第5話 黒印の水飲み棒

「い、いきなりピンクの水が出てくればそれはおかしいわな」

彼は力のない声で呟く。

「おっしゃ!違いがわかったぜ!粘った甲斐があったってもんだ」

杉山は満足そうに公園を後にした。

「どうしよう。杉山さんにわかっちゃったね」

「まぁいいさ。元はと言えば杉山から懸賞の件を教わったし。それはそれでいいんじゃない?」

「そうね。他の人に知られるよりいいか」

二人はこの件の落しどころを見つけた。


「でも、この水飲み場には<青>印の蛇口と<立ち飲み棒>がまだあるわよ。それを確認しに来たんだから試そうよ」

「そうだね。そうしよう」

彼は<青>印の蛇口を捻ってみた。案の定、やはり普通の「水」が出て来た。

「だよな~」

彼は少し落胆した。

「って事はだ。昼は<青>と<赤>は共に「水」が出て、夜は<青>が「水」で

<赤>が冷たい<いちごミルク>が出るって事か」

「そうなるわね。どうせだからこの<いちごミルク>飲んでいきましょうよ。美味しいし」

「そうだね」

そう言うと、二人は<赤>の蛇口を捻って冷たい「いちごミルク」をごくごく飲んだ。

「しかし、冷たくて美味しいね」

「ふっく」

彼は夢中でごくごく飲んでいる。

「ぷふぁ~、しかしうめぇなぁ」

口元を手で拭いながら言った。

二人は三角公園を後にしようとした。結構な時間になって居り、周囲に人はほとんどいない。

「ねぇ、<立ち飲み棒>は確認しなくてもいいの?これは<黒>印よ」

「どうせダミーだろ?昼は何も出なかったよ」

「でも<黒>の印よ?一応廻してみるわ」

彼女はそう言うと、<黒>印の「立ち飲み棒」のコックを手前に捻った。 やはり何も出て来ない。


「あれ?」

「どうしたの?」

「何も出て来ないけど、かすかに何か聞こえたような気がする」

「え?僕には何も聞こえなかったけど」

「もう一回捻ってみる」

彼女は一度蛇口を元に戻して、再び<黒>の蛇口を手前に廻す。

やはり何も起きない。

「やっぱりダミーだよ」

すると、微かに何か「ポン」という音が聞こえた。

「あれ?今、何か聞こえたな」

「そうよね?聞こえたでしょ?なにかあるんじゃない?」

「よし、今度は僕が廻してみよう」

彼は再度「立ち飲み棒」の蛇口を戻し、手前に廻す。

「いくよ。周りをみててね」

「わかった」

彼は「立ち飲み棒」の蛇口を捻った。

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