさんとはついさっき会ったばかりですし...そんな急にいろいろ知りたいといわれても...」
「時間があまりございませんのよ。貴方は特に考えすに、
おいおい、なんだよそれは。
理由も告げず、見知らぬ彼女の質問に全部答えろって、どんなプレーだよ。
アイラは僕をまっすぐに見つめている。
「さあ、早くしてくださる? まずは、現在の年齢、身長、体重からですわ。」
「・・・はあ、もういいよ、わかりました。お答え致しますよ。その代わり、アイラさんの質問が終わったら、僕の質問にも答えてくださいよ。」
「もちろん構いませんわ。」
何を言っても譲らなそうな彼女、ここは大人の男としてこちらが折れてあげよう。
彼女の質問を答えて、少女と彼女の事も答えてもらおう。
「えっと...まず、年は21歳、身長は171 cmで...体重は65 kgぐらいだったと思います。」
「ずいぶん、あいまいなお答えですこと。もう少し正確にお答え頂きたいですわ。」
「そんなこと、急に言われても...」
体重なんてめったに量らないし、身長に関しては年に1回ある健康診断くらいだぞ。
そんな正確に答えれる方がおかしい。
「まあ、いいですわ、あとで計算すればどうにでもなりますわね。」
「え? あとで計算ってどういうことですか?」
「いえ、こちらの話ですの、質問を続けますわね。」
その後も彼女の質問は止めどなく続いた。
大学で何をしているのか、友人関係、現在の交際相手の有無、交際歴の有無、普段の過ごし方、アレルギーの有無、好き嫌いの有無、趣味、将来の夢、等々...
いくら何でも聞きすぎだろ。ストーカーにでもなりたいのか、この子は?
「あの、アイラさん、そろそろこれ終わりませんかね?」
怒涛の質問攻めに流石に答えるこちらも疲れてきた。
「そうですわね...では、最後に1つだけ。」
「最近、貴方の周囲で不思議な出来事はございませんでしたか?」
「不思議な出来事...最近起こった不思議なことといえば、アイラさんとあの少女に出会ったことぐらいですかね...」
「そんな事はどうでもいいですわ。それ以外では何か無くって?」
「そんなことって...結構僕にとっては大きな出来事だったんですけど......」
「どんな些細なことでも構いませんの。この質問が一番大切ですわ。真面目に考え、思い出して答えてくださる?」
「そ、そんなこと言われても...」
「ここ1週間程度の出来事で構いませんわ。」
不思議な出来事なんてそうそう起こるわけでもなく...
寮の朝食で出てきた卵が双子だったとか、昼に食ったアイスが当たりでもう一本食えたとか、珍しく先輩が晩飯奢ってくれたとか...
って、食い物ばっかじゃねえか...
「うーん、特に思い当たるようなことは...」
「些細なことでも構いませんわ。普段とは異なる出来事を教えて頂戴。」
「そんなこと言われても...」
思い当たる節が全くなく、困り果ててると、聞き耳を立ておくと宣言していたバックヤードのレイコさんが急にこちらに顔だけを出して、話し始めた。
「あ! そういや、猟友会のおっちゃんたちが、最近狐の変死体を見たって、言ってたわ。」
「それはどこですの? 詳しく教えてくださる?」
アイラの顔がレイコさんへ移る。
「たしか、旅館近くの山の麓で狐が死んでたのを見つけたらしくて、それが、なんか変だったって言ってたような。」
「もう少し詳しく聞かせて頂戴。」
「うーん、なんか、特にケガしてるわけでもなくって、凍死してたらしい。冬眠しない狐が凍死するなんて、餓死くらいだとか、なんか言ってたなあ。」
「その狐は餓死だったのかしら?」
「いや、なんか見た目はまるで眠っているかのように綺麗で丸々と太ってたらしく、最初見つけた時は獣道の真ん中で寝てたかと思うぐらいで…。そうそう、あんな綺麗な死骸見たことないて言ってた。」
「そう...その後、狐はどうされたのかしら?」
「かわいそうだから近くに埋めてやったって言ってたよ。」
「その狐を埋めたのはどちらか、ご存じかしら?」
「詳しい場所までは聞いてないや。」
「そうですの...」
アイラはレイコさんの話を聞くと、すこし考え込み、すっと立ち上がった。
「帰りますわ。」
「え?」
「今日は有意義な時間を過ごせましたわ。レイコさん感謝いたしますわ。」
アイラはレイコさんに会釈して、僕の横を素通りして、出口へ向かう。
「え、ちょ、ちょっとアイラさん!」
「ああ、貴方にも感謝いたしますわ。」
レイコさんのオマケと言わんばかりにこちらに半分だけ顔を向けて、彼女は扉へ手をかける。
「えーもう帰っちゃうのー?」
「また、お会いいたしましょう。ごきげんよう。お気をつけて。」
アイラはこちらに一瞬振り向き会釈をして去ろうとしている。
「ちょっと待ってください、アイラさん」
アイラは僕の静止なんか聞いておらず、外へ出ていく。
追いかけようとすぐに出口へ向かい、店を出る。
彼女が店を出て数秒しか経っていないはずだが、周囲を見渡してもすでに彼女の姿は見当たらなかった。
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