Root 1-4;少女の目的
「外は寒いので、ここで食べましょう。これ、どうぞ。」
あつあつの肉まんとココアをビニール袋から取り出して、少女へ渡そうとしたとの時だった。
「あ、すまん、俺レイコさんとこ行きたいから、もうすぐ店閉めるわ、出てってくれ。」
後ろで、慌ただしく動いているアイツから思わぬ言葉が出てきた。
おい、この真冬の外に追い出すなんてありえないだろ。
「すぐ食い終わるからいいだろ。なあ、頼むよ。せっかく、体を温めようとしてるんだからさー」
「いやー悪いな!今度一杯奢るから今日は頼むわ!」
いや、マジで頼むよ。こっちは真冬の散歩40分コースを完遂したおかげで、芯から冷え切ってるんだぞ。少女に至ってはワンピースだぞ。どう考えても寒そうじゃん。
と、思いながら、アイツを睨みつけているが、こちらの視線に気づかないようだ。
まじかよ。どんだけ、レイコさんのところに早く行きたいんだよ。。
友達が困っている時にお前は、冷たいやつだな。
と心で悪態を付いてみるが、まあ、アイツがレイコさんに夢中なのは知っているし、レイコさんの体調も気になるので、ここは友人として許してやるか。
「はあ、まったく、仕方ないな。。。。」
しぶしぶ、外へ行くことを決心した。
「ごめんなさい。ここはもうすぐ閉まるそうなので、外で食べましょう。」
少女はまた、コクリと頷いた。表情がほとんど変化しないので、どう思ってるのかは正直分からないが、怒ってはなさそうだ。
「今日はすまんねー本当、そっちも頑張ってー」
とレジの下でごそごそ何かをしながら、手だけをこちらに振っている。
「おう、レイコさんによろしくな。」
コンビニを後にした僕たちは、近くの公園へ移動することにした。
日が暮れて時間が経つにつれてどんどん気温が下がっていく。
早く暖まらないと風邪でも引きそうだ。
「行儀は悪いですが、食べながら近くの公園へ行きましょう。」
先ほど渡しそびれた肉まんを取り出して、再度少女へ手渡す。
少女は受け取った肉まんを躊躇くなく食べ始めた。
よっぽど寒かったのか?
それとも、肉まんを食べたことあるのか?
日本に住んでいるのか、観光で日本に来たのか?
そもそも、ご両親は一緒なのか、それとも一人で来たのか?
少女への疑問が募る一方だが、簡単に聞ける雰囲気ではない。
喉まで出かかった質問を、僕も肉まんと一緒に飲み込んだ。
~~
夜の散歩は嫌いではないが、さすがにそろそろ疲れてきた。
きっと少女は僕より寒く、疲れているだろう。
出会ってからコンビニ居た数分以外は、あんな格好でずっと外に居て、僕に振り回されているのだから。
「思ったより遠かった。。。さすがに歩き疲れた。」
ようやく見えた公園のベンチを目にして、つい不満がこぼれてしまった。
背後に目を配ると、少女は表情を変えず一歩後ろを着いてきている。
「もうすぐ着きますので。」
少女に声をかけると、いつものようにコクリと頷くだけだ。
公園といっても、数個のベンチが置いてあるだけの広場だ。この時期は除雪がまともにされていないので、周囲はかなり雪が積もってる。
街灯の下に置いてあるベンチを選び、積もった雪を払いのけ、先ほどコンビニで入手したビニール袋から少女のココアをポケットに移し、ビニール袋をベンチへ敷いた。
「ハンカチとか持ってなくて、こんなことくらいしかできないけど、良かったらここにどうぞ。」
少女はコクリと頷き、ビニールを敷いたベンチへ座った。
一人分のスペースを空けて僕も少女の隣に座った瞬間だった、臀部からナイフで刺されるような寒気が僕の全身を流れた。
若干身もだえながら、先ほど購入したコーヒーを体へ流し込む。
「うぅ。寒い。」
かなり冷めてしまっているが、まだほのかに温かみを感じる。
ポケットに入れていた少女用のココアのキャップを開けて、少女のに手渡す。
少女は相変わらず無表情で、ココアを受け取り口にする。
こんな冷えたベンチに座ったのに、顔色も変えない。
服装も薄着だし、もしかして北方の国から来たのかな?
疑問が積もる一方だ。
スマホの画面を見ると、寮の門限も近づいていた。
そろそろ、状況を打破しないと、さんざん少女を振りましただけで、何も力になってやれないクソ野郎だな。
タイムリミットに背中を押され、ついに核心へ迫ることにした。
「結構遅い時間になっちゃいましたね。」
「・・・・・・」
まるで独り言を言ったかのように、少女は無言である。
沈黙が心に響く。
頑張るんだ、ここで折れたらダメだ。
少女の方へしっかり顔を向けて、再度質問を投げかける。
「こ、ここに住んでるようには見えないですけど、一人でここに?」
「・・・・・・、そう。」
お、答えてくれた!
続けて質問を投げる。
「ご両親は近くに?」
「・・・・・・、居ない。」
「あ、そ、そうですか。」
やばい。この質問は地雷だったかも。
「・・・どこから来たんですか?」
「・・・・・・」
「えっと、日本?それとも海外?」
「・・・・・・、どちらとも言えない。」
ん?どちらとも言えない?
日本人とどこかの国のハーフっていう意味かな?
質問して謎を紐解いているはずなのに、謎が謎を生んでいる。
もう時間も少ない。もっと核心を突いた質問をしないと。
「あの、あそこで何をしてのか、教えてもらえませんか?」
「・・・・・・」
「誰か待ってるんですか?」
「・・・・・」
無言か。
仕方ない。時間は無いし、このまま少女を振り回す訳にもいかない。
「答えにくいですよね。見ず知らずの僕にこんなに質問されても困りますよね。」
「・・・・」
「もう一人で出歩く時間には遅いので、泊っている所まで送りますよ。」
この街にはホテルなんてものはなく、旅館が一件この公園の近くにあるだけだ。
ここに住んでるとは思えないから、あそこの旅館ぐらいしか宿泊するところはない。
冷たい膝に手をつきながら、ベンチから立ち上がり、少女を見る。
「・・・」
「もし、泊る場所が無いのであれば、その、、、、交番へ案内しますよ。」
「・・」
「交番のお巡りさん、見た目怖くて寡黙ですけど、悪い人ではないので安心してください。」
少女は手に抱えたココアを見つめて、無言を貫いている。
これは、いよいよやばいかも。
連れまわしたはいいが、何にも少女の力になってないところか、このまま無言を貫かれると流石に僕自身もやばい。
未成年を連れまわした挙句、公園に放置。
この気温じゃ、屋外で一晩明かすなんて無理だ。
最悪、凍死もあり得る。
「かと言って、寮には連れていけないし。」
困り果てていると、少女が呟き始めた。
「・・・・、あなたに会いに来たの。」
「えっ?」
「あなたに会って、話すために私はここに来た。」
「いや、ちょ、ちょっと待って。ど、どういうことですか?」
「そのままの意味。」
「え・・・・・」
私はあなたに会いに来た。
少女を見つめ、固まってしまった。
少女の唐突な言葉を僕の脳は理解できなかった。
会いに来たってどういうことだ、初対面のはずだ。
少女の言葉の意味を考えていると、突然スマホが鳴り始めた。
とっさに画面を覗くと、アイツからの着信だった。
少女に背を向け着信に出る。
「お、その後どうよ?」
「いや、今よくわからんことになってる。」
「はあ?どういうこと?」
「いや、あの子俺に会いに来たとか言ってて、よくわかんない。」
「なんだよそれ。知り合いなのか?」
「知り合いだったら、こんな困ってるわけないだろ!」
「まあ、それもそうだな。」
「おい。こっちは本当に困ってるんだよ。もう門限も近いし、あの子泊る所もない感じで。」
「だろうと思ったよ。いま、レイコさんの様子見に店来ているんだけど、レイコさんもう熱もなくて、元気だったから事情説明してみたら、一晩だけ面倒見てくれるって言ってるから、連れてこい。」
「マジかよ!神だなおまえ!良い友達を持ったわ!!」
慌てて少女の方へ振り返ると、そこには少女の姿は無く、周囲には雪が降り始めていた。
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