第2話 勇者降臨してしまった

─拝啓 お父さんお母さん

 現世ではいかがお過ごしでしょうか?


「魔王様~!」


─俺が居なくなっても変わりなく過ごしているでしょうか?

 こちらは非常事態であります


「や、やつが」


─転生して新たな人生かと思いきや、魔王になってしまいました 

 まさかヒーローを願っていたのに悪役の黒幕になるとは……


「人間界の街に“勇者”が現れました!」


─嘘やん


「どどど、どど、どういたしましょう!?」


「狼狽えるな 直ぐに手を打つとしよう」


 俺は何の策も無しにのりでそんなことを言ってしまう。

 しかし配下のその悪魔は「流石、新魔王様!」と呟いて下がっていった。


─さて、どうしようかな


 真剣にこれまで以上に頭を抱えるのであった。






─あ、………敬具




□□□




 魔王の元へ優秀な配下たちが集った。


「お呼びでしょうか 魔王様」


 その中でも飛び抜けて優秀な悪魔が六体。その六人が玉座に座る俺の前に横並びで跪いた。


─俺まじで魔王やっちゃってるよ どうしよ


 跪く六人を見下ろし我に帰る。

 集めろと言ったのは自分であるがまさかこうなるとは。


 俺が想像していたのは一人執事のような者がやって来て何か提案をしてくれるのだろうと思っていた。


 予想が大きく外れたが今は話を進める。


「………今の事態を知っているな?」


 特に何の策もない俺は時間を稼いだ。


「はい ここの者全て理解しております」


─本当に優秀だな 俺が元人間だなんてバレないよな? 


 どうしたものかと考えるがやはり何も浮かばない。

 生まれて間もない俺にこの世界の知識が無さすぎる。


─いや、待てよ……


「我は魔王だ しかし誕生して間がない故に無知だ 今は知る必要がある」


「お言葉ですが魔王様」


「何だ?」


「つまりは勇者は放置、と言うことでしょか?」


「不服か?」


「いえ、私たちは魔王様の配下故に魔王様のお言葉は絶対 我々勇者の様子をしばし伺うことにします」


「うむ、よかろう 下がりたまえ」


「はっ」


 六人はそのまま不満もなく去っていく。


─……………だ、大丈夫か? 何とか誤魔化せたか?


 俺個人として勇者を敵にするなど断じてあってはならない。どうにか勇者と接触を避けなければならない。


 それにはやはり無知すぎる。


─取り敢えず今は放置でいいだろう 人間界の街って事はかなり距離は有る筈だ


 そこで俺はいろいろ調べてみることにした。




□□□




 私は魔王様直属の配下。最優秀の六人の悪魔〈六人の魔神〉の一人である。


─くぅっ、魔王様なんと神々しいお姿 歴代の魔神様の中でもトップクラス 


 私は立ち眩みに襲われ片膝を着いた。

 しかしその後に沸々と勇者への殺意が湧いて出た。


─おのれ勇者 絶対にぶっ○す 魔王様には指一本触れさせはしない!


 怒りが爆発寸前にまで沸き上がる。

 すれ違う下級悪魔たちは小さく悲鳴を上げ早急に横を通り過ぎて行く。


―我が愛おしき魔王様………ではなく、我らの魔王にあだとなる者など生かして置けぬ


 私の魔王様………ではなく、我ら悪魔種の為、魔王様のために行動する。


 他の五人は既に自分の持ち場へと戻って行ったが私は暫く勇者の様子を伺うべく〈六人の魔神〉のその下の配下たちを集めるのであった。

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