第15話 魔王でも怖いものは怖い

 たった今思った事がある。


―俺、六人の悪魔〈六人の魔神〉まだ二人しか知らないんだけど?


 六人の悪魔〈六人の魔神〉とは六人の魔王直属の配下で極めて優秀な存在。その六人のことである。

 しかし魔王である俺はたった二人しか知らないのだ。


 一人目は優秀で有能、素早さに美貌を兼ね備えた完璧な配下―ミラン=リュージェ


 二人目は残機があればいくらでも復活するチート級のスキルを持ち、建物にやたら詳しい、最近では造ることも出来る配下―ビルダーザリガニマ○オ


 間違えた


配下―アルミニオン=アルアドール


 この二人のみ。

 後四人は最初集結したときに跪いただけである。

 また、その他下級の下部たちや六人の悪魔〈六人の魔神〉たちの手下の者など面識すらない。


 いくら魔王、偉い立場と言えど部下たちをあまりに知らなすぎる。

 そろそろ本格的に魔王として行動しようと考える今日この頃。


 俺はさっそく行動に移す。


 まず部屋を出て、


 忘れ物を取りに戻る。


 再度出発、したところでアルと出会う。


「おや、魔王様 一体どちらへ?」


 相変わらずのスモールサイズ。

 アルは俺を見上げる。


「ああ、それなのだが我はあまりにも配下たちを知らなすぎる 少し紹介してもらえぬか?」


「はっ、私でよろしければぜひ」


 小さな頭を垂れるアル。

 そうして俺は今日もまたアルのもと案内される。


 ちなみになぜ俺が一度忘れ物を取りにいったのか。取りにいったものは伝説の魔剣、じゃなくて魔杖・錫杖。

 持ってく理由はただの気紛れだ。


「魔王様、自らお出でにならなくとも私が呼んで参りますが………」


「よい、ただの私の気紛れだ それくらい自分で行く」


「左様ですか、では早急にご案内を」


 アルは納得してくれているが本心はただの気紛れどころか知らない事を不安に思っているからだ。


 用もないのに呼ぶのは申し訳ないというより恐れ多いと言った方が近い。


―さて、今回で三人目の認識になるが一度会っているはずなんだよな


 あまり記憶力には自信がない。

 小さな頭の容量から何か記憶がないかあの日の事を思い出す。

 

 とは考えても六人いる筈なのに五人しかいなくね?という今にして思えば間抜けな考えしか出てこない。


 これは本当に会ってみるしかないようだ。


「魔王様到着致しました こちらでございます」


 アルと俺の目の前には俺が普段いる部屋のような両開きの扉がある。


 一体どんなやつなのだろうか。

 少し楽しみに思いながらその扉に手を掛ける。

 すると………。


 パリンッ


 部屋の中からガラスのようなものが割れる音が聞こえた。

 それはアルにもしっかり聞こえていたようで俺の空耳というわけでもない。


 アルに目で合図するとコクリと小さく頷いた。

 そして俺は勢いよくその扉を開けた。


「あ…………」


 飛び込んできた目の前の光景に俺は硬直する。アルは小さく声を出した。

 

 目の前の光景。それは人の外見とさほど変わらない白衣を着た身長180はあろう男性。そいつが扉の目の前で倒れていたのだ。


 近くには先ほど割れたであろうフラスコが粉々に散っていた。その破片はその倒れる男性にも刺さっていた。


(ぎ、ギャァァァァ!)


 俺は必死に出そうになった悲鳴を押し殺す。

 声には出さなかったが心の中で発狂した。

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