第2話 登校

16歳、それは、世の中曰く、一生に1度の青春の時期。アオハルなどというふざけたものだ。どういう訳か物語の世界ではちょうどこの時期から3年間の間に事件が起こる。例えば……異世界に行ったり、妖怪が見えるようになったり、謎の転校生が来たり、高校の入学式で異端や奴と出会ったり……良くも悪くも高校生という社会的なアレがある間は年中出会いの季節、人生の大きな分岐点の一つなのだ。

それで、その出会いやらなんやらで一番重要なのが学校選びなのだが……俺は高校は、徒歩10分というなんともベストな位置の学校に決めた。朝早く起きたく無いからな。出会い?ディスティニー?知らん知らん!学校ってものは近所が良いのだ。

で、その近いからという距離的な時間的な理由で適当に決めた高校に通い始めてから、だいたい2ヶ月が過ぎた。

その間、皆が期待するようなファンタジーなことは起きるはずもなく、美少女とも出会うこと無く、転校生も来ず、何事もなく高校生活を過ごしていた。放課後に高校でできた友達とカラオケに行ったり、神様と囲碁をして遊んだり、部活で汗を流したり……なんとも普通の日々だった。

そこら辺は全く面白くともなんとも思わない(個人的にな)のですっとばす。だってあれだよ。普通の高校生となんら変わりが無いんだよ!お前らが待ち望んでるものなんて無いんだよ。

そんなわけで、俺の人生が少しずつ変わり始めた辺り…高校一年の6月から話を始めよう。

その日は確か普通に起きて、普通に家を出た。何の変哲も無いような、まさに普通と言えるような朝。

いつも通り家を出て交差点を渡り橋の上に差し掛かった。

今日は、いい天気だ。日差しがいい感じで降り注いでいる。河原でマンドラゴラが日光浴してるし。こういう日は、昼寝をするに限る。もう、授業サボって神社の神木で昼寝しようかな。なんて思っていた。

ら……


「それはいかんぞ!」


肩の上から枯れたような怒鳴り声が聞こえた。多分幻聴だ。気にするな。俺の周りじゃよくある事だ。


「違うわ!ドアホ!」


何か硬い棒状のような物が頭に当たった。


「いて!殴らないでくださいよ。神爺」


肩に視線をやると小さいおっさんが顔を真っ赤にして腕組みをして睨みつけていた。手には杖を持っている。


「お主!神木をなんじゃと思っておる!あれは、我の寝床じゃぞ!お主らの言葉で言うならベットじゃベット!」


この、白髪で一寸法師くらいの身長の爺さんは名を神爺(かみじい)、命名は俺。


「それは……嫌だな」


おっさんの寝た布団で寝るとか嫌だぞ!気持ち悪いいい。


「じゃろ!絶対にするな!」


「はい」


「我は一応じゃが神ぞ。力は大分失っておるし、姿もこんなちんけなものだが神ぞ!もっと敬らんか!このボケ!」


そう、この小さい爺さんは、神様。うちの近くの神社で祀られている神様の一柱。祭神ってやつだね。小さい頃よく神社で一緒に遊んだものだ。主に将棋で。


「それで?なんで乗ってんですか?神爺」


神様なので一応敬語を使う。


「うむ、お主……今日は特に周りに気をつけろ」


「え?」


「今日、明らかな変化がお主の周りに起こる。それが幸か不幸かお主に影響を及ぼすであろう。なにか変わったことがあったら、それから目を離すな」


「わざわざそれだけを言いに?」


「それと、説教じゃ。お主のそのだらけ切った態度がきにくわんのじゃ!今日は一日じゅう……やややややめろ!」


「もう用は済んだろ?」


「我は神ぞ!人間ごときがつまみ上げていい存在では無いぞ!」


おー、もがいてるもがいてる。もっともがけ。


「知ってる。でもな、俺はできるだけ普通で居たいんだ。学校で神様と話してるところを他のやつに見られてみろ。俺は変人扱いされるぞ」


「何言っとるか!我らの存在が無くてもお主変人じゃろが!わしは知っとんじゃぞ!お主がクラスの女子から変人扱いされとんのを!」


もう、このジジイ捨てようかな。

嫌がらせにプラプラと振り子のように揺らしたり、ボールみたいに投げ上げたりしてみる。その度に「うわああああああああああ」だの「貴様あぁああああ!!!許さんぞぉぉぉぉ!!!」という絶叫と怨嗟の声が聞こえる。可哀想なのでとめてみた。


「はぁはぁ……てめえ……はぁ……」


おい、どうした?さっきまでの神様キャラは!


「神を愚弄するとは……余程死にたいようじゃの……」


あ、戻った。

体から何やら黒いオーラが見える。これは、ちとやばい。なので……


ポイッ!!


「え?えええええええ!!!!ああああああああああああああ!!!!!貴様ァァァァ!!」


大丈夫、落ちた先は水だし、川の中にいるカッパが救ってくれる。俺だって10年来の友達兼最寄りの神社の祭神を殺したくは無い。そこら辺は考えている。ので、大丈夫!


「許さぬぞおおお!!!」


ポチャン!!と魚が跳ねた程度に水しぶきが上がった。その後すぐカッパ救難舞台が救助に向かったのを確認した。

ちなみにカッパは、太宰治が書いたような怖い感じでは無く、ペンギンを緑色にして甲羅と皿を乗っけたようなじつに愛らしい姿をしている。


さてと、急ぐか。

始業時間まであと10分。教室でゆっくりしたいので少し急ぐことにした。ちょうど時空の歪みがあるし、近道しよう。

時空の歪みとは……なんかこう。時空にできる穴だ。俺は専門家じゃ無いから良く分からんが、この穴に入ると他の次元や時間、場所を移動することができる。

え?そんな賭けに出てまでゆっくりしたいのかって?賭けじゃねえよ。俺は、何故かは知らんがこの穴が、いつ、どこに繋がってるか分かる。これは、ガチで俺の特殊能力だ。

前よし、後ろよし、横は……かがめば見えにくい。よし!

あまり長い時間屈むとバレそうなのですぐに時空の歪みへと飛び込んだ。








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