出来ることならスマホかお前どっちか割りたい

本伝 ミナト

割れるのはスマホか頭蓋骨か

ボールの弾む音と、生徒の話す声や指示を出す声が聞こえてくる体育館裏。

俺はそこに女子と2人っきりだ。

呼び出したのは、俺だ。


お互いの間に会話はなく、蒸し暑い空気のせいが、それともこの雰囲気のせいなの

かお互いに少し汗をかいている。


そんな中でも、やはりこの子は美少女であることには変わらない。


女子としても少しだけ低い背。長く艶やかな髪と、笑顔になるとあどけなさが目立つその姿は、学校の男子のあこがれになるには十分の素質を持っている。


俺は覚悟を決めた。


喉を鳴らして、彼女に思いを伝える。

これが彼女にとってどれだけの重さになるのかなんて、想像もつかない。

それでも分かるのは、俺にとっては一世一代とハッキリと言える出来事だ。


「・・・白石さんお願いします。一線を俺と超えてください!」

告白のさらに上、なんなら平行線上とも言える告白だ。


つい1週間前に出会って、今こうして告白している。ただ別に俺の一目惚れなどではなく、本来の意味での強制だ。


「えっ、あ、あの・・・」


白石さんのこの反応はゆうに予想が出来た。その上でやっているのだ。

しかしここで諦める訳には行かない。


「このままだと俺は1人で一線を超えなきゃ行けなくなります!お願いします」

スマホのバイブレーションが激しくなる。目に見えて制限時間が迫ってきた。


「山野くんと私、つ、付き合ってもないのにそんなこと出来ません!」

「分かっています!それでも!そこを何とか!」


絶対に食い下がらない。性欲などではなく、この子ならワンチャンという気持ちが昂ってくる。


「こ、困りますぅ!」


「何やってんだ唯人!」

顔を真っ赤にして、白石さんが叫んだところで後頭部に激痛が走った。


「おい、何やってんだ。蹴り飛ばすぞ」

「蹴り飛ばしてんだろうが!」

「黙れ性犯罪者に選択の自由があると思うな」


そこには毎回のように、白石さんを守ろうとする俺の幼馴染が立っていた。


長い髪をまとめたポニーテールと、少し背が高く、良い意味で大人びて見えるので、彼女のクラスにも好意を持っている男子はいるらしいが、あいにく片手に持たれた竹刀のせいで、そんな気分には全くならない。


「自分の昂りのためにこんなことしてると本気で思ってるのか!?」

俺のあまりの感情の荒ぶりに、涼香も少したじろぐ。


「だったらなんなのよ。理由でもあるっていうの?」


「当たり前だ。理由もなく大事な友達が嫌がるようなことは言わない」


そこまで言うと、今まで黙っていた白石さんが、涼香と俺の間に入った。

「山野さんは良い人です。理由を聞いてあげませんか?」


白石さんの珍しい自分からの意見に、涼香は身を引いた。

「そりゃ幸が聞くっていうなら私も聞くけどさ・・・」


そうして2人の視線が集まったところで、俺は言う。

「・・・このまま18時を迎えると、俺は命並みに大事なものを失うかもしれない」

「そんな・・・でもどうして私とその・・・そういうことすると大丈夫なんです・・・か」


「・・・そういうことなんだ」

「どういうことなのよ!!」

ダメだ。これ以上説明すると禁止事項の「他者へアプリの話を漏らす」に引っかかる。


「頼む!分かってくれ!」

そこまで言うと、涼香の膝蹴りに後ろから貫かれる。

無理やり座らせる形になった俺に、涼香は鋭い目を向ける。


「分かったわ。唯人の命は下半身と直結しているっていうことね」

「ちが!・・・いやまぁ間違ってはないか」

足先を思いっきり踏まれる。


「幼なじみの優しさよ。物理的か社会的か選ばせてあげる」

「いや・・・あの・・・」

完全に目が笑っていない。ゴキブリとか殺る時の顔だ。

俺は天を仰いだ。


「・・・物理で」

仰げば尊し


それからおよそ5分間の記憶が無い。


「えぇ!?これ本当に山野さん死んでませんか!?」

「死んでないよ。内蔵とかぐっちゃぐちゃになってるだけ」


「・・・死んでますよね!」

「大丈夫よ。いざとなれば生き返らせられる」


山野の顔は真っ青で、間違いなく苦しんで死んだような顔をしているが、身体には外傷が一切ない。


「お願いですから1回蘇らせてください!」

「こんな奴死んだ方が世間とコイツのためよ?」

「それでもです!」


納得いかない様子の涼香だったが、被害者本人の願いならと諦めて、唯人の腹部に手を当てる。


「えい」

「きぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

身体が30センチほど飛び跳ねたところで、俺の意識が戻った。


「なんで生きてるんだ・・・?確かに意識が飛んだのに怪我も無いし・・・」

「内蔵だけぐちゃぐちゃにしただけだもの」

一体何をされたんだ。想像もしたくない。


「あのっ!山野さん!」

時間を確認し、慌てたように白石さんはこちらに近寄ってきた。


「その・・・これが私の限界です」

俺の両手を、彼女はギュッと5秒ほど握ると、すぐにその場を走り去った。


「えっ・・・」

「ちょっと!幸!?」


それを追いかけるように、涼香もその場を去った。

追いかけられる距離でないことを確認すると、すぐにスマホを立ち上げた。

時刻は17時52分


勝手に「恋愛GO」のアプリが立ち上がると、画面中央に妖精のような小人が現れる。

「これでゲーム終了だね。今回のお題は、白石 幸と一線を超える。だったね」

「無理だろ!」


3日ぶりの不可能お題だった。


「別に君を有利にする必要はないもの。別にゲームなんかしなくて、そのまま君の個人情報をばらまいても良かったんだよ」

「ふざけんなよ・・・」

「でも失敗は失敗・・・って言いたいけど。最後の幸ちゃんは良かったねー」


「最後って手を繋いだ時か?」

「凄さが分かってないみたいだね。幸ちゃんは今までキスどころか男と手だって繋いだことなかったのよ?」


今どきそんな清純な子が存在したのか・・・

「君を庇うわけじゃないけど。そう考えると、一線は超えてるのよね。もちろん罰ゲームはするけど、少しくらい譲歩してあげようかしら」


「何でもいい・・・出来るだけ辛くないのでお願いしたいです」

「その辛くないってのはAI的によく分からないんだよね。いいよ。どれがいいか選択にしてあげる」

「おぉ!マジか!」

これで社会的な死は逃れる。


性的に見たことがある人に、その旨を書いたメールが送信される

1番最後に漏らした日付

たけのこの里過激派にたけのこdisを住所付きで送信

中学の時に書いた「Darkness eternal history(悠久の禁術書)」の全ページを拡散


「全部ヤダぁぁぁぁ!!!」

ガチで恥ずかしいのか、本日二回目の死に至るものしかない。


「選択の余地がなさ過ぎるだろ・・・」

「罰ゲームなんだから当たり前でしょ。ならもう一個くらい増やしてあげようか?」

「頼む!何でもいいから余地をくれ!」


小学生の時に好きだったミヨちゃんの恋愛歴


「1番ヤダぁぁぁぁ!!」


俺は被害被らないけど、心を保てる自信が無い。


「なんでよ!普段出さないような罰ゲームにしたのに!」


俺は諦めて、罰ゲームの被害の大きさを推察することにした。


まず1はない。その子だけならいいかもしれないが、絶対に口で拡散され、そのまま社会的死直行に決まっている。


2は比較的増しかもしれないが、問題点は内容ではない。この恋愛GOというアプリの罰ゲームは誰に送られるか書いていない時には、面識のある人からの完全ランダムなのだ。

白石さんや涼香に送られたら次は内蔵を元に戻してくれる保証がない。


3は今日中に死ぬと書いてある


4は拡散力が大きいが、不特定多数の人物に俺の名前が明かされることなく見られるだけだ。


だが内容が全く思い出せない。思い出そうとすると叫びながら山中に穴を掘ってノートを埋める自分の姿がフラッシュバックしてくるだけだ。


「・・・決めた2にする」

「あんまりランダムなの好きじゃないと思ってたけど、理由聞いてもいい?」

「俺の知り合いなんて男の方が圧倒的に多い。そいつらに送れれば適当に流せるし、何よりもそうなる確率が高い」

「いいよーそれじゃあランダムで送っとくから今日は終わり!」

そういうと、恋愛GOは勝手に閉じてしまった。


「男友達に送られてくれればいいけど・・・」

スマホをポケットに戻して、俺はさっさと帰ることにした。

歩きながら再びスマホに目を落とし、メッセージを確認した。

すでに誰かに罰ゲームは送信されたはずだが、連絡は来ていない。


そこまで仲がいい人に送られたわけではないようだ。

それに安堵しながら、俺は家の玄関を開けた。


「ただいまー」


ちょうど同じタイミングで、妹が帰ってきていたようだ。

妹がこちらを見ながら一言だけ言う。


「・・・マジでキモイ」


あっけに取られていた俺だったが、落ち着いて考えるとすぐにその原因が分かった。


「・・・お前かー・・・」

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