第12話 城内見学

 只今最強候補のザリガニ、魔王をも越える態度のデカイベル、その二人のおまけの魔王レンマの三人で城内をお散歩中。


 何故こんな地獄のような散歩をしているのかというと勇者を待ち構えるべく内部を調査しようということだ。


 ベルの頭に乗り、アルが俺を先導する。


「この廊下は城正面の出入口から真っ直ぐに繋がっております」


 各部屋を見て周りとうとう城の出入口へとたどり着く。


 正直ここまで長かった。


 このザリガニなんと言っても案内が細か過ぎるのである。一つ一つ説明してくれるのはありがたいのだが、その説明が長いときには三十分以上も続く。

 更にベルの横やりに既に話はさっぱり頭に入らない。


「アルアルここでよく踏み潰されたよね(笑)」


「うむ、最近は天井を這いながら移動している」


―………蜘蛛なのか?


 もはやベルの言葉に割く気力はない。


「そういえば、天井を移動していた時に気が付いた事が一つあります」


 思い出したようにアルが言う。

 気になった俺は素直にそれを聞いてみる。


「ほう?申してみよ」


「天井裏がかなりホコリまみれです」


―お前かネズミしか通らねーからだよ


「更に!」


―まだあるのかよ 一つじゃないじゃん!?


「ネズミの糞まみれです!」


「え、汚っ」


 そのの話を聞いて頭の上に乗っていたアルをベルはペイッと投げ捨てた。


―おい


「グハッ」


―ほら見ろ 汚いとは言えそんな投げ方するからダメージ通ってるじゃん


 床に叩きつけられアルはピクピクと痙攣している。


 やはりいくら死んで生き返ってもザリガニはザリガニのようだ。

 そう考えると六人の悪魔〈六人の魔神〉の中ではあまり強くないのかもしれない。


「ベルよ、痛いであろう!」


 アルが起き上がりハサミをベルへ向ける。

 ベルはそっぽを向いて話を聞かない。


―こいつらがいると話が進まない


 ここは一つ手を打とう。


「ここまでで充分だ 城内の事はだいたい把握した して、天井裏の汚れだが通るのはアルだけであろう 掃除当は任せる 好きにするがよい」


 ビシッと魔王らしくこの無駄話に終止符を打つ。


「は、了解致しました では私はこれで」


 さっそく取りかかるのか天井裏へと消えていくアル。


「私はどうすればいいですか魔王様?」


「え?」


「暇なんですよね今」


―いや、知らんし とは言えこのまま好き勝手させるとまた取り返しのつかない事になる


「ふむ…………では、これを機会に掃除のやり残しなど見てきてくれ」


「えー………やです」


―はぁーまじこいつ何なんだよ


 内心うんざりだが相手にするだけ無駄だ。俺は学んだのだ。


「………ベルにしか頼めなかった事だが仕方あるまい」


「いえいえ、やっぱり私がやりますよ」


「本当か?」


「はい!」


 そういって何処かへ駆けて行った。


―ふ、なんてチョロいんだ


 ここに来てようやくベルの扱い方を学んだ瞬間である。

 もう二度と戻ってくる事のない事を祈るばかりである。


 そして、俺自身も自分の部屋もとい魔王の間へと戻る。

 




 戻ってきた俺は玉座にドカリと座る。ざっくり城内部を見て回ったが収穫ばかりだ。


「ふふふ、これなら俺の計画ははかどるぞ」


 ニヤニヤと、声に出しながらそう呟くのだった。

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