第9話 〈黒〉の蛇口を捻る時
杉山はまるで甲子園の選手宣誓をするかの如く、市長の前に直立不動で解答する。
「え~、三角公園の秘密は『水飲み場』にあります」
一同が三角公園の中央にある水飲み場へと向かった。
「え~っとですね、この水飲み場は赤い蛇口を捻ると昼は水、夜はピンクの液体が流れて来ます」
そう言って赤の蛇口を捻った。杉山の言う通りピンクの液体が蛇口から出て来た。 騒々市長が杉山に問うた。
「ほう。よくぞ見つけましたね。ところで、このピンクの液体は何だね?」
「これは『いちごミルク』であります」
彼と彼女が微妙に反応した。
<杉山の奴、分かっていたか>
市長はそのピンクの液体を人差し指でちょいと触るとぺろりと舐めた。
「ふむ、きみの言う通りこれは『いちごミルク』ですな」
「市長、如何でしょうか」
少し緊張気味に杉山は言った。市長の口から正誤の言葉を待つ。暫しの沈黙の後、
「正解です」
「え?」
彼の口から思わず叫喚の声が漏れた。
「やった!100万頂きだぜ!わりいな」
彼と彼女を見遣って言う。
「そ、そんなはずは」
彼は項垂れた。
「市長、待ってください!」
「なんだね?」
「もう一つ秘密があるんです」
「ほう、そうか。では、答えてくれたまえ」
「この水飲み台の水飲み棒に秘密があります」
彼はそう言って水飲み棒を指差した。
「では、実証してみなさい」
「はい。先程、杉山くんが指摘した点以外にこの水飲み棒の黒い蛇口を捻ると、」
彼は水飲み棒の黒い蛇口を手前に捻った。暫くすると微かに「ぽん」という音がした。
「おい、何にも出ねぇし、何にも起きねぇじゃねーか!」
杉山が難癖をつける。彼は黒い蛇口を一旦元に戻した。市長は黙って腕組みをしている。
「ではもう一度やりますが、私が黒い蛇口を捻る直前に、後ろを振り返って見てください」
「何があるってんだよ」
杉山はぶつぶつ言っている。
「では、もう一度」
そう言って彼は再び水飲み棒の黒い蛇口を手前に捻る。
「振り返ってください」
彼以外の皆が一斉に振り返る。すると遠くで小さな花火が打ち上がり、その後「ぽん」という花火が打ち上がった音が遅れて聞こえた。
「おお、小さい花火のようなものが上がったような」
「どうでしたか?花火が見えましたか?」
「うむ、微かにな。でもよくわからんなぁ」
お年を召されている市長には少々分かりづらい部分があるのは否めない。
「では私がスマホで動画を取りますので、確認して下さい」
彼女が証拠動画のカメラマンを買って出た。
「用意はいいかい?」
「OKよ」
彼は黒い蛇口に手を掛け、彼女はスマホの動画撮影画面にしてセット完了。
「じゃぁいくよ」
「OK」
彼は水飲み棒の黒い蛇口を手前に捻った。と同時に、先程花火が上がった方向に彼女はさっとスマホをかざす。
遠くで花火が打ち上がった。しかし小さい。その後「ぽん」という音を残して夜空に消えて行った。
「どう?撮れた?」
「ええ」
そう言うと、スマホには遠くで花火が打ち上がって消える動画であることを皆が確認した。市長には、画面をピンチして動画を見せた。
「ということで、水飲み棒の黒い蛇口を捻ると、夜に遠くで花火が打ち上がる、という秘密です」
市長はニコニコして、
「御名答」
と答えた。
「やったぁ」
二人は両手を挙げて喜んだ。
「でも、両者別の答えで正解している場合懸賞はどうなるのかな?」
「うーん」
懸賞贈呈の件は市長の判断に委ねられた。
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