勇者に転生!!……したかった魔王の話
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第1話 勇者……だったらよかったのに
「もう先は…………長くはないでしょう」
ある朝、医師の先生からそう告げられた。
その言葉はベッドで横になる俺を含め、家族全員が聞いていた。
両親が静かに涙を流すなか、俺はゆっくりと目を閉じる。
─どうやら俺はここまでのようだ あと数日の内に死んでしまうらしい
小さい頃から体が弱かった俺は当時病院を入退院を繰り返していた。
病名は不明。症状は時に異なるがだいたいは呼吸困難や意識障害など日常で支障をきたすものばかり。
物心ついた時には何となく、そんな予感はしていた。
死ぬのが先か、叶うのが先か。
病気の改善意外に小さい頃からずっと諦め切れない夢があった。
“
正義のヒーローが悪を倒す。
そんな子供が見る夢だ。現実に置き換えるなら警察や消防士、医者だろうか。
何でもよかった。そんな人を助ける存在になりたかったんだ。
□□□
数日後
五月七日 午前十時四分───
─俺は三日前に十七になった
─俺はとうとう死んでしまったようだ
目が覚める筈のない俺は目を覚ます。
─ここは…………
目を開くとそこには知らない人がこちらを覗き込んでいた。
─え、誰?
声に出す事は出来ないが意識はしっかり、明確にあった。
目を開いた俺と丁度目が合う。
―……………
見たところ女性のようだ。
あまり人と接する機会が少なかった俺は声を出す事が出来ないにも関わらず無言になる。
すると、その女性はにっこりと笑い、喜んだ。
「まあ、ようやく目が覚めたのねレンマ?」
─なぜ俺の名前を?何処かでお会いしましたかね?
「あなた、レンマが目を覚ましましたわ」
─あなた?
「おお!レンマ、レンマよ。やっと目が覚めたのだな」
すると今度は男性が──抱き抱えた!?
どういう状況か全く分からずに唖然とする。
「よし、儀式の準備だ!」
─儀式?
話すことも出来ないまま、置いてけぼりにされどんどん進んでいく。
―何がどうなっているんだ?もしかして今俺は赤ん坊なのか?
何となく動けない状況や話せない状況からそう考えた。
─それにしても何故?
俺は二人に連れられるままに儀式?とやらが行われる所へ着く。
どうやらここは大きな城のようで真下には群集。人だかりが出来ていた。
そして俺はこれまた知らない老人が俺を抱き抱えるとかなりの高さがある所から身を乗り出す勢いで空へ掲げる。
─お、おおぉ?
まるで何か奉るように捧げられた俺はこの時、謎の感動で目を見開いた。
ひとしきり掲げられた後、その老人が叫ぶ。
「たった今、子孫が誕生し、目を覚まされた!」
─し、子孫?
「これは我々世界を救う第一歩となる!」
─世界を、救う?
なんだ?なんだそれ?
─もしかして俺って………
俺の期待は最高潮へ。夢でも幻術だろうがお構い無しだ。生涯ずっと望んできたものなのだから。
「ここに………」
老人は間を開け、大きく息を吸い込むとその言葉を叫んだ。
─勇者?勇者が誕じょ…
「魔王の誕生だぁ~!」
「「「「うおおおおおおっ!」」」」
俺はいち早く悪夢から目を覚ますために失明する勢いで目を瞑ったのだった。
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