異端な少年は普通を装いながらも世界を変えてゆく

鈴木 那須

第1話 人とは違う

いきなり過ぎるほどのいきなりだが、机の上にリンゴがあるとしよう。間違えた。真正面から見るとリンゴに見える物が置いてあるとする。切り分けたりしていない枝からぼったばかり、採りたてのリンゴっていう設定のものだ。皮の色は……リンゴだから赤にしよう。

さて、真正面から見たら普通のリンゴだが、これを少し角度を変えて見るとどうだろう?その時、机の上に置いてあるそれはリンゴに見えるだろうか?もしかしたら横から見たらリンゴじゃない別の何かかもしれない。ハリボテかもしれない。切り刻んでみたらミカンかもしれない。 下から見てみたら?上から見てみたら?見た目はリンゴだけど、味は桃かもしれないし、甘くも酸っぱくも無く辛いかもしれない。

そんな感じで世界や常識というのは、視線や考え方を帰るだけで簡単に覆る。

すまんな。少し例えが悪かった。少し所じゃない気もするが。まあ、要はそんな感じで物事の捉え方を変えてみると普通では見つからないことも見つけることができる。俺は、それを無意識のうちにすることができるんだとか……。

えーとな、つまりな、どういうことか、俺には特殊能力(?)がある。能力かどうかはよく分からないが、他人と違うのは分かる。早い話、他の人とは見える世界が違う。普通では見つからないものを見つけることができる。それが俺の能力。


自分が人とは違うと気づいたのは幼稚園の時。遊戯の時間で園庭で遊んでいると……空にクジラが泳いでいるのを見た。俺にとっては普段と何も変わらない日常。クジラが空を泳ぐのも、宇宙人が地球を偵察に来るのも、超人的能力を持つ秘密組織が暗躍するのも、皆が都市伝説やら怪奇現象やファンタジーなどと呼ぶ物全てが俺には とっては普通だった。日常だ。

だから、クジラが空を泳ぐのも不思議に思わなかった。けど、その日は珍しくクジラが群れで泳いでいた。

そのことを、友達に教えたのがきっかけ。

俺は、自分の常識を他人の常識だと信じてやまなかった。幼さ故なのかは分からないが疑おうともしていなかった。自分で言うのもアレだがピュアだった。


「ねえ、クジラがむれで泳いでるよ」

と近くで遊んでいた友達に話しかけた。もちろん友達も空を見上げて『ほんとだぁ』とか『珍しい』などと返すと思っていた。だが、予想に反し返ってきたのは

「なに言ってるの?クジラは空を泳がないよ?」

という少し冷たい言葉だった。

その時からだ。この世界の全てを疑い始めたのは。家に帰ってきてから母を質問攻めにしたのを覚えている。あ、ごめん。お母さんは疑えなかったわ。


「ねえ!クジラって空を泳がないの?」


「泳がないわよ」


「カッパさんて川にいるよね?」


「いると思うわよ」


「机の下に、小さいおじさんがいるよね?」


「ふふふ、ほんとね」

と机の下を見もせずただ笑って返されるだけだった。多分、『想像力豊かな子ね』やら『可愛い嘘ね』くらいにしか思われていなかった。

母の返答から、自分が見ている世界は普通じゃ無いと確信した。ただその事実を受け入れるしか無かった。

その後は、少しずつだが、この世界の本当の常識を覚えていった。図鑑を見たり、母に聞いたりテレビを見たり。そうやって情報を得て、この世界の知識を身につけていった。

それと、同時に自分にしか見えてないものの研究を始めた。妖怪、幽霊、神、UMA、UFO、宇宙人、超能力者、異世界人、悪魔、天使……とりあえず思いつくもの目につくものから片っ端から調べていった。図書館で借りた本と実物とを照らし合わせたり、交流を図ってみたり。色々やったなぁ。

座敷わらしと一緒にイタズラしたり、神社の神様と月見をしたり、カッパと魚とり、宇宙人とモールス信号で会話、龍に乗ったり、異世界に行ってちょっと世界救ったり……色々したなぁ。

自分が見ている世界を否定するより受け入れる方が楽だった。それにそっちの方が楽しい。開き直りって……楽だぜ。

中学になる頃には世間一般的に怪奇現象やら不思議現象?やファンタジーと呼ばれるイベントをほぼ網羅していた。

だけど、やっぱり人と違う・異常だと思われるのは嫌だったから……俺が普通とは違うとバレないように生活していた。細心の注意を払い、普通を装う。あのアレだよ、一種のペルソナ(?)みたいなもん。

それが上手くいったのか、周りには変なやつとは思われていない!と思う。多分。多分な。だが大丈夫だ!確信を持って言える。俺が他人とは違うものが見えているとはバレていない。周りから見たら、俺は普通の中学生。大丈夫だ。これまでの15年間、バレずに過ごしてきた。それはこれからも変わらないと思う。


高校生になっても。










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