第9話

「タヌ子―! これ郵便局に出しに行ってくれるー?」


タヌ子にお使いを頼んだ。


「タヌ子の本気、見せたるわー!」


タヌ子は目と眉をシャキーンとして、尻尾をピーンとたてて僕から封筒を受け取ると、猛々しく出て行った。


郵便物持って行くのにそこまで本気出さなくてもいいんだけど。



「ヒロキさん、なんで彼女さんのこと、タヌ子って呼んでるんですか?」


「ん?だって、タヌキじゃん。タヌキだからタヌ子」


「何でタヌキなのか謎なんスけど、あんなにキレイなのに。失礼じゃないスか?」


「内田の目には、タヌ子はどう見えてるの?」


「どうって、背もスラっとしててスタイル良くて、髪もサラサラで、めちゃ美人。」


「ん、信楽焼きのタヌキみたいにお腹プックリ出てない?」


「…。ヒロキさん、いっぺん眼科行った方がいんじゃないスか?」


「んー。俺も最近そんな気がしてきた。」



タヌ子は事務所を出てから一時間近くたっても帰ってこなかった。


ここから郵便局までは、10分もあれば着く。


さすがに少し心配になってきたら、やっとタヌ子は帰ってきた。


ニコニコしながら、鯛焼きがたくさん入った包みを大事そうに抱えて。


「この辺って、いろいろお店あるんだねー! いい匂いにつられて行ったら、鯛焼き屋さん発見したの! なんか有名店みたいで、人いっぱい並んでたんだけど、がんばって買ってきたよっ!」


鼻息まじりで得意げに言っている。


「白、黒、カスタード、チョコもあるよー。どれがいいー?」


「タヌ子…郵便出してくれた?」


「! ! !」


タヌ子は全身の毛を逆立てて、郵便局に向かってまっしぐらに走っていった。


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