第3話 教室の扉と言うのは新世界の扉である
ワープホールこと時空の歪みを抜けると高校の第二体育館裏へと出た。ここは、塀や垣根で視界が遮られており、転移先としては絶好の場所だ。まぁ、そこに通ずる穴を見つけるのは大変だが。運が良いと一発で見つかる。
転移した後は、人に見つからないようにこっそりと生徒玄関へと向かう。そして、何事もなく普通に登校してきましたよー感を漂わせながら歩く。そうする案外バレない。
いつも通り、下駄箱の所で靴を履き替え教室へと向かう。廊下を歩きながら神爺の言葉を思い出す。出会いか……いったいどんなやつと出会うんだ?俺の運命を変える的な事を言ってたよな。てことは、それほどの何かをもってるに違いない。例えば……なんだろ?
俺は、もう既に出会うだけで運命を変えるレベルの奴らに出会っている。てことは、今までとなにかが違うって事なのか?
色々考えてみたけどわからずじまい。まあ、今日一日過ごせば分かるか。
俺の教室は一年一組教室。通称:自然科学、理数科だ。このクラスは推薦でしか入ることができない。しかも定員ピッタリなので転校生などありえないだろ。謎の転校生美少女の説はコレで消えた。だがちょっと残念だな。美少女との繋がりが、出会う前に切れるとは。
口惜しいな。と出会うことの無い超絶美少女に思いを馳せながら教室棟の一階の端っこへと向かう。体育館へと通ずる渡り廊下前の教室。ここが一年一組教室だ。
扉に手を掛け、開けようとしたその時、頭の中で妄想が膨らんだ。……あれかな?扉開けたら異次元でしたーとか。もしくはアレだな。授業中に何者かが教室に入って授業妨害するパターンかな。それじゃなかったらアレだ。突然美少女が入ってきて『ずっと貴方を探してました』みたいな……
そんな淡い期待を胸に新世界への扉を開いた。さあ、待ってろ美少女!
そんな期待とは裏腹に、世界はいたって通常運転だった。美少女などおらず、いつもの教室の風景が広がっていた。
やっぱりそうだよな。"転校生or謎"に分類される美少女ってのは小説の中だけだな。これだけはホントに小説の中にしか無い。超常現象巻き込まれ歴=年齢の俺が言うんだ。ほんとだ。はぁ。美少女現れねえかな。
とため息をついたせいか、入った瞬間扉に一番近い席に座っていたクラスメイトに『何かあったか?』と話しかけられた。のでてきとーに『おん』と返しとく。世界の法則がしっかりできている事に感心しつつも呆れていた。
そして、人の机を独占して迷惑かけてまで自分のしたい事をする女子の軍団や陽キャ軍団の間をすり抜けて俺は自分の席についた。ちなみに位置は、窓側の列の後ろから3番目。上等の席だ。
いつも通りカバンを横に掛けて、中から教科書やら筆箱などの必需品を取り出していると、俺に近づく気配が2つ。その気配は思ったよりも早く俺の机まで来た。
「よお!遅かったじゃねえか!」
「さてはあれだろ?遅くまでアニメ見てたんだろ?だからギリギリまで寝てたんだろ」
と言う二人は、発言順に、メガネを掛けている阿下喜 直久(あげき なおひさ)と天パの大畑 大志(おおはた たいし)だ。2人とも高校で知り合った。俺とはよくアニメや漫画の話をする。
「おはよ。ギリギリまで寝てた」
うん。さっき大畑が言ったのはほんとだ。深夜2時くらいまで録画してたアニメを見返していた。うん。おもろかった。
「夜更かしはいけねえよ。まあ、俺も人のこと言えねぇけど」と苦笑気味に阿下喜は言った。
「言えねえのかよ」と心の中でツッコミをしながら考えを巡らす。
「どうしたんだよ、彩音(あやね)氏。いつもみたいにツッコミしないのかよ」
と大畑。別にいいだろうが。
「たしかに、いつものサナじゃ無いな」
と阿下喜も。
……名前……バレた。……わかる?俺、今まで名前言わなかったんだよ。言いたく無かったんだよ。でもな、こいつらあっさりとそれを言いやがった。はぁ……。
………………よし、もう大丈夫だ。もう大丈夫だ。あの、こいつらがさっきも言ったけど、俺の名前は、彩音 紗菜(あやね さな)。苗字も名前も女子みたいだろ。……だから言わなかったんだよ。はぁ。この名前のせいでどれだけいじられたことか。
でも、もう大丈夫。慣れた。うん。慣れた。俗に言う諦めというやつだ。うん。
さて、話を戻すぞ。
「なんでもねえよ」
「そうか?」
「なんかありそうだが……」
なんでお前らこういう時だけは鋭いんだよ。
「なんにも……」
誤魔化しておく。
「そうか?なら良いが」
阿下喜は最後にそう言って自分の席へと向かった。時刻は8時35分。もう授業が始まる時間だった。
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