作者もよく財布とかスマホ落とす

妹に最後に漏らした年齢を知られたちょうど1週間前の俺


この日も地獄を味わっていた。


「ヤバすぎ・・・」


「唯人どうしたんだ?お前らしくもなく焦って」

大変失礼な友人だ。しかし彼の言うとおり、基本的に楽観視する俺でも、さすがに


今回は焦っている。


「スマホ落とした・・・」

「うわーやらかしたな」


「朝来た時にはあったから、多分校内で落としたんだろうけど、職員室には届けられてなかったし、下手すると盗まれたのか?」

「パスワードかけてるだろ?それに唯人スマホほとんど使わないじゃん」


確かに俺は平気で1週間スマホを触らない時もあるし、連絡だって直接会えるような人ばかりだ。


「スマホ落としたの?この前もお財布拾ってあげたよね!」

そんなことを言われながら、俺の机を叩かれる。


「前木さん盗み聞きしないでよ」


少し怖い印象を持たれることもあるが、美人というには十分の要素を持っているが、それを鼻にかけず、性別を問わず好意的な印象を持たれる。彼女を説明するのは、それで十分である。


「山野くんがプリント提出してないから、こっちから出向いてきたんですけど」

「マジで?・・・本当だプリントが生成されてる」

カバンの底は異世界だった・・・?


「白紙じゃないの!今すぐやる!」


さすがは天下の優等生 前木 楓様だ。若干お節介なところもあるが、彼女のおかげで様々な面で助けられている生徒も多数いるのが事実だ。


貴斗は完全に拘束された俺の様子を見て、部活に行く支度を手早く終わらせた。


「俺は授業中に終わらせてあるから部活行くぞ。スマホの件、部活のメンツにも聞いてみるよ」

「ありがとうな貴斗。助かるよ」


明るい雰囲気を作っていてくれた貴斗が去ると、一気に気まずい雰囲気が流れる。


「前木さん部活はいいの?」

沈黙に耐えかねた俺がプリントに目を落としたまま聞く。


「今日は休み。でも30分から生徒会だからそれまでには終わらせるわよ」

「それなら悪いよ。自分で出しておくから大丈夫だよ」

「そう言って何回提出せずに帰った?」

「黙って手だけ動かします」


写させてくれることこそさせてくれないが、難しい問題の解き方や、出来るだけ簡単な方法を教えてくれたおかげで20分ほどで終わった。


「本当に助かった。また何かお礼するよ」

「出来ればこれからはちゃんと出してくれるって言って欲しいけど、お礼楽しみにしてるよ」


プリントを受け取ると、さっさと前木は教室を出ていってしまった。


俺も帰ろうと思うが、とりあえずでもクラスメイトにスマホの行方を聞いてみることにした。

教室は放課後になり、帰宅の準備や部活に行こうとするクラスメイトがまばらにいるくらいだったが聞きやすい何人か聞いてみた。


しかし見た人はおらず、俺は諦めて家に帰り、一晩経ってから職員室を尋ねることにした。

親に話すのはそれからでもいいだろう。


「え?見つかったんですか?」

朝一に職員室を尋ねると、昨日対応してくれた先生から、正直思ってもいないことを言われた。


「えぇ、今朝あなたのクラスの・・・えっと、ちょっと茶髪っぽいサッカー部の」

「浅田 貴斗ですか?」

「そうそう浅田くん。ありがとうって言っときなさいね」

「分かりました。先生もありがとうございます」


軽く一礼すると、ちょうど朝練から帰ってきたのであろう貴斗とばったり会った。


「おっ、それやっぱり唯人のスマホだよな?」

「マジで助かった。どこで見つかったんだ?」

「それがさ。朝練で学校来たらお前の机に置いてあったんだよ」

「?どういうことだ?」


落し物を拾ったら職員室に置くだろうし、何よりもおかしいのは名前も書いていないスマホが俺のものだって分かるわけがないのだ。


「とりあえずありがとな」

若干気味が悪いが、それでもスマホが戻ってきたことには変わりない。


「見つかってよかった。これからは気をつけろよ?」


自分の席に戻る貴斗を後目に、俺は久しぶりのスマホを立ちあげる。

しかしすぐに違和感に気づく。

入れたはずないアプリが1つインストールされているのだ。


アプリ名には「恋愛GO」と書かれており、ハートを持った妖精のようなキャラクターが描かれている。


そのアプリは全く記憶になく、そもそも連絡用アプリしかインストールしていないスマホの中身なんて勝手に頭の片隅に入っている。

何かの間違いでインストールしてしまったのだろうと、そのアプリを消そうとすると、間違って開いてしまった。

慌ててホームに戻ろうとするが、ゲームが進行し、嫌でも画面に視線を奪われてしまう。


初めまして山野 唯人くん

恋愛GOにようこそ

このゲームは現実と連動させることで課題をクリアしていくゲームです

課題をクリア出来ない場合、毎回罰ゲームを用意しています。頑張ってください。

早速課題です。

課題「前木 楓に彼女の好きなところを3つ言う」


「なんだこれ」


内容もそうだが、勝手に名前が登録されているし、何故か前木さんの名前が出てきている。

よく分からない状況に不安を感じ、とりあえず前木に相談しようとしたところで、教師が入ってくる。


「座ってー授業始めるわよー」

休み時間でもいいか。そう思い、電源を落としてカバンに突っ込むと教科書を取り出した。


それから移動教室や体育となかなか前木と話すタイミングを掴むことが出来ず、いつの間にか記憶の中からあのアプリのことが飛んでいた。


そしてあっという間に放課後になってしまった。


「山野くん!ちょっと手伝って」

俺が一緒に帰る相手を探していると、前木さんから呼び出しを食らった。


「ごめん俺、この後腹痛の予定あるから・・・」

「え?なんて?」

相変わらず満面の笑顔がもっとも怖い人だ。


「準備室までプリント置きに行くだけだから」

教卓に置かれたプリントに手を置かれて、どうしようもないので、諦めて俺はプリントを持った。


「別に全部持つことないよ?」

「涼香辺りに見つかったら軟弱!って怒られそうだから持たせてくれ」

「知らなかった。すずちゃんと仲良いの?」

「幼稚園からずっと一緒。仲は良いと思う。前木さんこそ友達だったんだ」

「ほら私弓道部の部長やってるし、すずちゃん剣道部の部長だからさ」


意外な関わりを知れたところで、ある事を思い出す。

「あっ、あのアプリ・・・」

「何か言った?」

「それがさ・・・」


見つかったらスマホのこと。それから「恋愛GO」なるアプリのことを話してみた。

「訳分からないね。適当言ってるんじゃないの?」

怪訝そうな態度で聞いてくる。どうやら微塵も信じていないようだ。


実際俺もこのアプリの1割も信じていない。


「だったらスマホ見てみろ・・・って教室置いてきたままだ」

「昨日落としたばかりなんだから持ってなさいよ。そういえば私の名前が書いてあったっていうお題はどんなのだったの?」


「前木さんを3回褒めろみたいなやつ」

「とっさによく思いつくね」

「いや、だから嘘じゃないって」

「だったらやってみてよ。褒めてよ私のこと」

「えぇ・・・」


正直、俺だって変なアプリを入れてしまっただけで罰ゲームなんて信じていない。

だから正面からクラスメイトを褒めるなんてするつもりはなかった。


「本当だって言うならやってよ。私もやってあげようか?」

「分かった!やるから・・・」


準備室に、プリントを置いたところで俺は彼女に正面を向く。

「そうだな・・・誰にでも優しい」

「んっ・・・分かってたけど言われる方も恥ずかしいね」


「何にでも真剣に取り組むところ・・・と歌が上手いところ」

「歌のことは言わないでよ・・・」

去年の合唱コンクールでの前木さんのソロパートは当時の在校生では伝説になっており、本人は思い出すのも嫌らしいが、泣く生徒が出るほどだった。


「終わり!さっさと教室戻ろう!」

この雰囲気にとても気が気じゃなくなってしまった俺は、1人でさっさと教室に戻った。


「・・・なんか思ってたよりもずっと・・・」

もう1人の方も、顔を真っ赤にして、その場に座り込んでしまった。


客観的に見ても人に頼まれごとをされやすく、これ以上は時間を奪われたくないと早歩きで校門をくぐったところで、俺は先ほどの事が恋愛GOに本当に反映されてるのか、半信半疑で開いてみた。

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