Root 2-2;犬猿の仲

彼女に半ば無理やり案内させられ、レイコさんの店まで来てしまった。

店の入口の二重扉に掛かっている看板は”OPEN”の面が表示されている。

良かった店開いてて。

機嫌の悪そうな彼女の要望を叶えられそうで、とりあえず一安心した。

彼女も目的地に着いたことを察したようだ。


「このお店なのかしら?」


「あ、はい、そうです。」


「ずいぶん小汚いお店ですわね。」


彼女の指摘に改めて店を眺める。

確かに、元々バンガローだった店は、外壁の塗料が剥げていたり、扉の立て付けが悪くガタガタ音を立てていたりするので”小汚い”とも言えるが、味があるお店だと僕自身は思っている。


「うーん。そうですかね?煙突の部分とか味があっていいと思ってますけど。」


わたくしが伺ったお店の中ではワースト3に入る外見ですわね。」


「ワースト3って・・・」


「まあ、”カレー”の為であれば我慢して差し上げますわ。」


「はあ・・・」


大丈夫か?こんな彼女を連れてレイコさんの店に行って。

レイコさんの前で”小汚い”とか”ワースト3の店”とか言ったら、喧嘩になったりしないよね。。。

心に不安を抱えながら、立て付けの悪い二十扉を開いてお店へ入っていく。


「こんばんは」


「ノコノコと来やがって、”こんばんは”じゃないよ。あんな吹雪の中、見ず知らずの訳も分かんないガキを探し回るなんて、死にたいのかテメーはよ。」


マスク姿のレイコさんはこちらを一切見ず、いつものようにカウンターテーブル前の椅子に座ってスマホをいじっているが、怒りがにじみ出ている。

やばい、少女を探し回った時に際、キレられながら捜索を止められたのを忘れてた。


「せ、先日はすみませんでした。突然少女あのこが居なくなって、気が動転してしまって、我を見失ってました。」


「・・・・・二度とあんなに心配かけさせるんじゃないよ!」


「ほ、本当にすみませんでした。」


正直かなり怖いが、ここまで本気で怒ってくれる人はそう多くはない。

僕が少女のことを心配したくらい、レイコさんも僕のことを心配してくれたような気がして少しうれしかった。


「・・・次は止めないからな。」


そういうとレイコさんは立ち上がり、こちらへ顔を向け、


「・・・おい、てめー本当にわかってんのか?」


後ろに佇む碧眼褐色の彼女を見て、レイコさんは呆れながらそう言い放った。



~~



どうにかカウンターへは座る許可を得たが、正直レイコさんはまだ怒っているようだ。それはそうだろう、さんざん心配かけておいて、今度はまた碧眼褐色美女かのじょを連れているのだから。


「ほらよ!」


ドンっと乱暴に水の入ったグラスが置かれた。


「あの、レイコさんまだ怒ってます?」


「あぁ??」


いや、怖すぎ。元ヤンが今ヤンになっている。

口元は見えないが、目元だけでも怒りがこちらに伝わってくる。


「おめーは本当にバカか?」


「い、いや、そんなつもりは…」


「じゃあ、その子はこの間探してた子なのか?」


「えっと・・・違います...」


「また、面倒事を起こしたら、出禁な。」


「いや、ちょっとそれは勘弁してくださいよ。少女の知り合いだったみたいで、立ち話もあれでしたし...」


「はあ...まったくおめーは、本当にバカだな!」


罵倒というか、叱責というか、レイコさんのお叱りを受けていると、蔑ろにされていた彼女が口を開いた。


「ねえ、わたくしはカレーライスというものを食べに来たのですが、早くそちらをお出し頂けないかしら?」


「・・・・はあ????」


語尾があがってますよ、レイコさん。怖いっす。


「ですから、わたくしはここにカレーを食べに来ましたの。ここは食事を提供するお店ですよね?であれば、黙って早くわたくしにカレーを頂けるかしら?」


どう考えてもこの空気で言ってはならない言葉を、サラッとレイコへ投げる彼女のメンタルに驚く。

レイコは怒りで震えているのか目が信じられないくらい吊り上がり、眉間にシワがひどく寄っている。


「おい、テメー!!!大体、お前のせいでこっちはこの野郎にキレてんのわかんねえのかよ!!!」


ドスの聞いた声が店内に響く。


「失礼ですが、お店を経営なされている以上、お客のリクエストには最低限答えるのが道理ではありませんの?」


「・・・・・て、てめえ...」


どう考えても怒りで一杯の人間へ返す言葉ではない。

怒りからかレイコさんの声が震えている。

心なしか、体も小刻みに震えているような気がする。


「表に出ろ!!!」


右手でドンっとこぶしをカウンターへ突き立て、左手で出口を指さすレイコさん。

もう完全にらっしゃるようだ。


「れ、れ、レイコさん…落ち着いて...」


「だいたい、お前がこんなの連れてきたのが原因じゃねえか!お前も一緒に表へ出ろ!!!」


信じられないくらい吊り上がった目が僕を凝視する。

まさに蛇に睨まれたカエル状態で、言葉も出ない。


「まったく、乱暴な方ですわ。」


「はあああ???なんだと??」


「表に出て何をされたいのかは存じませんが、そんなことよりも早くカレーとやらを出してくださる?」


「おい、マジで言ってんのか?それ?」


「ええ、真面目にお伝えしておりますわ。ここのお店はお食事をする場所ではなくって?何度も言わせないで頂けるかしら?さあ、早くわたくしたちに料理を提供して頂戴。」


ぷっちーん

という音が僕にも聞こえた気がする。


「テメー許さねえ。」


レイコさんは黙って、カウンターからこちらへ回り込んで来る。

こぶしを握り締めながら...


「ちょ!!!ちょっとレイコさん!!!落ち着いて!!!」


僕も慌てて立ち上がり、レイコさんの前に立ちはだかるが、レイコさんの歩みは止まらない。どうやら僕の制止ももはや聞こえていないようだ。


「いい加減にしろ!!!!!」


彼女に向けて振りかざした拳を、とっさに僕は顔面で受け止めてしまった。

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